今だから言える『オレオワ』話
――制作における「修羅場」に当たる時期はありましたか?
森田:やっぱりいちばんは、収録用の台本づくりですね。今回特に二回に分けて台本を提出したのですが、最初の台本を提出して収録を進めているうちに、台本はどんどん消費されていくという状況になったんです。だから間を空けないように後半の台本を用意しなければいけないんですが、毎日のようにアフレコ現場に行って収録に立ち会っていたんで、昼は収録、夜は台本という期間が続きました。
――それは恐ろしいですね(笑)声優さんたちの収録の日程をずらすなんてことはできないでしょうし。
森田:そうなんです。何かが追いかけてくる感覚が常にありましたね(笑)実は、前半の台本をあげた段階では、最終章が真っ白だったんですよ、恐ろしいことに。スタッフにイメージだけは共有していたんですが、クライマックスに至るまでの過程は、「ここ森田さんよろしくー」ってなってたんです。最終章は、「僕がなんとか着地させるから」と言ってしまった自分のせいなんですけど、ギリギリまでずっと引っ張ってしまって、ここは必死に書きました。あそこまで追い詰められたから書けた最終章だと思いますけどね。もう一度時間を上げるからと言われても、たぶんあれ以上のラストは書けないと思います。あと、もう一つ自分が書くつもりで空白だったキャラクターエンディングについては、「ここはごめんなさい、プロットだけ書くので仕上げてください!」って急きょ阿智くんにお願いしました。結局、僕ががっつり書いたエンディングは、七罪とユウノと隠しエンドかな。
――キャラクターエンディングは、ギリギリの時期に作られたのですね。プレイしていると、全くそんなことを感じないほど、素晴らしいまとまりでした。『オレオワ』って、細やかな部分が本当に素晴らしくて、言い方は適切じゃないかもしれませんけど、「無駄」な部分が凄いんですよね。本編の話を語る上で、決して必要ではない部分が、熱を感じるくらいに書き込まれていて、そういうシーンの積み重ねが、物語やキャラクターをいきいきとさせてくれているように感じるんです。
森田:おそらく、あとから足していった部分が、うまく作用してくれたのかなと思います。最初に僕のプロットがあるので、阿智くんもシナリオスタッフも、そこからは大きく逸脱はしないんですよね。でも、僕はキャラクターたちのどうでも良い会話こそがキャラクターの命だと思っているので、台本にする段階で書き足した部分もたくさんあるんです。無駄だと言われるのも恐れずに、とにかく組み込んでみようという姿勢でしたね。結果「なげーよ」って言われるゲームになってしまいましたが。例えば、イメージを共有しやすい部分だと、リア充ゲームのお話なんかは後から大きく足した部分があるんです。実は七日目にアサノとデートする話って、最初なかったんですよ。あのイベントは、アサノとのデートがなくても十分長い上に、まだ全体から見れば序盤の方なので、もっとさっくりとポイントを稼げたっていう落ちだったんですが、作っている途中でこれだと面白くないかもと思って、がっつり書き足したんです。結果的に本当に長い章になってしまいましたが、アサノの魅力は爆発したと思ってます。だって彼ら、ジャッジメント7って、無駄なことを楽しんでいるじゃないですか?だから、僕たち作り手も、それを楽しんで作っていましたね。
――無駄が楽しめるって、ゲームとして素敵なことですよね本作の開発期間は、どれくらいだったのでしょうか。
森田:1年6ヶ月くらいですかね。当初計画していた発売時期は夏だったんですよ。ストーリーに合わせて、やっぱり夏だろうと。ただ、それは守れませんでした。思いのほかシナリオに手こずりまして。このゲームって、他の開発会社さんからしたら、そんな少ない人数でやってるの?という規模だったので、どうしても時間をかけなければいけないところはありましたし。特に、シナリオに関しては、僕、阿智くん、アシスタントの3人がメインでしたからね。最終的にスタッフの人数が予想以上に少なくて、スタッフロールの間を埋めるに苦労しました。いただいたエンディング曲はめちゃくちゃ壮大で6分以上の大作なのに、その尺をどう持たせるかみたいな問題が。スタッフの数が少ないとこういうことも起こるんだと衝撃を受けましたね(笑)あと今回のプロジェクトは、僕がプロットとかシナリオをやりながら、絵回りとかの発注も全部自分で見ると最初に決めていたので、僕が止まるといろいろ止まるという状態になってしまったんです。迷惑をおかけしたみなさま、申しわけありません。
――絵周りの発注というのは、どういうレベルでされたんですか?
