今回の記事では、2017年11月19日に発売されたプレイステーションVita専用ソフト『俺達の世界わ終っている。』の制作に携わったディレクター・森田直樹氏へのインタビュー模様を掲載します。レッドカンパニーを前身とするレッド・エンタテインメントが世に送り出した本作は、多くのアドベンチャーゲームファンを唸らせ、口コミなどでその魅力は徐々に拡散中です。
今回の企画で聞き手を務めたゴジラインの代表・浅葉たいがも、その「神ゲー」の魅力に取り憑かれてしまったプレイヤーの一人です。
どのようにしてこの超大作は生まれたのか、時間の限り聞き尽くしたインタビューをお届けします。
※本記事の『俺たちの世界わ終っている。』のネタバレ成分が少し含まれています。できる限り、プレイ後にお読みください!
【ネタバレ成分薄めのプレイレポートは以下】
ゴジライン過去記事【プレイレポート】『俺達の世界わ終っている。』が変態的に面白いゲームだった
なお、本作品には、プレイステーションVitaで遊べる体験版が用意されているので、作品の雰囲気を知ってみたいという方は、まずこちらを遊んでみてください。
森田直樹 氏:『俺達の世界わ終っている。』ディレクター。本作の監修、シナリオ執筆のほか、ゲーム内素材や各種広告デザインなども手がける。レッド現役最古参にして企画室長。
実はサクラ大戦の開発にも最初から参加していた“バンカラ企画屋”。
『俺達の世界わ終っている。』制作ブログ「企画屋稼業」
発売日:2017年11月9日
プラットフォーム:プレイステーションVita
ジャンル:新世界アドベンチャー
価格:パッケージ版6800円+税、ダウンロード版6296円+税
パッケージ版には早期購入特典として小冊子が付属。
レッド・エンタテインメント
公式サイト
『オレオワ』の初期プロットは10万文字
――今日はメイキング オブ『俺達の世界わ終っている。』(以下『オレオワ』)というテーマで、『オレオワ』についての制作話などを伺いたいと思います。コンシューマーでの新規IPということで、とても気になるタイトルだったのですが、遊んでみて衝撃を受ました。こんなに面白く、濃ゆいアドベンチャーゲームを遊んだのは、本当に久々だったんです。遊び終えてから今日まで、このゲームはどうやって生まれたんだろうと気になって仕方がありませんでした。
森田:ありがとうございます。僕としては、今回はとりあえずユーザーさんに面白いと言ってもらいたいという一心で作ったものなので、浅葉さんが突然Twitterで「傑作!」って言ってくれたのは心強かったです。実はちょうどエゴサしてて、あの呟きはリアルタイムで見てたんですよ。しかも、ゴジラインさんの公式でのプレイレポートがかなり早い段階で上がっていて社内でも騒然となりました。
――ひとりでも多くの人に知って欲しいと思ったんです。プレイレポートのほうにも書いたんですけど、このゲームにはいろいろなものが含まれていますよね。ラブコメであったり、サスペンスであったり、ギャグであったり、ジャンルをどう説明していいかわからない。そんな混沌としたゲームなのに、どの要素もしっかりと描ききっていて、とにかくプレイ後に圧倒的な満足感があったんです。
森田:制作にあたっては、難しいことは考えないで、わりとナチュラルに作ったつもりなんですよ(笑)決してカオスなものを狙って作っていたわけじゃないんですけど、でも、遊んでくれたみなさんからは、このゲームをどう説明していいかわからないという意見をずいぶんともらいましたね。ストーリーのジャンルとして何をやるというのは決めてなくて、「面白いもの」というのが僕の考えていたとりあえずのジャンルでした。
――森田さんの、「面白いもの」へのこだわりは、どういったところに源泉があるのでしょう。
