Goziline×『ルート』シリーズ01:安田善巳プロデューサーインタビュー【『√Letter ルートレター』&『Root Film ルートフィルム』】

本記事では、Goziline×『ルート』シリーズコラボ企画として、『√Letter ルートレター』、『Root Film』のプロデューサーである安田善巳氏のインタビューをお届けする。
『ルート』シリーズのキーマンである安田氏は、出身地でもある島根県の魅力を世界に発信するというテーマで作品の制作を始めたという。本インタビューでは『ルート』シリーズの成り立ちと、クリエイティブの源泉について伺った。

△角川ゲームスの代表取締役社長であり、『ルート』シリーズのプロデューサーでもある安田善巳氏のインタビューを掲載。安田氏の島根愛は『ルート』シリーズの中に色濃く落としこまれている。

――『√Letter ルートレター』を制作することになったきっかけについてお聞かせください。島根県を舞台にしたゲームという構想は、どの時点からあったのでしょうか。

安田:7年前の2013年の春頃だったと思いますが、島根県庁の企画局にいた高校生時代の同級生から、ゲームで島根県の魅力を世界に発信できないかとの相談があったのが最初のきっかけです。ちょうどその頃、僕は『ロリポップチェーンソー』というゲームを発売したばかりの時期で、このタイトルのグローバルパートナーであるワーナーブラザーズのトップとお会いする機会がありました。そこで、「日本のゲームクリエイターには、日本の文化を世界に発信する作品をどんどん作ってほしい」と激励していただいたのも大きな出来事でしたね。

私自身も、一見マイナーかもしれないけれど、日本の地方の人々や暮らしをテーマとするゲームは、もしかしたら日本に興味をもたれている海外のゲームユーザーに支持してもらえるかもしれないと考えていたんです。ただ、その頃は既に『艦隊これくしょん -艦これ-』とか『KILLER IS DEAD』といったタイトルで手一杯でしたので、すぐに行動には移せませんでしたが、落ち着いたら具体化しようと決心しましたね。

――『√Letter ルートレター』の開発チームはどのように組まれたのでしょうか。

安田:企画が具体化してきた頃には、『GOD WARS 〜時をこえて〜』や『スターリーガールズ -星娘-』といった自分がディレクターを務める作品の開発が進んでいて、『√Letter ルートレター』を僕以外の人に作ってもらうにはどうしたら良いか考えました。難しかったのは当時「日本の地方をテーマにしたゲームを作っても売れないよ」という空気が蔓延していたことです。

そこでまずは社内の開発スタッフに島根県を訪ねてもらい、「やりましょう」と言ってくれるかどうかで判断することにしたんですが、開発スタッフからは前向きにやりたいという声をもらったんです。そこでプロジェクトとして活発に動き始めたんですね。外部のクリエイター、シナリオライター、イラストレーター、サウンドクリエイターの方々は、当時ご縁があった方々と組みました。

△『√Letter ルートレター』のキャラクターデザインは箕星 太朗氏が担当した。

――作中には実在の場所が多く登場します。これらの場所を登場させるにあたり、島根県にはどのようなアプローチをしたのでしょうか。ミステリーと言うテーマがあることで、許諾などが難しい場所もあったと思われますが、ジャンルの変更などは考えなかったのでしょうか。

安田:島根県には、ありのままの姿を表現したいので実在の場所をゲームに使わせてほしいとお願いをしました。ゲーム化するのは難しい場所もあるだろうと思っていたのですが、基本的には全面的に協力していただけることになったんです。そのかわり、殺人事件をテーマにするのはなしにして欲しいという条件がつきました。

この条件については、僕自身も場所だけでなく実在の人物にも登場して貰おうと企画していたので、方向性として一致するものがあり受け入れることにしたんです。ただし、ゲームのジャンルについては、登場人物や舞台をしっかりみてもらうということを考慮し、やはりミステリーアドベンチャーゲームが良いだろうという結論になりました。

――『√Letter ルートレター』は、ミステリーとしても斬新なシナリオが話題になりました。私も最初遊んだ時、正直なところ“変わったゲームだ”と感じたのですが、このシナリオを採用した理由についてお聞かせください。

安田:そもそも、企画を共有するために、開発チームが作った『恋ゆきき。』という名称のコンセプト映像がありまして、当初の予定では夜行列車で島根の文通相手に会いに行く甘酸っぱい恋愛ミステリーアドベンチャーゲームを目指していました。しかし、出来上がったものをプレイすると、想像していたものとはテイストが異なるものになっていたんですね。「不幸にも起きた火事で逢わなくなった同級生が、ふたたび、凍結した時間を溶かしていく」というメインストーリーはミステリーとして存在感があるのですが、解決のヒントを得る方法がユニークすぎました。

ディレクターやシナリオ担当など開発チームの意見を尊重してその形でリリースしたのですが、プロモーションについてはそういうテイストのゲームであることをもっと早く伝えるべきだったと反省している部分でもありますね。

