【舞台探訪】『Root Film ルートフィルム』&『√Letter ルートレター』ご縁の国島根を歩く舞台探訪

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6、7日目
隠岐諸島・西ノ島


美保関を出たあとは、近くの港である七類港へ。ここからフェリーに載って『Root Film』の舞台のひとつである隠岐諸島の西ノ島へと向かう。正直、西ノ島にいくかどうかは旅の途中も迷っていた。何せこの島と来たら、美保関の近くの七類港からフェリーで約3時間、到着は12時すぎ。その日の帰りのフェリーは約3時間後。日帰りは難しいし、かといって一泊するだけの島なのだろうかと迷っていたのだ。(七類港から高速船を使えば1時間くらいで着くのだが、ゲーム内の登場人物たちはフェリーでの旅を楽しんでいるし、ゲーム内にデッキが登場する。もし行くのならこれもなんとかして撮影したいのだ。)
ただ、ここまで『ルート』シリーズに導かれるようにして歩んできた島根県の旅は舞台探訪という枠を超えるかのような充実感があり、旅として満足感の高いものだったので、前日の美保館から宿を手配して行くことにした。島に着けばレンタカーを借りられるらしいので、車は七類港の駐車場に預けて乗船。作中と同じく9時30分発の”くにが”というフェリーに載り、ちょっと奮発して特等室へ。このフェリーの特等室は、船の前方にあり、一部の部屋からは海の上を進むフェリーの船頭を観ながら航海を楽しめる。窓にスマートフォンのタイムラプスをセットしてみたが、なかなか見られない光景が撮れていた。西ノ島別府港に到着したのは12時過ぎ。この港と島前内航船を撮影し、島の旅が始まった。

フェリーくにが(RF)


別府港(RF)


内航船 いそかぜ(RF)


西ノ島に到着したあとは予定通りレンタカーを借りることにした。ただ、ここで大きな誤算があり、なんとこのレンタカー、当日の17時にお店が閉まるため一日レンタルの場合は17時までに返却を終えなければならない。しかも、僕たちが島についた次の日はレンタカーは予約でいっぱい、キャンセルが出ることもまずないという。島にレンタカー会社は2社しかないので、西ノ島に行くという方は事前の予約をオススメしたい。(そもそも小さな島のレンタカーがたくさんあると思っていた僕がどうかしている。)
車が使えるリミットは17時ということで、舞台探訪の目的地としては一番遠い摩天崖を目指すことにした。道中、にしわき鮮魚店というお店で昼食をとった。今回の旅、島根で食べた海産物は全て美味しい。サザエご飯の食感もたまらない。ここでは白するめイカがくるくると回っている光景を見ることができた。調子に乗ってその一夜干しも注文してみたところ、何も調味料がついてこないことに驚いた。海の潮の味で十分に美味しいと教えられて、裂いて食べてみたら、本当にその通りだった。
ゲームに登場する由良比女神社にも立ち寄った。神社の近くに海上鳥居があり、その前に広がる由良の浜は、秋から冬にかけてイカが押し寄せることからいか寄せの浜とも呼ばれる。最近は水温の上昇もあり、ここ4年くらいは不漁が続いているとのことだが、何年か前までは、このイカ寄席の浜で、地元の人たちが大量にイカを手づかみでとれるくらいの状態だったらしい。イカが陸にあがると歩くとか、イカの鳴き声がうるさいとか、次の日乗ったタクシーの運転手さんにいろいろ教えてもらった。イカが歩く、イカが泣く、全然想像がつかないが、本当なのだろうか。

由良比女神(RF)


