「このクリエイターが作っているから」という理由でゲームを買うことがしばしばあります。この『サガ スカーレット グレイス』は、河津秋敏さんが作っているというだけで、本当に楽しみにしていた作品です。
河津さんの関わったと言われている作品で、有名どころといえば『ロマンシング サ・ガ』、『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』、『ラスト レムナント』、『ファイナルファンタジー クリスタルクロニクル クリスタルベアラー』。そしてよくネタにされる『アンリミテッド:サガ』あたりが挙げられます。河津さんがどこまで製作に関わっているかというのは作品によって違うと思いますが、少なくとも僕にとってこれらの作品は、河津さんの作品だから遊びたくなったというのが大きいです。結果として、どの作品もかなり長い時間遊びました。そのどれもが、理解するのに時間がかかるほど新しく、刺激的だったから。
河津さんの作るゲームは、既存のゲーム体験では通用しない攻略や理解が求められるところがあって凄く好きです。いつも、「このゲームを理解したい」みたいな感覚でプレイします。面白いか面白くないかわからないままやり込んで「このゲームを理解できる俺、やるじゃん!」みたいな気分になることだってあります。
技や術、アイテムのコンプリート、縛りプレイ、タイムアタック、世界観をとことん楽しんだ話。みんなそれぞれに、自分の好きな作品にささやかなエピソードを持っています。長く遊べること、やり込みに耐えうること、新しい体験が待っていること。そして、それらが混ざり合って、自分だけの冒険が出来上がることが、河津さんの作品の魅力なのかもしれません。そんな自分が期待するものが、しっかりと『サガ スカーレット グレイス』には詰まっていました。
前置きが長くなりましたが、今回の記事では、熱烈な河津さん信者を勝手に自称しているおっさんゲーマーの私が、本作に惚れ込んだ部分を中心につらつら書いていきます。
退屈を感じさせないバトル
『サガ スカーレット グレイス』は、バトルを楽しませる方向に寄せて作られているように感じます。これほどバトル推しな作品は最近では珍しいなと感じるものの、それでいて本作ならではの斬新な歯ごたえが終始に渡って続きます。斬新なバトルを盛り込んだ作品というと、今までにもいろいろありましたが、この作品が成し遂げている”斬新かつ分かりやすい”ものというのは、数えるほどしかありません。
戦闘は、敵の行動をコマンド決定前に予測できる”タイムライン”を軸に進行していきます。相手の大技の予兆が見えた時にどうやって身を守るか、範囲攻撃に長けた術や状態異常を誘発する攻撃を多用してくる予兆が見えた時に、どうやってその相手の行動前に倒しきるか。相手の動きが可視化された状態ならではの戦略の組み立てが理解できてくれば、本作の魅力がじわりと感じられるようになるはずです。
土日を使ってかなり長い時間、この作品を遊びましたが、バトル中の適度な緊張感は持続していましたし、完全に格下の敵はともかくとして、そこそこの強さの敵に油断してボタンを連打しようものなら全滅ということも珍しくありませんでした。一回のバトルが非常に濃密で、難しすぎてストレスにならないギリギリのところに落とし込まれています。
バトル中に、特定の条件を満たすと発動する連続攻撃の”連撃”や、窮地にプレイヤーを助けてくれる”恩寵”、『サガ』シリーズの醍醐味とも言える”閃き”システムなど、予想していなかったところで起きる要素たちも、戦闘にメリハリを与えてくれます。全滅するかと思ったところを、連撃や閃き、恩寵で切り抜けたり、余裕かと思っていたバトルで相手の連撃で一気に窮地に立たされたり。これらの要素が発生するタイミングがある程度馴染んできたとしても、「何かが起こりうる」感覚が程よい緊張感と、意外な爽快感をもたらします。
戦闘に絡んだ、キャラクターの育成や、鍛冶での武器強化、敵からのドロップ待ちなどは、充実した”やりこみ”要素になっています。様々なキャラクターが仲間になるため、パーティ編成はとにかく自由度が高く、育成に終わりが見えない勢いです。
