発売日 :2021年10月28日
プラットフォーム:Nintendo Switch/PlayStation5/PlayStation4/Xbox Series X|S/Xbox One/Steam
ジャンル :和風ホラーアドベンチャー
販売元 :コーエーテクモゲームス
価格 :通常版 各5280円(税込) ダウンロード版 各5280円(税込) Digital Deluxe Edition 各7480円(税込)
個人的に、昔のホラーゲームは、一部のファンを魅了するコアなジャンルのイメージがあった。それが時代を重ねるにつれ、実況・配信との相性の良さから、幅広い層に認知されるようになった。
古くは『青鬼』、配信停止で伝説になった『P.T.』、SFホラーの名作『DEAD SPACE』、実況プレイの定番となった『Outlast』、カジュアルな所では『Dead by Daylight』など、ホラーゲームはぐっと身近で話題性のあるジャンルになった。
20年近く前、まだゲーム配信がなかった頃に生み出され、現代まで遺伝子が脈々と受け継がれている日本製の名作タイトルがある。『バイオハザード』は順調にナンバリングを重ね、ゾンビものは今、ホラゲーの王道だ。『サイレントヒル』は洋ゲーに強い影響を与えていて、『Layers of Fear』や『Medium』といった、精神的嫌悪感を推し出した作品から「裏世界」の雰囲気を感じ取れる。
その一方で、途絶えてしまったものもある。暗闇の中からじわりと染み出すような、静かでしっとりとしたホラーだ。筆者がこよなく愛する『零-zero-』シリーズはその中の一つである。どれくらい好きかというと、昔やったおすすめホラーを紹介する企画で真っ先に挙げたくらい大好きだ。
自分語りになるが、筆者はホラーが好きで映画や小説もよく楽しむ。だが、やっぱり没入感の高いゲームが良い。……と言っても、別にビックリしたいわけじゃない。例えば、暗くて長い廊下があって「この途中どこかでオバケが出るぞ」と言われたら、ぶっちゃけ最後の最後まで出てこないのが、一番だと思っている。
「何かが出るかもしれない」。そういう静けさの中を、深く息を吐きながら、少しずつ歩くのが好きだ。日本家屋の床をギシッと踏みしめる音が好きだ。背後で襖(ふすま)が静かに閉じられる音が好きだ。淡い光の中に、年季を感じさせる白い埃が浮かび上がっているのもいい。
要するに「オバケが出るかもしれない静謐な空間」が欲しくて、それを提供してくれるのが『零』シリーズだったのだ。本作のオリジナル版をクリアしてからも、同じような感覚を味わいたくて色々なホラゲーを漁ったが、なかなか代わりになる作品に出会えない。そのうちいつの間にか、『零』シリーズは最新ハードで遊べなくなっていた。やりたくなったら収納ボックスの中から古いゲーム機を引っ張り出す必要があった。それが今回のリマスター版『零 ~濡鴉ノ巫女~』の発売で、ついに解消されたのだ。
「ホラーゲーム? やっぱ『零』でしょ。面白いからやってみ?」と言える時代が戻ってきた。それはとても素晴らしいことだ。
幽霊をカメラで撮影して攻撃する。ちょっと変わった和風ホラーゲーム。シリーズの伝統を受け継ぐ本作『零 ~濡鴉ノ巫女~』は、しかし、『零』シリーズの中では異色の作品だ。
一番怖くない。
グラフィックが綺麗になりすぎて悪霊も美人だとか、悪霊のおっぱいがでかいとか、ミッション選択式だから緊張感が薄いとか、考えられる原因はいくつかある。他の『零』では、常に閉鎖感や焦燥感があった。巨大な屋敷や滅びた村に閉じ込められ、悪霊を撃退しないと外に出られないのが普通だった。
