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【ネタバレほぼなし】情趣溢れる実写映像が彩る『春ゆきてレトロチカ』が全面的に好きだ

   

待ちに待っていた作品が、期待以上の体験をさせてくれる。
『春ゆきてレトロチカ』、実に美しいタイトルを持つこのゲームは、驚くべき豊潤さを備えていた。
もともとこのゲームに興味を持ったのは、スクウェア・エニックスが実写アドベンチャーゲームを作っているというニュースを見たのがきっかけ。僕はかつてのスクウェアから発売された『アナザー・マインド』というゲームを大変好んでいて、その傑作ぶりにほれ込んだ記憶がこのニュースをきっかけに蘇ってきた。もちろん、『春ゆきてレトロチカ』は『アナザー・マインド』と関係のある作品ではないが、満を持して発売されるスクウェア・エニックスの実写アドベンチャーゲームは、きっと面白いだろうと予感したのだった。 

期待を膨らませて遊んだ『春ゆきてレトロチカ』は、予想の遥か上、すばらしい揺さぶりをもたらしてくれる作品だった。映画としても通用するであろうドラマのようにリッチで滑らかな実写映像に驚かされ、そのうえでゲームでしかできないミステリーの楽しみ方を示し、タイトルから漂うセンチメンタルな雰囲気を繊細に纏っている。

発売前は、眠らずに最初から最後まで遊んでしまおうと考えていたが、1章を遊び終えたところで方針を変え、適度な頭の休憩を取って遊ぶことにした。本作が謎の解明を目的とするミステリーかつ、ゲームとして試行錯誤させる推理パートを用意した作品というのもあるのだが、それ以上に一気に遊ぶのは勿体ないと思わせるような出来栄えだったのだ。ひと段落ついたら、それまでのシーンに思いを馳せながら珈琲を淹れたり、眠ったり。噛みしめるように2日間に渡ってプレイを楽しんだ。

本記事では『春ゆきてレトロチカ』を、未プレイの皆様におすすすめするという目的のもと、ネタバレ少なめの紹介記事をお届けする。

※本記事はネタバレ要素は少なめですが、『春ゆきてレトロチカ』の本編画像を含みます。
本記事の感想は、PS5版のプレイに基づきます。

現在と過去が交差する物語を
リッチな映像表現と役者の演技力で描き切る

『春ゆきてレトロチカ』は”ミステリーアドベンチャー”というジャンルを謳っており、現在と過去が交差する壮大な謎解きを描く作品になっている。まずは、物語の概要を、公式サイトに出ている範囲でご紹介する。

ミステリー小説家の河々見(かがみ)はるかは、知人の科学者である四十間(しじま)永司から、桜の下で見つかったという古い白骨死体と、四十間家に存在するという“不老の果実”の捜索を依頼される。不老を叶える果実という俄かには信じられない存在を訝しむはるかだったが、永司の先祖である四十間佳乃(よしの)が書いた小説には、不老の果実を巡る事件が記されているという。はるかは小説を読み進め、過去の謎に触れ、同時に現代の四十間家で起きた奇妙な事件を解決するため知恵を絞る。

以上が本作の冒頭部分の要約である。仕組みとしては、現在の事件を追いながら、100年も前に書かれた事件の謎を追うという形なのだが、これが実写映像、しかも映画調の動画で表現されるという点が本作の大きな見どころとなる。

▲本作の主人公・河々見(かがみ)はるか。気鋭のミステリー小説家で、探偵さながらの推理力を持つ。

『春ゆきてレトロチカ』の世界では、過去の事件が現在の事件と深いつながりを持っており、四十間佳乃の書いた小説を読み解くことが、現在まで続く謎や、現在で起きた事件を解決する糸口となっている。はるかは四十間佳乃の小説世界を読み解く際、過去の事件の登場人物を自らと周囲の人間に置き換えて読み進めるという手法をとる。はるかの想像の中で、佳乃は自分自身に置き換えられ、その他の人物ははるかの知る人物に置き換えられるのだ。そしてこの模様は、レトロな情緒をこめたリッチな映像として、プレイヤーの前に示される。はるかが想像する過去の世界では、現在の人間がまるで違った立ち位置で登場するのだが、現在と過去で、同じ役者による、全く異なる演技を楽しめる。僕はこの手法を使ったたとある映画が好きなこともあり、大変楽しみながらプレイを進めることができた。

▲小説世界では、現代の人物たちが、過去の人物たちに置き換わる。はるかは佳乃(左)として、小説の中の謎に挑む。現代と過去で同じ役者が違う役を演じるという仕組みになっている。

