【インタビュー】『ファントムブレイカー:オムニア』にはなぜ新要素が盛り込まれたのか。二人のキーマンに話を聞いてきた

2022年3月に発売となった『ファントムブレイカー:オムニア』は、2011年にMAGES.から発売された2D格闘ゲーム『ファントムブレイカー』の最新作である。
『オムニア』の内容としては、2013年の『ファントムブレイカーエクストラ』をベースにした作品で、新キャラクターや新システムが追加、そしてバトルバランスも調整された最新作となっている。
ゴジラインでは本作の攻略記事を連載としてお届けしているが、実際に遊んでみると、これが不思議と面白い。2D格闘ゲームでは当たり前となりつつある”必殺技コマンド”を簡略化し、方向キー一方向とボタンで強力な技を振り回す爽快感、そして強力すぎる技のオンパレードでバランスが崩壊しているかと思いきや、ハイジャンプに無敵があったり、ガードキャンセルや超強力な避けなどで見事に対応できる塩梅になっている。

▲ゴジライン内でも「このゲームにしかない面白さがある」と好評の『ファントムブレイカー:オムニア』。”ハイジャンプに無敵がある”ことで、独特で熱い駆け引きが生まれる。

高解像度化したとはいえグラフィックは10年前のものがベースなので、画像だけでは伝わってくるものも少ないと思うが、プレイしてみると、本作の面白さ、親切さに驚かされる。
現在対応中のマッチング不具合もあるものの、オンライン対戦も楽しく対戦できるレベルで快適。そのうえ過去作を遊んでいないプレイヤーに向けた振り返りを兼ねたストーリーモードや、過去の版権絵を収録したギャラリーモード、さらにはボイスだけでなく主題歌までもバイリンガル対応……。そのうえプレイステーション、Xbox、ニンテンドーSwitch、Steamと4つのプラットフォームで発売という手に取りやすい展開。

頑張りすぎでは……『ファントムブレイカー』!
発売される前までは、なんで令和に『ファントムブレイカー』なのか……とか少し思っていたが、こんなにも良い形で新バージョンが遊べるなんて!

なぜこんなに力の入った作品になったのか気になりすぎて、『ファントムブレイカー』再始動のキーマンである、MAGES.の盛 政樹プロデューサーと、ロケットパンダゲームズのM.Panda氏にお話をうかがった。実は今作の発売元は”ロケットパンダゲームズ”で、今まで発売元だったMAGES.は開発面を手掛けているのだ。 本記事では「この形だからこそ世に出せた」という『ファントムブレイカー:オムニア』の歩みと制作秘話をお届けする。

interviewee
盛 政樹 氏
通称:サカリP。1992年、今は無きデータイースト社にアーケードゲームのプランナーとして業界入り。以来、四半世紀以上に渡って様々なジャンルのゲーム開発に携わる。特にアクションゲームやシューティングゲーム、そして海外ゲームの造詣が深く、また、プロデューサー、ディレクター、プランナー、シナリオライターと様々な業務を同時並行でこなす。不眠症気味らしく、ゲームのアカウントネームではInsomniaを名乗っているが、今作の「Omnia」とは偶然の一致だと語る。
M.Panda 氏
通称:マイキー。北米カリフォルニア州出身、UC Irvine大学を2008年に卒業。小さいころからゲームや漫画などの日本から輸出されていたポップカルチャーにハマり、そのままゲーム業界に入ることになる。2012年にSCMediaというエージェンシーを立ち上げ、日本の中小規模のゲーム会社が英語圏に進出できるよう様々な面でサポート。2020年にはRocket Panda Gamesを設立し、インディーズのパブリッシャーとしても「Made in Japan」のゲームを全世界に向けて配信。

『ファントムブレイカー』再始動のきっかけとその歩み

――本作は、いままでの『ファントムブレイカー』シリーズと異なり、MAGES.ではなくロケットパンダゲームズから発売されています。こちらの経緯についてお聞かせください。