本作は山が舞台で、登場人物たちはミッションごとに家と山を行き来するので、「帰ろうと思えば帰れる」という安心感がある。各章の間に文字のあらすじが挟まれるため、没入感が削がれる。メインの主人公である来不方夕莉(こずかた ゆうり)が、か弱い印象の旧作キャラと比べて、見た目がギャルっぽく、肉付きがよく、足が早くて走り方がオラついている、アウトドア感あるのも理由の一つだと思う。
主人公を襲う悪霊の中に、明確な敵意を持ったものが少ないのもあるだろう。オリジナル版でWiiUという挑戦的なハードに最適化した結果、偶然こうなってしまったのかもしれない。
ともかく、本作は『零』シリーズの中で一番怖さが控えめだ。驚かせる演出も(※ゴーストハンドの頻度以外は)少ない。「ちょっとホラゲーを自分でも遊んでみたいなー」と思った時に、丁度いいタイトルなのである。初代主人公など旧作の登場人物が登場するが、ゲーム内で閲覧できるメモの中に概要が記されているので、事前知識はなくても大丈夫だ。歴史あるシリーズの復活作であると同時に、ほどよい怖さで、ホラーゲーム入門にうってつけなのだ。
エロい。
本作では、物語的にもゲーム的にも「水」が大きな役割を持っている。元来、湿気が強いのが和製ホラーの個性である。水辺は幽霊の世界が近い。水を浴びたり、悪霊の攻撃を受けると、キャラの身体が濡れて服が肌に張り付く。
今回のリマスター版では「濡れ」の表現が大幅にパワーアップされ、かなり服が透けるようになった。WiiU版じゃ下着まで見えなかったはずだぞ。エロい。メイン主人公の夕莉はプロポーションが良くてエロい。初代主人公の娘である雛咲美羽(ひなさき みう)は、従来の華奢な体型でピッチリした白い服を着ているので超透けてエロい。
リマスター版で追加された機能「フォトモード」は、プレイ中に画面を止めることができ、キャラの場所やカメラの位置を変えてスクリーンショットを撮ることができる。「今濡れてる!」と思ったら即座にフォトモードを起動して、透けてるエロい絵を保存できるのだ。
ホラーゲームとしては、「心霊スポット」と「幽婚」に焦点が当てられている。逢魔が時に異界と繋がる霊山「日上山」が本作の舞台なのだが、この山、あの恐山を筆頭に、断崖や滝、樹海のように鬱蒼とした木々、崩落したトンネル、日本人形が祀られた神社といった、日本全国の著名な心霊スポットをかき集めたスゴい山だ。都市伝説も取り入れられていて、悪霊だけではない「見覚えのある」怪異も山に潜んでいる。「幽婚」は「冥婚」とも呼ばれるもので、死者と死者。または死者と生者の間で婚姻が行われる。地面に落ちている赤い封筒を拾ってしまうと死者と結婚させられる台湾の風習が有名だ。
物語では「自殺」が大きなテーマとなる。重い題材だが、人は苦しみを抱えて自ら命を断つ時、人目につかない場所を選びたがる。自ずと、もしくは霊に招かれるように、死に場所を求める人々は「日上山」へ向かう。山に祀られる巫女はそうした孤独な人々が抱える「想い」を受け止める役割を担っている。だが、人柱となる巫女もまた孤独であるため、「幽婚」によって伴侶が選ばれる。異界を封印する儀式が誰かのせいで失敗し、一帯が丸ごと異界化するのが『零』シリーズのお約束だが、本作ではそこまでの事態には至っておらず、「巫女による浄化システム」の不具合が怪異の原因となっている。悪霊も、自らの意思ではなく、自動的に山の怪異に取り込まれて生者をこちらの世界へ誘い込む、といった印象で、彼らも犠牲者の一人という側面が強い。
残酷な儀式に生贄が必要で悪霊が探しに来る、というような直接的な恐怖ではなく、哀愁や物寂しさのような空気の肌触りが、本作が持つ繊細で独特な雰囲気を作り出している。
『零』シリーズの敵は、幽霊だから怖い。
