おれの中で2020年ベストKawaiiゲームヒロイン大賞が決まりました。
角川ゲームミステリー『Root Film ルートフィルム』に登場する曲 愛音(まがり あいね)ちゃんが、超kawaii。
まだ1年は終わっていませんが、ここにグランプリを授与することを報告いたします。
主人公の相棒的な立ち位置で登場するこの曲ちゃん。お顔はもちろん性格、ファッション、喋り方、すべてがストライクすぎる。スカジャンを着たヤンキー気質の女の子でありながら、情に厚く超優しい。
主人公に愚痴を言うこともあるけれど、そこに悪意はなく無邪気さがあり、フィクションの世界って最高だと心底思える神ヒロインです。オタクの憧れる、フィクション上のヤンキー×ギャルをここまで素晴らしい塩梅で送り出してくれた角川ゲームスに感謝。リアリティとかいらないんです。おれにだけ優しい世界、それがあればいい。
そんなわけで『Root Film ルートフィルム』をクリアーし、その余韻に浸っております。皆様もこの画像を見て、超kawaiiじゃん、遊んでみたいと思ったとでしょう。
どんなゲームなのと気になっている方も多いはず。そんなわけで、ネタバレ(ほぼ)なしのゲームレビューをつらつら書いていこうと思います。
本作は冒頭にも書いたように、角川ゲームミステリーシリーズの最新作にあたります。シリーズ名の通り、作中で起きる事件を主人公の視点を通じて解決していくタイプの作品です。一話完結型のミステリーが複数楽しめるタイプの作品で、その背骨として大きな謎が通っているという構造になっています。
ミステリーゲームというと、プレイヤーをどれだけ驚かせてくれるかというのが見所になりますが、本作の場合はミステリーというジャンルでありながら、大きなテーマは別にあるという印象です。そのためミステリーとしては実に親切で、シナリオの中に出てくる推理のために必要な情報を、ゲーム側がはっきりと示してくれます。推理の糸口になる言葉が出てきた時に、主人公の特殊能力が発動し、それが画面上に強調されて表示される仕組みなのですが、これがかなり親切で、メモなど取らなくても簡単にエンディングを迎えられるんですね。強調されたワードをぼんやりと覚えておけば、犯人を追い詰めたり、推理するパートに当たる”MAXモード”は難なくクリアーできるようになっています。作中で使われる殺人のトリックにミステリ好きなら”思い当たる”ものが多かったり、主人公だけが知っている情報が出てきたりすることもあり、推理とそれによって起きる急展開を楽しむタイプの作品ではありません。
それって楽しいの、と思う方がいるかもしれませんが、筆者は本作をとても気に入っています。曲ちゃんがkawaiiからというのもあるのですが、本作には本作だけの見所がちゃんとあるのです。
まず、大きな見所になるのは、一話完結型のドラマをつなぐ背骨のような要素。具体的に紹介すると本作を遊ぶ楽しみを損なうので、さらりと書きますが、複数の事件を追いかけているうちに見つかる真実と、それを追う過程を楽しんでください。驚かされる部分はちゃんと用意されています。本作の主人公は”八雲MAX”ですが、物語を進めると2人目の主人公とである”リホ”の物語が絡んできます。いわゆるダブル主人公というタイプの構造になるので、当然プレイヤーは二人の物語がどう交差するのかと想像しつつプレイを進めます、するとそこには多くのプレイヤーの想像を超えた展開が待っています。
そして筆者が本作に強く惹かれるのは、作品全体に旅情とでもいうべきものが溢れているからです。
実際の土地を舞台にしたアニメやゲームというと、それほど珍しいものではありません。本作の場合は島根県の協力の元で作られていますが、最近ではこの手の聖地作りを兼ねた作品作りも増えてきました。筆者も実際に、物語やキャラクターに感銘を受け、よりディープなファン活動として舞台探訪を楽しむということで旅に出たことが何度かあります。そういったオタク旅にはいろいろな思い出があるのですが、ここ数年はさすがにこうした作品に慣れすぎたのか、それとも結構旅に行くから慣れてしまったのかわかりませんが、作品をきっかけに「ここに行ってみたい」と思うことは随分と減りました。そして、キャラクターや物語に感銘を受けたから舞台探訪に行くという場合、それは必ずしも作品の中に旅情があることを意味しません。あのキャラクターが通った道を通りたいという動機だけ向かう場合も多く、現地で作品と同じ画角になる写真を撮影して満足するということも珍しくありません。
そんな僕が、エンタメ作品をきっかけにじっくりと旅をしたのは2016年に『√Letter ルートレター』を遊んだとき。角川ゲームミステリーシリーズとして世に出たこの作品は、『Root Film ルートフィルム』と同じく島根県が制作協力したアドベンチャーゲームで、松江城や宍道湖といった観光名所などが実に魅力的に描かれていました。実際に舞台に訪れると、作品の中で描かれていた以上の魅力ある場所が目の前に広がり、ただの舞台探訪以上の体験をすることができました。実際、島根に興味を持ち、雲南にも足を運びました。
『√Letter ルートレター』は主人公の”マックス”があまりにも型破りな人物だったことや、カラスが頭に刺さって死ぬ人が出てくる奇想天外なシナリオなどもあり”ぶっとんだ作品”として知られていますが、そこには確かに旅へと誘う旅情もあったのです。僕はこの作品に誘われて、濃密な島根旅を楽しんだつもりだったので、『Root Film ルートフィルム』はそのおさらいとしてプレイするつもりでした。しかし、プレイを終えた今、再び島根に行きたくて仕方がありません。
このゲームを遊ぶまでは、「こういう時期だからこそ、ゲームの中で旅を楽しもう」みたいなことを考えていたのに、これも勘違いでした。ゲームの中で濃密な旅ができるゲームを遊んでしまうと、旅に行きたくなるのですね。『√Letter ルートレター』を島根入門編とするなら、『Root Film ルートフィルム』は島根上級者編といった位置づけでしょうか。まだまだ知らない場所がたくさんあるのですね。すごいぜ島根。今の状況が落ち着いてきたら、絶対にまた行きたい!