また、バトルに関して言えば、本作はプロモーション前の段階から「ロードの長さ」が話題になりました。これに関しては初出の実機プレイ映像から比べるとかなり短くなりましたが、それでもやや長めです。強敵との戦闘を繰り返している時は、気持ちが高まっているのか体感レベルで「長い」とは感じにくくなっていますが、素材集めなどを目的とした同じようなバトルが続くとこの長さが際立ちます。でもこのことが、『サガ スカーレット グレイス』を遊ばない理由には全くなりません。
組み立っていくストーリー
本作のストーリーは、マップ上のイベントを追いかけていく形で
進行していきます。これらのイベントは、最近のRPGには珍しく、一つ一つがそれほど時間をかけずにサクサクと進んでいきます。とはいえ、そのイベントの数は膨大で、中盤あたりにさしかかったところで振り返ってみると、丁寧に作り込まれた世界観の中にいることがわかります。本作の特徴として”ダンジョンがない”という点が話題になっていますが、イベントを発見することがダンジョンを解いていくような頭を使う刺激に結びついています。
据え置きハードの作品のように壮大なムービや、アニメーションなどはないため、さらりとプレイして比較すると「薄味だった」という感想も浮かんでくるかもしれませんが、細かくサブイベントなどをコツコツと消化して進めていけば自分だけの濃密な冒険譚が出来上がっているはずです。自分だけのというフレーズを聞いて疑う人も多いと思いますが、この作品は、同じ主人公でプレイしているにもかかわらず、友達とプレイの流れがまったく噛み合わないということがしょっちゅうでした。(最近のゲームは、発売直後の土日を迎えれば、攻略情報がある程度まとまってくるのですが、この作品はまだ全貌を掴みきれていないのか、セオリーのようなものすら確立されていません。)
おれは今、ウルピナ編をクリアーしたうえでこの記事を書いていますが、残りの3キャラクターのストーリーも気になるし、他のルートでは是非消化したいと思っているサブイベントも沢山あります。ウルピナ編である程度世界観をつかんだつもりにはなりましたが、まだまだわからないことが沢山あります。
きっと、すべてのキャラクターを一通り遊んでも、わからないことだらけな気がします。それでいつも、攻略本に掲載される設定話に頼って、答えあわせをしたり、なるほどという裏設定に驚いたり。そういうところもきっとこの作品は楽しいはず。そんなわけで、攻略本の方は、とにかくそっち方面の情報を疎かにしたものが世に出ないことを祈っております。
河津さんの作品に、やり込み要素や遊び応えを求めている自分としては、とにかく嬉しい作品です。スーパーファミコンやプレイステーションで発売された『サガ』シリーズに思い入れのある人には、どこかしら刺さる部分がある作品だと思います。
ただ、この作品はかなり尖った作品であり、かなり戦闘に寄せたゲームデザインと、見方によってはやや淡白に見えるストーリーなど、減点法でいくと弱点に見える部分も幾つかあります。ただこれらは、手抜きや荒削りなものではなく、あえてそうすることを選んだ作品のように感じます。それらが不親切に感じなかったのは、おれがこのシリーズを信じているからかもしれませんが、ウルピナ編をクリアーした時の満足感は凄まじいものでした。
『サガ』シリーズを遊んだことのないおれの奥さんは、「ゲームの面白さがわかるまで時間がかかる」と言っていました。序盤は技も少なく、戦略を組み立てるのは難しいですし、ストーリーに感情移入ができるのも、ある程度話のピースが出揃ってからになるので、この感想は当然かもしれません。
一言でいうと、「渋い」ゲームです。遊ぶ時間が増えるにつれて、エッセンスが滲みだしてきます。
ピコーンと閃いてやり込めればもうそれで楽しいという『サガ』好きには、信じて、遊んでほしい作品です。『サガ』なんて知らないよというプレイヤーの方は、なぜこのシリーズが、河津さんの作品がおっさんゲーマーたちを熱くさせてくれるのか、10時間遊べば見えてくるかもしれません。
ここまで書いて気づきました。本作の面白さや楽しいところや新しいところは、おれ以外の人にわからなくてもいいし、伝わらなくても全く構わないことに。そう、おれは、このワインの美味さがわからないなんて、君はまだまだだねというような態度で、『サガ スカーレット グレイス』を遊び続けたいのです。
そしていつか、自分と同じようなプレイヤーにどこかで会って、あなたもわかりますか、『サガ スカーレット グレイス』の素晴らしさがなんて風に語り合いたいのです。