意思があるかも分からない彼らは、ただ浮遊していたかと思えば、ビクリと急に掴みかかってくる。物理法則を無視して壁の中に埋まりながら移動してくるし、ヤバい奴はエネルギー弾みたいなのを出して遠距離攻撃してくる。
本作のカメラ「射影機」には悪霊に対抗する力があり、敵を撮影することでダメージを与えられる。ファインダー越しにFPSをやるような戦闘システムだ。ただ、普通で撮影するだけでは大したダメージにはならず、「シャッターチャンス」と「フェイタルフレーム」という二種類の状況を狙って攻撃していく。「フェイタルフレーム」は敵の攻撃動作の出掛かりにあるカウンター判定みたいなもので、恐怖の対象である幽霊をガン見しながら敵の動作を「待つ」のが戦闘のセオリーだ。
が、戦闘が起こる通路は狭いし、壁や木々が邪魔だし、幽霊は頻繁にワープして壁の中から接近してくる。敵から距離を取りたいが、下がるばかりでは壁に追い詰められてしまう。自分は操作が上手くいかないのに、敵は不可解な動きで攻撃を仕掛けてくる。このもどかしさ、窮屈さが、幽霊を相手にする恐怖につながっている。
時にはカメラを下ろし、敵をすり抜けて反対側まで駆け抜けた方がいい状況もある。『零』は霊と向き合う恐怖のほかに、戦闘中の位置取りが重要なゲームだ。主人公の足が遅いのは幽霊から逃げるのを難しくするため。シリーズの停滞と一緒にこの感覚も途切れていたのだが……『零』はゾンビを銃で爽快に蹴散らすゲームではない。幽霊という不確かな存在を相手に、追い詰められる不安や、思い通りにならない焦燥感を、「恐怖」として楽しむ作品なのだ。
『零 ~濡鴉ノ巫女~』はホラーが苦手じゃない全人類にオススメしたい良作だが、購入には注意も必要だ。
特にsteam版はバグが多く、動作環境によってはボスが無敵になって進行不可能になる不具合も報告されている。修正パッチのリリースが告知されているものの、現時点で手を出すのは推奨しにくい。ハードによって60FPSと30FPSのものがあり、ゲーム内の挙動にわずかな差異がある。PS5版にアップグレード可能なPS4版を買えば両方を触れるので、安定ではあるだろう。(他ハードでもセーブデータ消失やコンティニュー不可などのバグも報告されてはいるが…)
また、古いゲームだから、プレイしていて不便な箇所もある。ダッシュを押した時にカメラが遠ざかるため、狭い通路や振り向いた直後などカメラが暴れて方向を見失いやすい。オリジナル版で不評だったゴーストハンドの仕様は変わらず、角度によっては反応できない。せっかく実装されたフォトモードは、一部のキャラを下から見ようとすると消失するセクハラ対策があるのだが、その判定が厳しすぎて使いにくいし、ポーズや表情のバリエーションも物足りない。今後のアップデート、もしくは新作での改善に期待したいところだ。
とはいえ、ついに『零』シリーズが現行機で遊べるようになった。復活だ。旧作ファンはよりエロくなった「美しさ」の表現を。新しく興味を持ったプレイヤーは、『零』でしか味わえない和風ホラゲー体験の入門編として、リマスター版の『零 ~濡鴉ノ巫女~』にぜひ触れてみてほしい。オリジナル版発売の2014年に比べると、現在、ホラー映像作品の表現は『ヘレディタリー/継承』などの名作を経て、大きく進化を遂げている。旧来のファンとして、いつか、より怖くて美しい、完全新作の『零』を遊べる日を楽しみに待ち続けたい。
さいとう
多人数よりも一人用のゲームを好み、体験やストーリーを重視しては無駄にウンウンと頷く。
でも面白ければジャンル問わず何でも触ってみるタイプ。
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