主人公のはるか、佳乃を演じる桜庭ななみさんをはじめとする役者陣の演技は見事だ。ほぼ動画で構成された作品ということで、ゲームにどれほどの表現が可能かと思っていたのだが、作中に使われている映像はどれもそのままテレビや劇場で流して通用するようなものになっている。また、声優の梶裕貴さん、麻倉ももさん、女流棋士の香川愛生さんの登場によって、作品に不思議なめりはりが生み出されているのも面白い。実写作品に俳優として登場する方もいるが、声優、棋士といった方が混じることで、そのシーンにゲーム的な雰囲気が生まれ、少し空気が変化するのだ。また、格闘ゲームファンである僕にとっては、カメオ出演として、プロゲーマーのネモさんが出ているという試みも嬉しかった。事前にSNSで告知されていたため、プレイしながら探してみたのだが、作品に溶け込むようにふっと出てきた。

3つのパートが生む、新しい推理ゲーム体験

本作には問題編、推理編、解決編と3つのパートが用意されている。
問題編では、実写映像を使ったリッチな表現で、事件の発生から、解決に向けて捜査を進める様子が描かれる。このパートは基本的に、映像を見ることに注力するところなのだが、冗長にならないようにぎゅっと要素が詰め込まれていて、退屈さを感じることがなかった。
かといって緊張しっぱなしで見なければならないというわけではなく、気になるところがあれば映像の一時停止や巻き戻し、会話をテキスト形式のログで再確認することもできる。この映像の巻き戻し機能は、他のアドベンチャーゲームではなかなかお目にかかれないものになっており、同時に本作に実にマッチした仕組みだと感じた。セリフを聞き逃してしまったとき、もしくは推理に必要な情報を再確認する際などに実に便利なのだ。推理ものというだけあって、会話だけではなく、映像にも事件解決のヒントが散りばめられているので、任意で映像をコントロールできるというのは実に嬉しい仕組みだ。

▲問題編では、事件が発生して、その解決に向けた探索などが描かれる。

推理編は、問題編で得た情報を組み合わせてさまざまな”仮説”を作り出すパートとなっている。こちらのパートでは、主人公の思考空間が盤面のような表現で描かれ、その盤面上で問題編で得た情報を組み合わせていくのだ。問題編とは異なり、ゲーム的なUIで作りこまれているため、映像編とのギャップを感じるかもしれないが、このギャップこそが本作がゲームであることを強調してくれる。ここで作り出される仮説は、真実と合致するものもあれば、異なるものもある。このパートの目的は、さまざまな仮説を作り出すことなので、間違った仮説が出てきても慌てる必要はない。

▲推理パートでは、問題編で得た情報がアイコンのような形で表示される。その情報を、組み合わせて”仮説”を作り出すのだ。仮説がある程度できてきたら、解決編パートへと進める。ヒント機能なども用意されているので、ここで”詰む”ということはないだろう。

推理パートの仕組み自体は簡単なのだが、仮説を組むためのパーツの組み合わせが多いため、慣れないうちはトライ&エラーの繰り返しになってしまうこともある。盤面を作る際の操作も、選択肢を選ぶだけではなくて、実際に盤面上に移動して組み合わせる必要がある。もっと早く先を見たいという欲望が常にあるため、最初のほうはこのパートにやきもきさせられたのも事実だ。

しかし、遊んでいくうちに、このパートが、ひとつのミステリの読み方を示してくれているような気がしてきた。「得た情報をさまざまに組み合わせ」、「さまざまな仮説を考える」ということを、丁寧に行うパートなのだと理解する頃には、推理編を楽しめるようにすらなっていた。僕はミステリ小説をほどほどに読むほうだが、その際、きっちり推理をして読み進めているわけではない。いくつかの根拠を見出して、半ば思い込みに近い道筋でその根拠を組み立てるということをやって、「犯人はこいつだろう」と考えて読み進めている。そして犯人が的中すれば、ほらみたことかと得意になり、外れたらなるほどそういうことか、ということをやっているのだが、『春ゆきてレトロチカ』は、こうした態度よりは真摯に謎に向き合っているように感じる。「さまざまな仮説を立てたうえで、捨てていく」というこの作品で教わったミステリの楽しみ方は、今後の糧になりそうな予感がする。

解決編パートではいよいよ、真相を暴くことになる。ここでは、推理編で得た仮説の中から正しいものを選ぶことで物語が進行する。ここで間違った推理をしてしまうと、ゲームオーバーになってしまうが、すぐに解決編からやり直せるので、ゲームをクリアーする難度は低め。そのうえ、本作は基本的には一本道のゲームなので、ここで何度か躓いたからといって、真相を見逃してしまうということもない。

▲解決編では、事件の真相を明かしていくことになる。ここでは、真相や犯人を選択肢の形で選んでいく。間違えると一旦ゲームオーバーになるが、すぐに同じところから再開できるのでご安心を。

ミステリとしてのクオリティについては、ネタバレにもつながるうえ、門外漢なので言及はしない。作中で起きる複数の事件の中で、合う、合わない、許せる、許せないというものは人によってあるだろう。筆者の場合は、とある真実に驚かされる瞬間があったと報告しておく。