▲イカの形をした飾りが神社の近くにはかけられていた。

摩天崖に向かうまでの道は、牛や鹿が放牧されていて、道路の真横に彼らが横たわっていることもある。僕らは経験しなかったが、道路の真ん中に彼らがいることもあり、そういった場合は動物優先のため、無理にどかせてはならないらしい。サファリパーク状態の道路を走り、山を登ってたどり着いた摩天崖は、その名前の通り物凄い高さの崖の上だ。しかも、大地の端のほうには、言い訳程度の柵がしてあるだけで、何かの手違いがあれば落ちてしまいそうは雰囲気さえある。安全性を考えるならもう少し柵などを大きくするのだろうが、西ノ島のこうした名所は、景観を重視して露骨な人工物を入れないようにしているようだ。

摩天崖(RF)


▲道路に平然と現れる牛。

昼の15時から遊覧船を予約していたので、車で西ノ島にあるもう一つの港である浦郷港へと向かった。あいにくこの日は海が荒れており外海には出られないとのことだった。つまり、国賀海岸方面の大きな見所である赤壁などを海側から見られず、明暗の岩屋を通り抜けることもできないということだ。この日の天気は晴れていたが、海の機嫌は別物、残念だが仕方ない。港の近くの運河などを解説を受けながら一時間ほど周遊してもらって、爽快な船旅を楽しむことはできた。ただ、海側から見るはずだった景色に少しでも近づきたいということで、レンタカーを返したあと、タクシーを手配して国賀海岸方面へと向かった。浦郷港から車で15分くらい。徒歩でいくには遠いからだ。

タクシーの運転手さんの話を聞きながらたどり着いた国賀海岸は、山の上の駐車場から見下ろす景色だけでも、絶景であることがわかった。駐車場から徒歩で降りていくと、通天橋などを目視でいる位置まで近づくことができる。国賀海岸に向かうまでの間、タクシーの運転手さんに、駐車場で待っていてもらってもいいですか、もちろん停車中のお金は払いますのでと申し出たところ、待つのもいいですけど、満足見て電話してきてくれたら迎えに来てあげますよと言われてしまった。駐車場から見た景色を見ただけで、運転手の人がそう言ってくれたことに感謝した。下まで降りるのに15分、そこで景色や夕日を見るのに30分はかかるだろうか。
今までにいろいろな景勝地を観たが、これほどのものがあっただろうかと今までを振り返るほどに凄みがあった。しかも、僕たちの他にも誰もいない。「貸切のような状態でした」とあとからタクシーの運転手さんに伝えると、「いつも貸切みたいなもんだよ」という。カメラで写真を撮り、GoProで動画も収め、気持ちを落ち着けてしばらく夕日を見た。日が沈んでからの余韻に満ちた光まで味わってからタクシーを呼んだ。タクシーの運転手さんに興奮気味にその体験を伝えると、西ノ島の魅力をゆっくりと語ってくれた。遊覧船が外海に出られなかったら、こんな贅沢な体験はできていない。

▲駐車場付近から見た国賀海岸の夕焼け。

▲通天橋。岩が海流によって浸食されてできた空洞。次に来るときは少し形が変わっているのかもしれません。

▲ポケットにいれておいたフィルムカメラで撮影。

この日の宿は国賀荘。夜ご飯を食べられる店はほとんどなさそうだったので、ここで夕食、朝食もお願いした。夕食には隠岐諸島近辺で取れた海産物とその加工品がたくさん出てきて、食べたことのないようなものもいくつかあった。この時期はいわがきの旬ではなかったものの、出てきたいわがきは冷凍とは思えない瑞々しさで、300円でおかわり可能と言われて思わずおかわりしてしまった。多彩な色の殻を持つヒオウギガイなど見た目に美しかった。そして、一番気に入ったのが、ここで食べたイカの塩麹漬けである。イカを塩麹でつけたこのおかずと白米の相性が大変なことになっている。どこかで買えますかと聞いたところ、どうも自家製のようだった。この国賀荘、部屋に置いているお菓子なども大変美味しく、思いがけない食体験に恵まれた。