:まず、『ファントムブレイカー』についてはシリーズ第一作を発売したあと、新キャラクターなどを追加した『エクストラ』を出しました。この展開の中で海外での発売を予定していたことがあるのですが、発売直前で中止になってしまうという出来事があったんです。そんな経緯もあって、いつか海外のお客さんに届けたいと考えていましたし、日本でもしばらく新しい展開がない時期が続いていたので、何らかの形で新作を多くの人に届けたかったんですよ。

ただ、私の所属しているMAGES.では、なかなか開発する機会が巡ってこなかったんですよね。アドベンチャーゲームを主力にする会社ですし、経営的な判断も難しいんだと思います。そんな時に、以前から親交のあったM.Pandaが「ゲームパブリッシングをやりたい」というので、『ファントムブレイカー』を提案してみたのが始まりです。

――ロケットパンダゲームズとしては、『ファントムブレイカー:オムニア』が初の自社パブリッシング作品になるのですね。

M.Panda:そうです。ただ、パブリッシングは初めてですが、ゲームとの付き合いは趣味としてもビジネスとしても長いんです。もともと私の会社は、ゲームのプロモーションや海外展開を引き受けていて、日本の格闘ゲームを請け負った経験もあります。その経験を活かして、新たな試みとしてゲームパブリッシングをやることを考えていて、最初はカジュアルに遊べる規模の小さいゲームや、インディーゲームなどを考えていました。サカリPに「日本にいいタイトルはない?」と相談したら、『ファントムブレイカー』を提案してもらいました。

――タイトルを探している中で、『ファントムブレイカー』に決めた理由をお聞かせください。

M.Panda:サカリPとの付き合いがあったというのはもちろんですが、『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』が海外でも好評で、そのオリジナルとなる格闘ゲームのほうも刺さる層があるだろうと考えました。

盛:アクションゲームの『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』は、世界で見ると50万本出ていて、それなりに手ごたえを感じていたんです。ただ、この数字でも、MAGES.の中では、企画が通りにくいシリーズだったというのも事実なんですよ。販売本数の内訳でいうと海外がかなりの割合で、MAGES.の場合は日本市場に重きを置いている部分もあるので、海外でいけるからやってみましょうということにはなかなかならない。ただ、そうしている間に『ファントムブレイカー』も随分古いタイトルになりましたし、これ以上寝かせておくわけにもいかないと思いました。そこでゲームをパブリッシングしてみたいというロケットパンダゲームズと、シリーズを続けたいという私の考えが一致して、この形で出すことになりました。新要素が入るという話は全然なかったのですが(笑)

M.Panda:最初の頃は『ファントムブレイカー:エクストラ』の移植くらいの感覚だったんですよね(笑)

▲スピンアウト作品となる『ファントムブレイカー:バトルグラウンド』は全世界50万本以上のセールスを記録。

――『ファントムブレイカー:オムニア』は単なる移植ではないですよね(笑)『ファントムブレイカー:エクストラ』をベースにした作品ですが、新キャラクターの追加やバトルバランスの変更。過去作の要素に触れられるストーリーモード……。さまざまな新要素が用意されています。今回話を聞きたいなと思ったのは、こういった新要素の充実っぷりに驚いたからなんです。

盛:現行のプラットフォームで昔のものを遊ぶそのままの移植なら、1年くらいで実現できて、予算はこれくらいかなという話をしました。でも、お互いにプロジェクトについて話していくうちに、”せっかくやるならここは変えよう”みたいな所が出てきて、ロケットパンダゲームズさんも「やりましょう」ということになって……。結果的にかなり時間がかかってしまいました。日本に来ていたM.Pandaに、居酒屋で『ファントムブレイカー』を提案したのは2018年のことですからね(笑)

――2018年から、4年がかりのプロジェクトになるのですね。

盛:このタイトルだけに取り組んでいたというわけではないのですが、結局4年かかりましたね。ああしようこうしようと盛り上がりすぎたのかもしれません(笑)

M.Panda:そのまま出すよりも、新しさがあるほうがプレイヤーも嬉しいですからね。完全新作をやるというような感覚ではなかったのですが、オリジナル版が少し背伸びをしたらここまでいけそうというものを新要素として足していきました。そうしたら当初想定していたものの10倍くらい大きなプロジェクトになりました(笑)