森田:いまのレッド・エンタテインメントって、ブランドとしてはぜんぜん弱くて、若い人は知らないでしょうし、かといって昔からゲームで遊んでる人たちからすれば「レッドってまだあったの?」っていうくらいのポジションにいると思うんですよ。会社としてゲームを作っていないというわけではないんですけど、最近は乙女ゲーの方が目立っていると思いますし。だから、就活希望者への説明会をやると、女性の方が結構来てくれて、レッドさんの乙女ゲーみたいなものに憧れてるんですって言われたりして、愛していただけることについてはとても幸せなんですけど、乙女ゲーは僕が作ってるわけじゃないからちょっと寂しい気持ちになったり(笑)そんなこともあって僕なりの「レッドの血筋」みたいなものを感じるものを出したいなと考えていたんです。今のレッド・エンタテインメントのイメージを変えてやりたいという気持ちが僕の中に渦巻いていて、いろんな趣味嗜好を持つ人に「レッドってやるじゃん」って言って欲しかったというのが大きいですね。
1976年に広井王子氏が個人事業として立ち上げた「レッドカンパニー」が、1984年に有限会社化。株式会社ハドソン、セガなどのゲーム作品を数多く手がけた。2000年には、株式会社レッドカンパニーから営業譲渡する形で、株式会社レッド・エンタテインメントを設立。2014年には株式会社オーイズミの資本参加により、オーイズミグループの一員となった。●レッドカンパニー、レッド・エンタテインメント協力による代表作
『サクラ大戦』(1996年、セガ)、『みつめてナイト』(1998年、コナミ)、『アガレスト戦記』(2007年、コンパイルハート)
――僕は『サクラ大戦』が本当に大好きだったので、レッドがまた何かやっているぞという雰囲気を感じることができて、とても嬉しかったです。今のレッド・エンタテインメントの作品紹介ページをみると、思い入れのあるタイトルが多いんですよ。『みつめてナイト』や『北へ』、『天外魔境』なんかも、プレイした当時いろいろなものを揺さぶられた作品なんです。『オレオワ』を遊び終えた時にも同じような感覚になって、「ここまでやる必要があったのか」と思うくらいの満足感を得られました。
森田:そう受け止めてもらえると嬉しいですね。このゲームは、僕にとっても一つの挑戦だったんです。僕は10代の頃に、レッドカンパニーに憧れて、無理やり押しかけて、当時社長だった広井王子に弟子入りする感じで入れてもらったんです。今考えると、とんでもない入社の仕方ですけど(笑)僕にとってレッドという会社での企画者としての人生は、『サクラ大戦』の立ち上げ時期から始まったんです。『サクラ大戦』は滅茶苦茶大きなタイトルですが、それは広井王子とか藤島先生とか大物の方達がいてできたエンタテイメントでした。僕もその中で企画の立ち上げから関わらせてもらったんですけど、右も左も分からない素人同然の新人ですからね、着いていくのに必死でしたし。結局は会社のブランドだったり広井王子だったり、セガさんだったりに寄りかかっていた十数年だったかなという思いがあったんです。あれから時間もずいぶん経ちましたし、今いるスタッフ、今後のレッドのためにも、何かやりたいという気持ちはずっとありましたね。それに、実は僕が、この会社では唯一レッドカンパニー時代の生き残で、一番の古株になってしまいましたし。だから、タイミングとしては、今やるしかないなと思っていたんです。
――「今やる」と決めた時に、アドベンチャーゲームを制作することにしたのでしょうか。
森田:いまの時代の流れ的には、ソーシャルゲームやスマートフォンで遊べるものが主流なのかもしれませんが、僕たちがそれをやっても上手く立ち回れないだろうし、勝つのは難しいと思うんです。今のレッドは組織としてはそう大きくないので、運営が必要なゲームに挑戦するというのは現実的に厳しいですし、そもそも僕が作りたいのは別にガチャからキャラが出てくるような類のゲームでもないですから。だからこんな時代でも、僕たちが本当にやりたいことを、できることやろうということでアドベンチャーゲームを企画しました。きちんとエンディングがあるゲームですね。考え方としては古いかもしれないですが、僕はパッケージとしてお店に並んで、あるいはPSストアに並んで、残り続けるものを作りたかったんです。ソーシャルゲームって、運営が終ってしまったらキャラクターも、世界も、お話も何も残らないじゃないですか。それはあまりに寂しいので。だから、この予算とスケジュールでなんとかやらせてくださいみたいな、大人っぽい事をはじめて会社に対して提案したんです。
――会社内でのプレゼンの反響についてはいかがでしたか。