△こちらが国賀荘。西ノ島にきたらまたここに泊まりたい。

7日目:
西ノ島


西ノ島二日目は、レンタカーが使えないので、人生で2回目くらいのレンタサイクルを活用することにした。普通の自転車、マウンテンバイク、電動アシスト自転車の3種類から選べるということで、迷わず電動アシスト自転車を選択。昨日車で島を回ったときに、この島は坂道が多いということに気づいたからだ。奥さんの提案で、焼火神社(たくひじんじゃ)へと自転車で向かうことにしたが、心底電動アシスト自転車を選んで良かったと思った。なにせ道中には、電動アシスト自転車でもぜいぜいいうような坂道がたくさんあり、自販機もほとんどなかった。おまけに、片道40分近くかけて着いた神社の入り口らしき場所から、本殿に到着するまでかなり過酷な階段が待ち受けていたのにも驚愕した。観光案内所のお兄さんに「焼火神社まで電動アシスト自転車でいけますかね」と聞いたところ、爽やかな笑顔で大丈夫ですよと言われたのだが、彼はきっとスポーツマンだろう。

△電動アシスト自転車ですらたどり着くのが大変だった焼火神社。岩穴に入り込んだ建物が気になります。

ぜいぜいいいながら観光案内所へたどり着き、おひるごはんまでまだ時間があったので、今度はタクシーを呼んで赤尾展望台に向かうことに。摩天崖と同じく、牛や鹿が放牧されている山を登っていくのだが、観光の案内に慣れたタクシーの運転手さんが、牛や馬にどこまで近づいていいかを把握していたことで、かなり近づいた状態で彼らを観ることができた。しかも道中でいろいろと現地の情報を聞くことができた、西ノ島の牛は全国に買われており、買われた土地の牛として最終的に出荷されている話や、隠岐の島行われている闘牛の話、美味しいご飯が食べられる旅館の話などを聞くことができた。西ノ島に来てからタクシーに二度乗ったが、運転手さんたちは西ノ島が大好きだと言っていた。そして、彼らはとても暖かく、僕らのようによそからくる観光客を迎え入れてくれた。運が良かったのか、島根県の人の温かさなのかはわからないが、今回の旅は出会う人に恵まれたものとなった。

西ノ島の道路(RF)


▲赤尾展望台

お昼ご飯は、作中に文字だけで登場するコンセーユのサザエカレー。島じゃ常識らしいこの不思議なカレーは、サザエの弾力ある食感が以外にもマッチしていてするりと食べてしまった。島内に飲食店が少ないこともあってか、店には多くの人がいた。貸し切りになることも多いそうなので、確実に食べたいという方は電話予約をオススメする。

▲作中の会話にも、観光ガイド的な情報が詰め込まれている。

▲コンセーユさんのサザエカレー。

正直最初、この島に来る前は、景色がほどほどに綺麗な場所があるだけだろうと思っていた。おそらく『ルート』シリーズを遊ばなければ、西ノ島に興味を抱くこともなく来ることもなかっただろう。しかし実際に来てみて、僕も奥さんも、想像を絶する素晴らしい景色と、島の和やかな風土にすっかり魅入られてしまった。実は、今回の西ノ島の探訪で、存在を確認していたもののひとつだけ立ち寄れなかった場所がある。それはゲーム内では西ノ島の中にあると描かれていた月あかりカフェである。実際のこのカフェの所在地は隠岐の島・島後、西ノ島から船でしか行けない場所にあるのだ。しかも、開店日が限られているので、今回の旅ではやむを得ず断念した。次回はここの探訪を楽しみたいと思う。

昼過ぎに七類港に到着し、その足で残しておいた舞台探訪スポットである島根縁結び空港にも行った。島根県の「しまねっこ」のポップが立っている到着ロビーを撮影して今回の探訪は終了。思えば、しまねっこを随分と見た旅だった。思わずTシャツやグッズを買ってしまった。

島根縁結び空港(RL)