――本作は過去作よりも多くのプラットフォームで配信されています。こちらはパブリッシャーであるロケットパンダゲームズの意向でしょうか。

M.Panda:複数プラットフォームを目指すというのは、お互いの意見の一致です。我々としましては、プロジェクトが決まったときに、同じマーケティングをするなら、最大の環境下に作品を置いてあげようと考えていました。これはプロモーションをやってきた経験から得た感覚なのですが、コンテンツは最初に世に出たときがやはり一番盛り上がります。そして、後から移植という形になるとやはり受け止めるファンの熱の総量は少し落ちています。そこにもう一度火をつけにいくのを繰り返すのはかなりのパワーが必要です。実は、開発の延期を発表したことがあるのですが、その時点でSteamだけ先行ということなら、予定通りの発売日に出せたかもしれないんですよね。ただ、それではやはり、遅れて出たプラットフォームのプレイヤーが寂しい思いをするかもしれないと思って、全プラットフォームの完成を見込めるタイミングまで延期しました。

盛:私もできるだけ多くのプラットフォームでゲームをリリースしたいと思っています。プロモーション的な理屈だけでなく、シンプルに、ユーザーさんのためを思うなら、遊べるハードは多いほうがいいんですよね。「このゲームをやるためにこのハードを買う」というのも情熱的だと思いますが、「このハードがないからこのゲームが遊べない」というのもつらいじゃないですか。個人的な考えとしては、ウチはこのハードしかだしませんというのは、あまりやりたくないですね。ただ、現実問題として、予算やセールスを予測すると毎回それができるわけではありません。『ファントムブレイカー:オムニア』は、パブリッシャーであるロケットパンダゲームズさんの選択に助けられたという形です。ただ、提供するプラットフォームが増えるということは、開発の工数も増えるわけで……。決まったときは不安もありましたね(笑)『エクストラ』のときは、2機種ですら苦労しましたから(笑)

▲ゲーム内に”プチ攻略本”のようなインゲームマニュアルも実装されている。

――発売日も世界共通ですが、こちらもこだわられたポイントなのでしょうか。

M.Panda:これもプラットフォームと同じでこだわったポイントですね。格闘ゲームシーンでは、発売日が早い、遅いというのは、ユーザーから見て不公平感を生むポイントになっています。先に発売された地域のプレイヤーが強いのは当たり前、後発の地域では新しい発見を楽しみにくい、という声も実際にあります。今回は新バージョンとはいえ、そういう不公平感を少しでも減らしたくて、全世界同時発売、複数プラットフォームを選びました。

――開発はMAGES.が中心になって行ったのでしょうか。ゲームのプレイフィールは『エクストラ』をさらに進化させたものだと感じました。

盛:開発は以前までとそこまで変わっていませんね。私と『ファントムブレイカー』を作ってきたスタッフが関わっています。開発の規模は最終的なものでも決して大きくはないんですが、最初に想定していたものからはだいぶ増えて、『エクストラ』チームに近い編成になりましたね(笑)開発を一任してもらえたので、発売元は異なりますが、今まで通りの『ファントムブレイカー』らしさは残っていると思います。ただ、一任してもらったとはいえ、ロケットパンダゲームズと組んだことで良くなった部分も多いですね。ミーティングによる対話をかなりのペースでこなして。そのミーティングで出た意見などを開発に活かしています。

ロケットパンダゲームズのアイディアで
『ファントムブレイカー』が進化した

――ゲーム内容について、ロケットパンダゲームズからの提案などを受けて、開発中に変化した要素はあるのでしょうか。

盛:海外のはじめて『ファントムブレイカー』を触れる方に向けた部分、中でも過去作のストーリーに触れられる部分などはそうですね。海外版の声優も入れようというのも提案から入った要素です。あとは、ちょっとユーザーさんに驚かれるものとしては、今後のストーリー上、重要な部分を変更しました。もともと『ファントムブレイカー』は4部構成のストーリーを予定していて、『エクストラ』の時点では2部の序盤まで描かれています。その後の展開で主人公の”美琴が死ぬ”ことになっていました。