森田:外部に発注するイベントCGは下手ながらにコンテのようなものを描いて、発注していましたね。背景も同様です。あとは、ゲーム内の演出で使う素材はだいたい自分で作りました。携帯に出てくる画面とか、ダンジョンの演出とか動く部分ですね。あの辺りの演出も「僕がやる」と言ってしまった手前、素材から動きまで、できる限りは自分でやりました。あと、発注資料として作っていた参考資料がそのまま背景として使われているのもあります。地下ターミナルとか、ドグマの回廊とかの仮想世界のCGっぽい背景は、そんなに出てこないし、僕が作ったやつでも良いかな、と。そう考えると、うまく発注まわりを仕切れてないですね(笑)
――本当にいろいろやられていますね(笑)ここまでのゲームができた理由が、なんとなくわかる気がします。森田さんの情熱のようなものが、きっとこのゲームを作りきったんですよ。
森田:人に作業を振れないだけなんですけどね(笑)でも、僕はまず自分が納得できない限り、他の誰にも刺さらないだろうと思ってるんです。それが、レッドで学んだ一番大きなことですね。ユーザーさんってお金払ってくれた上に、何十時間っていう時間まで消費して遊んでくれるわけじゃないですか。ある意味、誰かの人生の一部をもらう訳ですからね。だから自分を削るしかないんです、僕は。でも、僕以外の人にそれを「やれ」っていうのは違うと思うので、自分でできるところはやってみようと思ってひたすら走っていましたね。1年6ヶ月の間、プライベートはぜんぶすてて、お正月にちょっと休んだ程度かな。家に帰った回数は……怖いから数えないですけど(笑)
――途中で折れそうになることとかないんでしょうか?よくこのゲームを作っていて折れなかったなと、僕は思います。
森田:僕は、好きなことをやらしてもらっているという面もあるので、折れないですね。これで折れたら、いろいろと失礼だと思うし、ゲームを作れる機会って、たくさんあるわけじゃないですから。それに今回は、僕が言い出したことなので、ユーザーさんはもちろん、関わってくれた人もできた後に「良いものを作ったよね」と思って欲しかったんです。結果的にできたのは「変なもの」かもしれないですが(笑)
――時間も少なくなってきたので、僕がプレイしていて気になったところを幾つか聞かせてください。本作には、サスペンス的な要素が入っていて、それがプレイヤーを驚かせる仕組みになっていたりするんですが、驚くのは後味がスッとしたものが多いんですよね。最近のゲームでいうと、サスペンス的なものは、誰かがとても辛い思いをしたりするものが多くて、そこがある意味プレイヤーを揺さぶっていたんですが、このゲームはとても「優しい」ですよね。これは、森田さんの好みなのでしょうか。
森田:そうですね。あんまり後味の悪いものというのは、僕が作らなくてもいいかなと思っています。そういうゲームの中にも面白いものはたくさんあるでしょうし、やられたなあと思うこともあるんですが、自分の作るものの方向性としては、プレイヤーの心をえぐりまくるものは今の所考えられないんですよ。人が死んだりするシーンを書いてないわけではないですが、表現したいのはそういう痛々しさではないですからね。ある人物が自殺したらしいって話もするっと入っています。でも、それを掘り下げてガツンと使うことはしないようにしましたね。
――タチアナとお父さんの関係って、普通に想像していると、最悪の方向に向かうじゃないですか。でも、ちゃんと希望を残しているんですよね、このゲームは。