以上が、今回の『ルート』シリーズの舞台探訪の記録になる。

途中でしみじみと思ったのだが『ルート』シリーズの2作品は”島根の観光ガイド”としても実に有用な作品なのだ。『√Letter』の背景として使われている舞台を巡るだけでも、松江や出雲の主要スポットを抑えることができ、『Root Film』ではよりディープな島根に触れることができる。そして、画像として登場しない場所でも、登場人物たちのセリフを追いかけていくと、そんなものもあるのかという新たな発見があったりする。どこかに旅に行きたいという願望を抱えている方がいるとしたら、今から是非両作品を遊んでもらいたい。
同じ島根県とはいえ、津和野から美保関まではかなり離れていて、『√Letter』の舞台となる松江だけでもかなり広大なので、長めに日程を組んだが、それでもまだ足りないと思うほどだった。まず、島根県が思っていたよりも広かったし、まだまだ見れていない場所がたくさん存在することを知ってしまった。舞台探訪の場所を点と点で結んで移動していると、あれはなんだろうというようなものが次々と目に飛び込んでくるのだ。そういったものを見つけるたび、また絶対に来るという気持ちが湧いてくる。加えて、津和野、温泉津、出雲、松江、美保関、西ノ島。立ち寄った場所の全てで、現地の人の地元愛を感じる瞬間があったことも、再訪の原動力になるだろう。パンフレットひとつとっても、ものすごく丁寧に作っているし、ちょっと話を聞くと思っていた以上の答えが返ってくる。

ちなみに、うちの奥さんは舞台探訪で島根を回るということに懐疑的だったが、旅を終えた今は島根県の話ばかりしている。

僕自身が抱いていたゲームへの感想も大きく変わった。まず『√Letter』について今までは、主人公の猪突猛進すぎる性格、登場人物たちのアクの強さ、そして作中で起きる唐突にすら感じるオカルトじみた出来事などを観て、奇怪な作品であると思っていた。しかし島根県を回ってみると、この土地を舞台としたならば、この奇妙なプレイフィールも納得できるとすら思わされるのだ。古から語られる場所に紐づく神様たちのエピソードは、時に現実離れしたものとして我々を驚かせるし、小泉八雲が描いた怪談の世界などもシナリオに影響を与えたのかもしれない。唐突にUFO研究所なる施設がゲーム中に登場したのには驚いたが、これも松江周辺を散策していて経緯を推測することができた。松江にはUFOというパチスロチェーンが目立つ形でいくつかあり、そこからインスピレーションを得たのではないだろうか。『Root Film』についても、ミステリーというテイストは島根という場所と実に相性がよい。大きなネタバレを避けるためふんわりと書くが、黄泉比良坂と言う場所をきっかけに物語が動き出すこと、そしてそのミステリーのひとつの答えがここしかないという場所で明かされるという作りには、なるほどと唸らされた。

今回、この舞台探訪をするうえで、特定できない場所が数カ所あった。『Root Film』に関するもので、レストラン・ベアー、レストラン・ボラーレ。そして記事中でも触れた中海らしき場所の港はゲーム内の画像と写真で見た目が異なるため、ここも完全に特定できたとは言えないだろう。また、事件が起きるということで実際の場所から名前を変えたのではないかと推測される龍乃前神社など。これらの場所は実在するのか、またあるとしたらどこなのかというのを開発スタッフに聞きたくて仕方がなくなり、舞台探訪の最中にダメ元で角川ゲームスの安田善巳社長にコンタクトをとってみた。そこで得た答えは「事件が起きる場所は実在の場所を避けた、または途中で設定変更した」というものだった。『√Letter』についても、一部実在の名称ではない場所が登場するのはそういった事情がありそうだ。

そして、いちファンの疑問に暖かく答えてくれたうえに、なんとインタビュー企画の提案までいただいた。
大メディアどころか、場末のバーのようなメディア、そもそもメディアと言えるのかわからないGozilineにだ。

引き続き掲載するインタビュー記事では、今回初めて語られる制作秘話なども満載なので、見逃さず読んでもらいたい。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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