――衝撃を受けています(笑)美琴がゲームからいなくなるということでしょうか。

盛:そうなんです。単純に死ぬというと語弊はあるんですけど、そこはまぁ色々と…。マエストラという今回追加したキャラクターは、プレイヤーが、美琴の性能を引き継いだキャラクターとして使えるようにと生まれたんです。今回はストーリーこそ進みませんが、ロケットパンダゲームズからは「どんな形でもヒロインがいなくなるのはやめましょう。海外のユーザーはよりショックですよ」ということを言われまして。今の美琴とマエストラが共存するストーリーに変更しました。

▲本作が初参戦となる新キャラの”マエストラ”(左)と、本シリーズの主人公ともいえる美琴(右)。

――それを聞いて今ちょっと安心しています(笑)もし美琴が消えていたら……と想像すると、ちょっと怖いですね。

盛:軽く炎上していた可能性もありますよね。もともと『ファントムブレイカー』は、ノベルアドベンチャーゲーム的なストーリーのある格闘ゲームを作ろうみたいな想いもあって、ストーリーの部分で冒険をしていたんですよね。その頃に決めた設定だったので、そのままいくのは確かに危なかったかなと思います。

――確かに、オリジナル版の『ファントムブレイカー』の時代から、ストーリーもウリのひとつでしたね。確かにオリジナル版も「そう来るのか」という展開が多かったです。プロモーションは日本、国外ともにロケットパンダゲームズが手掛けたのでしょうか。日本語のTwitterアカウントの運用などもされていて驚きました。

盛:プロモーションは国内、国外ともにロケットパンダゲームズが手がけてくれました。今日話しておわかりだと思うんですが、 M.Pandaは日本語も完璧に話せますから、我々としても安心して作品を託せたんです。それに、 M.Panda自身が、日本のゲームをよく知っていますし、そのうえで海外のユーザーにどういうプロモーションが刺さるかを考えてくれるので、今までにないユニークなプロモーションになったと思っています。

M.Panda:日本のゲームを海外でプロモーションするという仕事をやってきたので、その経験を活かして今回のプロジェクトには取り組みました。ただ、得たものをそのまま使うというのではなく、他社さんの看板ではできなかったことも盛り込みましたね。『ファントムブレイカー』はMAGES.さんの作品ですが、パブリッシングを自社でやるということで、思い切れた部分も多かったと思います。もちろん、プロモーションでこういうことをやりたいというのは、その都度サカリPに相談したのですが、「面白そうだからやろう」という反応だったのは嬉しかったですね。

――日本では、テンションの高いPVが話題になりましたね。

M.Panda:あれは海外向けに作ったPVなのですが、海外の方から見ても見慣れないものを目指しました、格闘ゲームのフォーマット的になりつつある、英語で冷静にアナウンスしていくというPVも良いのですが、これはプレイヤーにも慣れられているんですよね。メーカー側からすると、IPに変にイメージをつけないためという理由もありますし、メリットも大きいんですが、『ファントムブレイカー』はもっと知ってもらわないといけないので、テンションを変えてみたんです。我々が想像した以上に海外で反響があり、それが日本にも自然と流れて、話題になったようですね。理想的なことに、インフルエンサーのところにも届いて”ネタ”にしてもらったりということもあったんです。

盛:私が考えつかないようなことを提案して、スピーディに実行してくれるのは頼もしいですね。ゲームの中にもその発想や心配りは生きていて、実はゲームのボーカル曲も、ロケットパンダゲームズ、M.Pandaのおかげで新しくなったんですよ。アーティストのチョイスもMAGES.が中心だった時とは変わっているので、開発としても新鮮な気持ちです。ただ、アーティストが変わっても『ファントムブレイカー』らしさみたいなものが継承されているのは嬉しかったですね。

M.Panda:ボーカル曲のアーティストについては、私がお願いできそうな範囲で、ゲームの世界観に合うような人を探しました。お仕事ではありますが、ツテを総動員という感じです(笑)イメージソングは藍井エイルさんに手がけていただきましたが、これはアメリカのイベントで通訳でご一緒させていただいたのが縁になっています。