本作に深い旅情を感じるのは、実際の場所を多数登場させているからという単純な理由ではありません。知っている場所、もしくは知らないけれど魅力的な場所が出てくるというだけでなく、それを切り取る作品の表現が秀逸なのです。アドベンチャーゲームと言うと、背景の前にキャラクターがこちらを向いて立っているという作りの作品が多いのですが、本作の場合は写真をベースにしたであろうきめ細やかで立体感のある背景の上に、向きや位置を工夫してキャラクターを配置することで、ものすごい奥行きと瑞々しさを出しているんですね。おそらく、実際にその場所に行けば、キャラクターたちの姿が浮かぶでしょう。見せ方にこだわるというのはアドベンチャーゲームの流れの一つですが、『Root Film ルートフィルム』もまた見せ方の発明を目指した作品と言えるでしょう。素晴らしいのは、この見せ方の発明が、おそらく潤沢な予算によって成されたものではなく、クリエイターの努力と工夫で仕上げられたものが想像できるところです。確かな表現力で描かれたキャラクターの立ち絵を複数パターン用意し、背景の奥行きに合わせて配置を試行錯誤するという工程があったのではないかと想像できます。個別のシーンをじっくり見ていくと、やや強引な絵作りもあるのですが、全体を通してみればそれが工夫の賜物であることがわかるはず。この流れは、是非とも次回作に引き継いで欲しいですね。
なんでこんな素晴らしい表現が生まれたのかと想像すると、ベテランクリエイターの存在が大きいのではと予想します。本作のキャラクターデザインを務めたのは、箕星太朗先生。『ラブプラス』のキャラクターデザインを務めた箕星先生の絵は、他の角川ゲームスの作品でも強烈な存在感を放っています。しかし今作ではは絵の新たな魅力、新境地とでもいうべき変化を感じます。画面がアドベンチャーゲーム的な絵作りから脱却したこと、キャラクターの性格や趣味嗜好を漂わせる服装のセレクト、そして今までのゲーム作品では見られなかった塗りの変化。確かに箕星先生の絵なのに、新鮮で、もっともっとグラフィックを見たいという気持ちが膨らみます。
そして、本作のディレクターは、『クロックタワー』、『御神楽少女探偵団』、『鉄騎』、『猫侍』などを手がけた河野一二三氏が務めています。本作はアドベンチャーかつミステリーというある意味王道の組み合わせではありますが、河野氏の作品ということでプレイフィールはやはり独特。まず、ゲームというよりは、連作もののミステリードラマを見ているような感覚になるのも狙ってのことでしょう。何より旅情とミステリと、そしてとある悲劇のバランスがとてつもなく良い。ちなみに、このシリーズの前作にあたる『√Letter ルートレター』は主人公のパーソナリティが強烈すぎたことや、分岐によっては愛すべきバカゲーと化す作品でしたが、本作はどちらかというと硬派なミステリー。こうした『√Letter ルートレター』要素は薄まりましたが、底をさらってみると、おそらく意図したであろう”らしさ”が掬い取れます。前作を遊んでいなくても楽しめる作品であり、雰囲気も随分変わっていますが、シリーズへのファンサービスもちゃんとあるのが嬉しかったです。クリエイターインタビューがあるなら、自分が担当したい!
クリアまでのプレイ時間は音声をフルに聞かない自分で数時間程度。おそらくフルに聞いても10時間から15時間くらいで終わる作品なので、フルプライスのゲームとしてボリュームを気にするとやや短く感じる方もいると思います。アドベンチャーゲームのシナリオは、好みによって評価が分かれるもので、それをぼやかすのがボリュームであったりします。ボリュームが多いと枝葉の部分で、シナリオというキモになる部分の評価をぶらすことができるんですね。そこへいくと本作は、分岐や個別ルートといった枝葉を用いていないため、クリアーまでにかかる時間も労力も少ないのです。
そんな事情もあって、シナリオやミステリのトリックの方向性が受け入れられない人には物足りない作品になるかもしれませんが、全体に通る大きなテーマ、旅情ものとしての側面や、表現の妙を注視していると、実に意欲的な作品で、フルプライスの価値は十分にありと僕は判断しています。(欲を言うと、DLCとは言わずドラマCDでもノベルでも良いので、ヒロインの個別ルートが欲しいと思うのは、僕がギャルゲー脳だからでしょう。)