△『√Letter ルートレター』は主人公の猪突猛進な推理が展開される”マックスモード”がユーザーの度肝を抜いた。

――作中に登場するスポットは実に多彩ですが、これらはどのように選ばれたのでしょうか。

安田:どういった場所を使うかといった部分や登場人物の設定は僕の方で考えました。原作者の仕事かもしれませんが、立ち上げたのが自分ということもありますし、制作陣の中では島根に一番詳しいからですね。ただ、そうした自分の知識だけではなく、現地の方々から得た情報も取り入れました。たとえば、このゲームは高校生時代の出来事がメインとなるストーリーですので、現役の地元の高校生に話を聞いたんです。
松江南高校の学生さん10人に時間をもらい、放課後、どこに行って何してるから始まって、休日には何してるとか、デートするならどこに行くといったことや、卒業後の進路などをインタビューしました。また、生活や将来に対する意識なども聞かせてもらい、そうした空気を作品の中に取り入れました。

△ゲーム内にも観光ガイドを実装している。

――『√Letter ルートレター Last Answer』についてお聞かせください。完全版というだけでなく、実写での表現に取り組んだ作品ですが、この企画はどのように生まれたのでしょうか。

安田:そもそも実在の人物がアニメで登場するゲームでしたし、彼らが実写で登場したら面白いのではというアイディアがあったんです。それを実現に移したのは、オーディションでスリジエの山本あこさんにお逢いしたのがきっかけですね。彼女なら伝説の美少女「文野亜弥」を演じることが出来る。アニメ画の世界を100%再現できると確信しました。

▲『√Letter ルートレター Last Answer』は『√Letter ルートレター』の完全版ともいえる作品で、実写版も収録されている。文野亜弥役はスリジエの山本あこさんが演じている。

――『√Letter ルートレター』後に『Root Film ルートフィルム』の企画が立ち上がった経緯について。同じ舞台で続編をやる上でどういった試みをされたのでしょうか。

安田:『√Letter ルートレター』は松江を中心とした舞台になっているのですが、島根県庁さんから「できれば島根全域を舞台とするミステリーアドベンチャーをもう一度作って欲しい」との要望がありました。島根全域となるとかなり広いですし、そうなると方言やカルチャーが場所によって異なるので、方言の実装はあきらめ、標準語に統一したという裏話があります。
また、実名の登場人物はほとんどなくしたのも大きな変化ですね。その代わりに架空の殺人事件の謎を解くサスペンスミステリーに、ゲームのテイストを振り切りました。

▲『ルートフィルム』は島根県全域を舞台とするミステリーアドベンチャーを目指して作られたそうだ。

――島根県は神々の国とPRされることもある神話に縁のある土地になっています。安田さまの作品である『GOD WARS』でも、神話をテーマにしたストーリーが展開されますが、こうした作風の源泉についてお聞かせください。また、これらのゲームを通じて、神話に興味を持ったプレイヤーにオススメする書籍、体験などがあればお聞かせください。

安田:日本をテーマにしたゲームを作ろうと考えたとき、僕自身の経験やこだわりを生かした作品が良いだろうと考えました。そこを突き詰めて、ライフワークとして研究して来たテーマである日本神話をモチーフにして、最も愛着のあるゲームジャンルであるシミュレーションRPGで作ることにしたんです。1980年代から90年代にかけて海外で仕事をすることが多く、国際社会の中で日本や日本人の特殊性を問われる局面を何回も経験しました。それこそ「日本人は何者なんだ。理解できない」という風に、文化や価値観が相違する中で、日本や日本人を理解してもらおうと努力してきました。それから30年。今や日本は世界の人々から理解される存在に変わりました。むしろ、理解されるどころか、アニメや日本食は愛され、こだわりのものづくり文化はリスペクトされる時代がやって来ました。

これって、かつてアニミズム信仰の日本人は欧米人に比べて文化水準が低いとか、ただのエコノミックアニマルとか言われてきた僕にとっては凄いことなんです。自分たちや日本人を美化したいわけではありません。我々日本人はどこから来てどこに向かうのか。悠久の時をこえて受け継がれて来た文化やアイデンティティーについて、沢山のゲームユーザーに興味をもって欲しいとの気持ちで取り組んでいます。これからも、ゲームを遊んだあとに現実の世界が広げられたり、ゲームがきっかけとなって興味を持ち、もっと知りたいと思ってもらえる物語性のあるゲームを作って行きたいですね。

――『ルート』シリーズの今後(もし続編を作るとしたら、島根を舞台とするものをまだやる可能性はあるのでしょうか。島根ではなくとも、舞台をかえたものの可能性は如何でしょう。また、以前に発表された映画版などの進捗、翻訳版国外展開の現状、これからについて)について質問させていただくことは難しいでしょうか。

安田:『ルート』シリーズが目指したものは、地元の皆さんに愛される作品になることや、島根を訪れるきっかけとなるゲームになることでした。万が一、そこを踏み外すと、殺人事件のトリック解明がメインの、単なる旅情ミステリーサスペンスゲームになってしまいかねませんから。そういう意味で、シリーズ2作品の評価がくだされるのには、もう少し時間がかかると思いますし、今のところゲームとしての続編は未定です。一方で、『√Letter ルートレター』のハリウッド映画化につきましては進展しています。映画会社よりいずれ公式発表があると思いますので、楽しみにしていてください。
 
――ありがとうございました。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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