盛:今回のプロジェクトは、ロケットパンダゲームズとしては海外市場が大きな勝負の場所になっていたのですが、すべてのユーザーも大事にするという考えで一緒に歩めたのは良かったですね。ボーカルのバイリンガル対応なども丁寧にやってもらいました。

M.Panda:『ファントムブレイカー』は日本初のゲームなので、ボーカル曲のような世界観に関わるところでは、日本らしさを外したくなかったんです。でも、日本語バージョンだけ収録すると、海外の方にその世界観が伝わらないので、バイリンガル対応にしました。

盛:ちなみに、BGMに関しては、もともとあるデータを使うということで、作曲の阿保 剛さんに音源をくださいというやりとりをしたんです。でも、聴いてみると全曲ちょっと手が加えられていて、音色とかが違うんですよ。「阿保さんこれ元のデータとちがいますけど」って言ったら「ちょっといじっておきました」って(笑)いろんなクリエイターが、やりたいことをちょろっと忍ばせているというのも本作の面白いところかもしれません。

▲本作の音声は日本語と英語に対応。テキストの言語は8つ用意されている。

――お話を伺っていると『ファントムブレイカー:オムニア』は、盛さんたち開発と、ロケットパンダゲームズの対話を経て、よりよい作品になっていったのですね。

盛:そうですね。ミーティングの回数も、パブリッシャーと開発という関係かつ、この規模のタイトルにしては相当多かったと思います。コミュニケーションを密にとったことでよかったのは、パブリッシャー側に「開発側のゲームが今どのような状態にあるのか」ということを知ってもらえたことですね。ここってゲームメーカーの開発と広報の関係でいっても、ギクシャクしがちなところでもあるんですよね。

――初の自社パブリッシュタイトルを出してみて、最初に想像していたことと異なることやハプニングはありましたか?

M.Panda:思っていたことと違うことというのは”ありまくりました”ね(笑)過去にローカライズやプロモーションなどに関わっていたので、ゲームパブリッシングについても一部はわかっているつもりだったんですよ。しかし自分たちでそれをやってみると初めてのことが多くて、いろいろな人に助けられました。複数のプラットフォームでソフトを出すというのも、複数の国で発売するというのも、なかなか一筋縄ではいかないんですよね。同じプラットフォームなのに国によってルールが違ったりとかもありますし。当然ですが、「ゲームをもらってきて、ボタンをぽちっとおして配信」というわけではないんですよ(笑)

盛:最初に想定していた規模と随分変わったので、大変な部分も多かったと思います。

M.Panda:1本しかパブリッシングしてないんですけど、5本分くらいの経験をもらいましたね。次パブリッシングするゲームは、落とし穴がどこにあるのかなどがよくわかるようになったと思います。今回、インタビューの中で、増えている要素が凄いと言ってもらえてうれしいのですが、それは私が無知だったから「できることなんでもやろう」みたいな勢いがあったのかもしれません(笑)とはいえ、次があったら、良いものを作りたいですね。

『ファントムブレイカー』のこれから

――今後の『ファントムブレイカー』について、お話できることがあればお聞かせください。

盛:売れてくれればという前提がありますが、まだやりたいことはあります。新キャラなんかもそうですし、バランス調整もですね。ストーリーもなんらかの形で世に出したいと思っています。あとは、オンライン対戦できる格闘ゲームということで、ロケットパンダゲームズやプレイヤーから要望も上がっているロールバック式ネットコードについても、今後の展開や、いつか新作が考えられるなら取り組みたいところですね。

※ロールバック式ネットコード:ゲームのオンライン通信形式のひとつで、近年の格闘ゲームで採用されるケースが増えている。ロールバックネットコードでは、プレイヤーの入力をもとに画面を巻き戻して結果を再生する手法や、予測表示などによって、通信遅延を低減、安定しているように見せることが可能とされる。従来のディレイベースと呼ばれるタイプのネットコードでは、遅延のゆらぎが発生しやすいとされてきた。

――ロールバック式ネットコードの話に踏み込むのですね(笑)ロールバック式ネットコードについては、開発の途中でアイディアとして挙がっていたと伺いました。開発ブログでもそのことを明かしておられましたよね。

