【メイキング オブ『俺達の世界わ終っている。』】物語の名手レッド・エンタテインメントはなぜ「神ゲー」を作り出せたのか【森田直樹氏インタビュー】

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『オレオワ』をより深くするスパイス


――舞台を浅草の街にされた理由についてお聞かせください。
森田:最初に企画の構想を練っていた時は、舞台をどこにするかはっきりと決めていなかったんですが、いざプロットを書き始めると、自分がかなり思い入れのある場所を選ばないと作り込めないのではと思い始めたんです。そこで、自分の中でどこを一番舞台にしたいかと考えた時、真っ先に浮かんできたのは浅草だったんです。僕は19歳の時にレッドカンパニーに入ったんですけど、当時の事務所の場所が浅草だったんですよ。

――浅草に実在するスポットや店舗が頻出して、不思議なリアリティを感じました。一文字だけ変えた形でゲーム内に落とし込むというのはよく見かけるのですが、ラブホテルの名前までそのままで驚きました。僕自身、浅草方面は仕事で通っていた時期があるので、好きな街なんですが、ゲームというフィルターがかかることで、また違った一面が見られました。

森田:せっかく浅草を舞台にするんだったら、いろんな場所を出したいよねということで、商店街やお店に交渉をしてもらったんです。最初は何の事だか分かってもらえないで、許可もらうのは難しいかなあと思っていたのですが、最終的には皆さん快く引き受けていただきました。今回、浅草のひさご通りをまるっと出しているんですが、「ラブホテルのスティング」さんはさすがに無理だろうなと思っていたので、最初の背景では「スプリング」という架空の名前に変えていたんですよ。そしたら、商店街の方から、「スティングさんも実名でやったらいいんじゃないですか」と逆に提案を受けたんです。これはとても嬉しかったですね。その他、洋食ヨシカミさんやアンヂェラスさんからもOKをいただけて、これはしっかりしたものを作らなければと気が引き締まりましたね。

△商店街の協力を得て、作成された背景画像。

△お店の許可を得て制作されたヨシカミ店内。

――ジャッジメント7の事務所には、何かモチーフがあるのでしょうか。室内もかなり細かく書き込まれていました。
森田:ジャッジメント7の事務所など、実在しない場所は設定を作るしかないので、とにかく発注資料を作り込むしか方法がありませんでした。まるで本当に存在するかのようなリアリティを出したかったので、僕がグラフィックソフトや3Dソフトで図面や簡単なパースを描いたり、参考資料を集めて発注資料をまとめました。建築専門学校中退の過去が少しは役に立ったかも(笑)

△森田氏が制作した平面図の一つ。

△特別に撮影させていただいた制作資料。

――まさか図面やパースまであるとは思いませんでした。この事務所や、ジャッジメント7のチームとしての動きには、 森田さんの実体験も生かされているのでしょうか。

森田:実際にはジャッジメント7って、ゲーム開発会社いうほどゲームつくってないんですよね、いつも遊んでるような感じだし(笑)そしておっしゃる通り、彼らのゆるっとした空気は、僕の実体験をベースにしている部分もあるかもしれません。レッドカンパニーの頃は、みんなで泊まり込んで夜な夜なゲームで遊んでるみたいなことをしてましたし。その代わり、仕事をする瞬間は全員真剣みたいな、そんな異様な空間でした。そういうクラブ活動やサークルみたいなノリって、今思うと懐かしくて、外から見ると楽しそうに見える人もいるんじゃないかと思ったんです。あとは、それっぽいタイトルを付けて後から中身を考える会議をするという風景は、僕の企画を立てるスタイルに近いのかもしれないですね。とりあえず形から入るスタイルなので。