『春ゆきてレトロチカ』が好きになった

ほぼ全編を実写映像、それも動画でやりきるという試みに加えて、過去と現代の演じ分け、このゲームのために設計された推理パートの独特なシステムと操作性など、新しく挑戦的な試みに満ちた作品ではあるのだが、遊んでいてふと懐かしさや心地よさを感じることがある。このレトロな感覚をもたらしているものはなんなのだろう。現代の謎の舞台となっている古い大きな屋敷、100年前の人物たちが身に着けている着物、ちょっと和風の混じったユーザーインターフェースといったビジュアル的な部分なのか。周囲を見回したり、総当たり的に調べていく調査といった、古き良きアドベンチャーゲームの気配なのか。断定することはできないが、いろいろなものが少しずつと作品の中で溶けだし、混ざりあって、レトロでゆったりとした雰囲気を醸しているのだろう。

▲物語と推理を楽しむための要素も充実している。

▲驚くことに平面図なども用意されている。こんなにも作りこまれて丁寧な作品なのに、どこか心地よいレトロな気配を感じるのだから面白い。

ゆったりと書くとポジティブに、テンポが悪いと書くとネガティブな感覚の表現になる。
僕はゲームにおいてはかなりのテンポ重視派で、RPGなどはUIがもたもたしていたりするとその時点でやる気が削がれたりする。しかし、本作については、ちょっと時間のかかる推理編も含めて、時間のかかる部分を愛おしく思う。こういうのもありなのかもしれないと思うほどに、その他の部分の作りこみに感心させられるし、ここまで作りこんだ作品が、ゲームのテンポの部分を意識していないとは思えないというのもある。仮に、このゲームの推理パートが、サクサク進められる味気ないものだった場合、謎が爽快に解かれていく解放感は得られなかったのではないだろうか。

本作のテンポに対する感想は、人によって異なるだろうから、自分のことを少し書いておく。
ゲームに限らず言えば、僕はレトロなものや、ゆったりと時間をかけて楽しめるものが好きである。たとえば珈琲。全自動のコーヒーメーカーや、カプセル式のコーヒーメーカーを使うと、簡単に美味しい珈琲が飲める。しかし、時間があるときには、あえて手挽きのコーヒーミルで豆を粉にし、ケトルからお湯を注ぎまわすハンドドリップで淹れたりする。そうすると味の良し悪しを超えて、満足のある珈琲を一杯飲むことができる。カメラにしても同じで、デジタルカメラが主流となった今も、フィルムカメラを使いたくなるときがある。フィルムを現像してきたときに出てきた意外な一枚には、デジタルでは撮れない何かが宿っているようにも感じる。こうしたレトロでゆったりとしたものがもたらしてくれる満足感は、確かに充実感として得られるものだ。そうした、ひと手間かかる、レトロなものに宿る魅力をしっかりと分析して抽出し、それを現代のゲーム制作の技術を凝らして作りこんだ作品が『春ゆきてレトロチカ』なのではないかと想像する。

▲風景の切り取りかたひとつとっても、『春ゆきてレトロチカ』というタイトルにふさわしい情緒を感じる。

本作を遊ぶ場合、可能であれば時間の余裕があるタイミングで取り組むことをおすすめしたい。たっぷりと時間をかけて、問題編、推理編、解決編を味わうことで、本作のエッセンスのようなものが溢れてくるからだ。映像、物語、音楽、役者の演技、不思議な手触りのユーザーインターフェースなど、どれも語りつくせないほどの味わいがある。

ミステリアスで、どこか切なくて、懐かしい。そんな物語を好む人であれば、充実した時間を過ごせるだろう。
また、本作は、友達や家族と遊ぶのもおすすめだ。推理や解決編に時間制限はないため、ああだこうだと言い合いながら推理ゲームを楽しめるはず。

余談だが、『春ゆきてレトロチカ』が発表されたときに、個人的には大きな期待を寄せたものの、勇敢さがすぎる作品ではないだろうかとも心配した。家庭用では世界展開を目指すフォトリアルなゲームが増え、スマホゲームでは煌びやかなイラストが彩る時代に、日本を舞台にした実写アドベンチャーを出すという試みに面食らったのだ。小さな市場規模を狙った、コンパクトな作品なのだろうかとも想像したのだが、蓋を開けてみるととてもリッチな作品が出てきた。
プレイを終えて、作中の謎は解決したが、この作品を作ろうと思った動機は、どのように作り上げたのか、制作期間は、想定する市場は、そして制作陣の原動力となったのは……、といった新たな謎が自分の中で駆け巡っている。

スクウェア・エニックスからこのような新規IPが出てきたことが本当に喜ばしい。できればさまざまな人に愛され、続編や新展開にもつながってほしいと願う。
クリアーしてしまって寂しいという感覚を、久々にゲームで味わっている。

■タイトル:春ゆきてレトロチカ
■ジャンル:ミステリーアドベンチャー
■メーカー:スクウェア・エニックス
■プラットフォーム:PS4、PS5、Switch、Steam
■価格:パッケージ版 7,480円(税込) ダウンロード版7,480円

© 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by h.a.n.d., Inc. Story by Nemeton

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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