M.Panda:格闘ゲームでオンライン対戦対応となると、海外ではロールバック式ネットコードが強く求められるんですよね。海外のユーザーの環境はかなり多様ですし、距離も離れているユーザーが多い。それを少しでも快適に遊ばせてくれる技術がロールバック式ネットコードであると認識されているんです。私のほうからも、これは何度か提案したのですが、「複数プラットフォームかつ、既存のゲームにロールバック式ネットコードを盛り込む」というのが工数の面で現実的ではないことがわかりました。

盛:たらればの話になるのですが、ネットコードまわりの対応をやっていた場合、発売がもう1年とかの単位で遅れる可能性がありました。正直、実装したことのないものですし、そもそもゲームの作りがロールバック式ネットコードと相性がいいかと言われるとそうではない部分もあって。ただ、完全に諦めたというわけではないので、ロールバック式ネットコードは、『ファントムブレイカー:オムニア』を発売して、新しい試みを考えられるくらいに売れてくれれば検討しようと思っています。

――日本国内で遊ぶ分には、ネットコードの部分はあまり気にならず、対戦でもスピーディなゲームプレイが楽しめています。ただ、海外で求められるというのも十分にわかりますし、アップデートがあるのならそちらにも期待したいです。我々は今、『オムニア』の攻略記事をやっていますが、プレイしていて感じたのは”本作だけが持つ面白さ”の凄みだなと思いました。格闘ゲームの常識みたいなものが通用しない部分があって、そこに強く惹かれています。「こんなのアリなの?」、「ファントムブレイカーだから」っていうやりとりを毎晩のようにしています(笑)

盛:ありがとうございます。そういう感覚で遊んでもらえると嬉しいですね。私もどんなゲームでも、面白さを見いだせるタイプのプレイヤーなので、その楽しみ方には共感できます。オリジナルの『ファントムブレイカー』を作ったときは、自分たちが面白いものを作ろうと思って制作したのですが、その思いは『オムニア』でも変わっていなくて、ジャンルの常識みたいなものに縛られないようにしたんです。この数年で、eスポーツが浸透してきて、格闘ゲームも対戦バランスの良さというものが良いゲームのひとつの指標になってきています。バランスのいいものを作るのは大変だし、成し遂げているメーカーやクリエイターはもちろん素晴らしいのですが、『ファントムブレイカー』の場合は、そこまでこだわっていません。バランスがちょっと崩れていても、尖ってて面白いかもという要素をたくさん入れています。減りすぎて面白い、繋がりすぎて面白いというようなやつですね。

――だから自分たちには新鮮なのかもしれませんね。

盛:偉そうな言い方に聞こえるかもしれませんが、あるジャンルが定着してくると「●●というのはこういうものだ」という固定観念ができてくるんです。それは悪いことではなくて、研ぎ澄ましていいものを作ったり選んだりする際に役立つんですが、あまり行き過ぎると楽しめるものを狭めてしまうことになりかねないなと考えています。私は80~90年代のゲームセンターに思い入れがあるのですが、その頃のゲームセンターの記憶って、格闘ゲームというジャンルひとつとっても、バランスのいいゲーム、バランスはよくないけれど斬新なゲーム、ものすごく濃いキャラクターばかりのゲームみたいにいろいろな作品があって、人気に差はあるけれど、どの作品にもプレイヤーがついていたんですよね。それで、自分がやらないゲームを、他人が楽しく遊んでるのを見て、「やってみようかな」と思ったり、遊んでみたら意外と面白かったり、そういう心地いい空間が現在のゲームシーンに蘇ってくれるといいなと今でも思っています。これからも私自身、価値観に捕らわれない目でいろんなゲームを遊び、今後の開発に活かしていきたいです。皆さんもそうやって独自の視点で楽しさを見い出す遊び方をしてみてはいかがでしょうか。

――盛さんとM.Pandaさんは、多様性のある面白さに理解があって、タッグとして相性が良さそうですね。

M.Panda:そうかもしれませんね。私も「面白いからやっちゃえ」という考え方で物事を進めることがあります。そして、共通しているのは、自分だけ楽しければいいわけではないと思っていて”ユーザーさん第一”というところはブレていませんよ。