――ゲームの中にいる人物たちに、自分が重なるシーンなどもあったんですね。

森田:若干のノスタルジーは感じますね(笑)レッドカンパニーの頃って、納期が、スケジュールが、コストがみたいな言葉が不思議と出てこなかったんですよ。それはきっと、誰かえらい人が僕たちを守っていてくれたのかもしれないし、ただいい加減だったのかもしれないですけど、とりあえず面白いものを作ろうということに命を懸けてたんです。みんなで自分たちが面白いと思うものを作れれば、きっとユーザーさんにも面白いと言ってもらえるはずだ、という信念みたいなものがありました。そして、ひとりひとりがプロフェッショナルな先輩たちばかりだったので、そういうゆるいノリの中でもちゃんとした物をみんな作っていたんですよね。ジャッジメント7には、その上っ面の部分をだぶらせたような気がします。だって、ゲームの中では、ジャッジメント7はまだ大したものを作れていないので、そうなるのは未来の話ですから(笑)

――S.O.S.システムの構想は、最初からあったのでしょうか。
森田:オレオワはノベルゲームですから、システムとして何か一つ飛び道具的なものがないと、雑誌さんとかウェブサイトさんも取り上げてくれないんじゃないかなと思っていたんです。だから、まず一目で静止画で見ても分かりやすいもの、インパクトが欲しかったんです。最初はそんなゲーム外の事情から考えたシステムだったんですが、実際に企画としてまとめてみたら、主人公の内面を演出できるという効果があることに気づいて、実装することを決めました。あれで強いゲーム性を出したかったというよりは、主人公のキャラクター性とかを出したかったんですよ。あとは、お話中にに登場する「でばっくん」をゲームシステムとして入れ込もうかなと考えていた時期もありました。開発環境での実装までは進めていて、デバッグ画面のようなUIを操作して、デバッグ項目をオンオフにすることができて、それの組み合わせによってお話が分岐するというシステムでした。

△主人公の内面を絶妙に描き出す、S.O.S.(Selection Of Soul)システム。

――最終的に実装を見送ったのはなぜでしょうか。

森田:現実的なところで言うと、これを導入することによって増える開発の手間がネックでした。企画当初は、ジャンプ力を二倍っていうデバッグ項目をオンにしたら、今までいけなかった場所に行けるというようなものを構想していたんですが、この方向性だと、お話よりも探索に寄ってしまうかなと思ったんです。それは本来のお話を楽しませるという目的と相反してしまうし、そもそも楽しめるレベルに仕上げるためには、その分のシナリオやセリフも余分に必要になってくるので、アフレコのスケジュール的にも不可能でした。せっかくシステムがあるから、という理由だけで、いくつか中途半端に入れてもプレイヤーの負荷になるだけだと判断して今回は実装を見送ったんです。実は、公式サイトの方には最初、このシステムが掲載されていたんですが、開発の後半でこっそり消してもらいました。これに関しては申し訳なかったですが、今のオレオワには無くて良かったと思ってます。

――アドベンチャーゲームのゲーム性って、よく話題になりますけど、行き過ぎると、お話への没入感がなくなりますもんね。ちなみに、時間制限のある選択肢を見て、僕は『サクラ大戦』を思い出しました。レッドさんが関わっていたゲームなので、コンセプト的に近づけたのかなと。

森田: 時間制限のある選択肢というと、確かに『サクラ大戦』もそうですね。でも、今言われて、確かにそうだなと思いました(笑)僕があのゲームの開発に関わっていたということは、無意識に影響している部分があるんでしょうね。ゲーム業界に入って、最初に立ち上げから関わったのが『サクラ大戦』なので、自分のもの作りの原点でもあるんです。プロとしての心構え的な部分は、その頃にいろいろな人に教えてもらいましたから。でも、少し反抗したい気持ちも自分の中にはあるんです。『サクラ大戦』って、いろんな人に愛される優等生のようなゲームですから、『オレオワ』ではできなかったことをやろうかなというのはありましたね。下ネタが強めになってしまったのは賛否両論ですけどね(笑)

――『サクラ大戦』と『オレオワ』は確かに、全く違うお話なんですが、同じ会社が関わっていると聞くと「なるほど」と納得できる人も多いと思います。『サクラ大戦』もまた、とてつもないボリュームのエンターテインメントでしたから。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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