森田:僕は優しい男なんですよ(笑)みんななるべくハッピーになってほしい。もうこのタイミングだとバレていると思うので言っちゃいますけど、「隠しエンド」と言われているあのキャラのエンディングも僕がプロットとベースのシナリオを書いたんですが、書いた後に「これ、気持ち悪くない?」って思わずアシスタントに聞いちゃいました。でも、一個くらいならいいかなと思って、後味の悪い方向でやってみました。まぁ、ある意味バッドエンドだけど、ハッピーエンドとも言えなくもないですしね。ただ、メインには添えないつもりだったので、あくまで隠しエンドですし、演出も少なめにしてありますが、割と社内では人気のあるエンディングなんですよね。ただ、いきなりあれを見られたくないので、結構発生条件を厳しくしたつもりなのですが、攻略情報なしでクリアーした人がいるのは凄いですね。
――あのルートを最初に見つけた人はスゴイと思います。スキップしても結構長いじゃないですか、このゲーム。
森田:そうなんです。スキップしてもとにかく長くて、「次の選択肢までスキップ」が欲しいという声はいただきましたね。現在、こちらについてはアップデートで対応する予定です。このインタビューが掲載される頃には、搭載されていると思います。
――アップデート!それは全ルート埋めるのに助かりますね(笑)発売後の展開って、他に何かあるのでしょうか。
森田:予約特典小冊子の背表紙にある、QRコードの中身を今作っています。今は工事中ですけど、あの会社案内もマスターアップ後に僕が作ったので、QRコードを入れたのも自分だから責任を取らないと(笑)ゲームをプレイしてくれた人へのお礼のようなコンテンツですね。ここでしか見られないものもいくつか用意しようと思ってますので、楽しみにしていてください。ただ、このコンテンツも例によって僕が作っているので、いつ公開できることやら、ですが。
PS Vita版「俺達の世界わ終っている。」は、2017年12月12日よりパッチVer1.02の配信が行われています。
追加内容は以下の通り。
●シーンジャンプ機能が追加。(SELECTボタンを1秒以上押すと、次の選択肢、あるいは次の章の先頭までジャンプできます)
ジャンプする範囲に未読部分がある場合
・コンフィグ「未読でもスキップ」がオン:未読部分もジャンプします。
・コンフィグ「未読でもスキップ」がオフ:シーンジャンプは行いません。
●S.O.S.システムの前でスキップを解除する機能を追加しました。
コンフィグで「選択肢でスキップ解除」をONにすることで、スキップが解除されます。
●体験版のセーブデータを読み込む機能を追加しました。
体験版のセーブデータがある状態で製品版を初めて起動する際にセーブデータの引継ぎを行えます。体験版セーブデータを製品版に引き継ぐ場合は、必ず製品版の最新パッチを適用してください。
※この機能は既に製品版でプレイしているセーブデータに影響はありません。
――そんなこともやってるんですか?その調子であと何本かゲーム作ったら、死にますよ!
森田:かもしれないですね(笑)そうならない程度に頑張ります。
――それでは、おきまりの質問になりますが、『オレオワ』発売後の現在の心境と、「これから」についてお聞かせください。
森田:ぶっちゃけ、皆さんが心配してくれている通り、まだまだ売れてないですし、知名度も足りてませんが、遊んでくださったユーザーさんの口コミやSNSでの評判で、新しい方が遊んでくれる流れを見て、とても幸せに思っています。正直、今のレッドが新作ゲームを出したところで注目されるとは思ってなかったですし、遊んでくれた人の評価や口コミに頼るしかないというのは最初から考えていたことなんです。今回のオレオワで欲しかったのはユーザーさんからの評価と信頼なので。もちろん僕としては、これ一本で終わらせるつもりはありませんし、次につなげるための第一歩だと思ってますし、みなさんに甘えるようですが、引き続き応援していただけると嬉しいです。これからについては、すでに少しずつ動きはじめているものもあります。具体的なものを発表したり、お見せできるのはいつになるかわかりませんが、「レッド、まだ何かやるらしいぞ」と頭の隅に置いておいてください。
――ありがとうございました。