――M.Pandaさんが今回のプロジェクトでこだわった部分についてお聞かせください。

M.Panda:私は今回、プロモーション、ローカライズ、経営者という自分の立場を三角形において、どの位置からでも遠ざかりすぎないようにプロジェクトを進めました。「ユーザーさんの盛り上がる瞬間を、国を問わず実現する。そのうえで、自分たちは経営的にもコストパフォーマンスがいいものを模索する」ということにこだわりました。途中で息切れしてしまうようでは、ユーザーさんに空白期間が生まれてしまいますからね。

盛:M.Pandaと仕事をすると面白いんですよ。プロモーションの提案って、この宣伝を実施した効果とか、CMの効果とかをデータ化して持ち出してくることが多いんです。データに基づく提案というやつなんですが、これには落とし穴もあって、「そのプロモーションをやるために都合よく抽出されたデータ」だったりします。そんなものを用意するのは時間の無駄ですし、そのやり方に慣れてしまうと、新鮮で面白いものが出なくなってくるのではないかと不安になったりもするんですが、 M.Pandaは「面白さ」が先なんですよ。そういうノリを重視しつつも、経営者として冷静な部分が一緒にあって、安心して付き合えるんです。

――最後に、『ファントムブレイカー』ファンにメッセージをお願いいたします。

盛:久々の『ファントムブレイカー』ということで、シリーズのファンの方は楽しんでもらえると嬉しいです。ロケットパンダゲームズとのタッグで新しくなった部分も多いので、いろいろと探してみてください。新規の方は、この記事などで興味を持っていただけたら、遊んでもらえると嬉しいです。私も『ファントムブレイカー』はもちろん、これからも海外に送り出せるようなタイトルを引き続き作っていきたいと思っています。MAGES.ではもちろん、ロケットパンダゲームズとの縁が続けば、また新しいこともやりたいですね。

M.Panda:『ファントムブレイカー』ファンの方は、3月31日(北米時間)のNew Game+ Expoに注目してください。日本でも話題にしてもらったハイテンションなPVのノリが好きな方には喜んでもらえるかもしれません。ロケットパンダゲームズとしては、また新しい作品も出していきたいと思っています。『ファントムブレイカー』も発売後に盛り上げていきたいと考えているので、よろしくお願いします。


『ファントムブレイカー』の再始動は、シリーズを牽引してきた盛氏ら開発陣と、シリーズを信じてパブリッシングを決めたロケットパンダゲームズの情熱が交差したことから始まった。「所属しているメーカーからは続編が出せないが、諦めなかった」というのも、「自社パブリッシング第一弾用のインディーゲームを探していたのに『ファントムブレイカー』を手掛ける」というのも奇跡的な展開である。

盛氏が「ロケットパンダゲームズとだからできた」、M.Panda氏が「『ファントムブレイカー』だからこそできた」というように、今までとは違った形だからこそできた『オムニア』は、オリジナル版よりも遊びやすく、熱い作品になっている。

M.Panda氏が驚くほど日本語、日本の文化に堪能で、そのうえゲーマーの考えに寄り添った人物であることも本プロジェクトを語るうえで注目したい部分だ。氏はなんと、海外だけでなく、日本国内のプロモーションも同時にこなしているというのだ。本作の展開を見ていると、メインターゲットであろう海外だけでなく、日本のユーザーにも配慮した展開が目立つ。作品の雰囲気をしっかりとつかんだうえで、ホームページなどでも積極的に情報を発信し、ローカライズもばっちりこなしてくれている。漫画までローカライズしてくれるなんて……!(M.Panda氏によると、今後も海外でパブリッシングする作品を探しており、インディーゲーム大歓迎!とのこと。)

https://twitter.com/RocketPandaJA/status/1501816408329842688

こんな風に復活してくれたら、『ファントムブレイカー』を応援したい……!という気持ちが加速してきたので、ゴジラインでは引き続き『ファントムブレイカー』 の攻略や魅力をお伝えする記事をお届けします。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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