森田:企画を提案した当時は、「それは売れるの?」というような反応は当然ありましたね。リスキーではないかという意見も当たり前にありました。でも、そういう反応が自然ですよね(笑)会社としてやる以上、新しいものを投げ込んだら、波紋があるのは当然ですから。そもそも、新たにブランドを立ち上げるわけなので、一本で結果を出せるとは思ってませんでしたから、あくまで新世界プロジェクト第一弾として提案してます。それでも「もしかしたらこれは面白いかもしれない」というムードになったのは、最初のプロットを書きあげた頃ですかね。ただ、張り切りすぎてプロットなのに10万文字以上あって、最初はみんな読みたがらなかったですけど(笑)
――プロットで10万文字!かなりの分量ですね。プロットの時点から変化した点などはあるのでしょうか。
森田:いろいろな世界に行って、最後はこういう形で着地しますという大筋の部分は、最初のプロットからあまり変わっていないんですが、細かい部分は変わったというか、どんどん要素を付け足していきました。「ここでは何かイベントが起こる」というプロットの書き方をしている部分も多かったので、制作を進めながら補強した部分もありますし、僕の性分なのか、作っているうちに構成を組み替えたり、作り替えたりしてしまうんですよ(笑)
――タイトルについてはいかがでしょうか。
森田:タイトルについては、企画立ち上げ時から変わっていませんね。なぜこのタイトルになったのかというのは、プレイしてくれた方なら知っていると思うのですが、自分で考えておきながらちょっとベタかなあと思っていたオチだったので内心ドキドキでしたが。クリア後の感想で、受け入れてくれたプレイヤーさんが多いようだとわかって、ちょっとホッとしています(笑)
――『オレオワ』の良さってたくさんありますけど、キャラクターが素敵だったという感想を持っている方が多いように感じます。こうしたキャラクターたちは、どのような発想から生まれたのでしょうか。
森田:ジャッジメント7というメンバーの構成は、初期の段階で決まっていましたね。「ゲームを作る会社」で7人ということで、わかりやすく役割を考えました。プログラマーとかデザイナーとかですね。それと同時に、キャラクターには属性みたいなのをつけようと思ったんですよ。尾張だったら変態、七罪なら混沌といった形で考えていくと、七罪という名前が「七つの大罪」を連想させる字面になっていたので、そこから発想を広げていきました。七罪という名前のキャラが最初にいて、そこから七つの大罪的なものと向き合うキャラの設定が出来た時、お、なんか繋がったぞ、と自分で思いましたね。
――七罪をきっかけに話が広がっていった部分もあるのですね。
森田:七罪のイメージが膨らんでからは、お話も膨らんでいきましたね。特に七罪に対して、少女Aの設定が固まったことでストーリーの骨格が決まりましたから。彼女たちのイメージカラーは、七罪が黒、少女Aが白なんですが、現実世界の色って、集まれば集まるほど黒に近くなりますよね。一方で、デジタル世界の色は集まれば集まるほど白に近づいていきます。この場合の色っていうのはもちろん仲間たちのことで、そんな仲間との距離感、立ち位置の違いという意味を黒と白の二人に持たせましたし、物語の主軸としても面白いのではないかと思って、彼女たちにスポットが当たるシーンはちょっと多くなっていますね。
――ジャッメント7、七罪、七つの大罪とつながっていったのですね。新入りの主人公・零時はプレーンな人物ですが、彼はどのような発想から生まれたのでしょうか。
森田:最初は、尾張を主人公にするパターンもあるのかなと思ったんですが、尾張視点でやってしまうと、彼の魅力を描ききれないと思ったんです。基本的にフラフラしていて、変態で、ダメなところも目立つけど、しっかりとメンバーたちのことを考えているという真の姿は、プレイヤーに外側から触れてほしかったんですね。そのためにも、主人公とプレイヤーの視点を近づける必要がありますから。そこで、零時くんの出番になったんです。フラットな考え方の持ち主で、よく知らないこともたくさんあるから、それをプレイヤーと一緒に追いかけていくというゲームの形がそこで決まったんです。パッケージイラストを見て、尾張が主人公だと思っていた人も多そうですが(笑)