本日、角川ゲームスから『√Letter ルートレター Last Answer』の新規PVが公開されました。
発売からこれだけ時間が経った作品のPVが作られるというのは珍しいことなのですが、なんとこの企画、安田プロデューサーがGozilineの記事に合わせて手配してくれたものなのです。
僕はゴジラインで『√Letter ルートレター』のちょっとした感想を書いたり、他のメディアでも『√Letter ルートレター Last Answer』のレビューを書いています。しかし、これらのレビューは島根県での舞台探訪を終える前に行ったものです。その内容が間違っていたとは思わないのですが、舞台探訪を通じてはじめて理解した本作の魅力も少なからずあります。今回の記事では、僕が『√Letter ルートレター』に抱いていた感想と、新たに得た感動をお伝えできればと思います。
『√Letter ルートレター Last Answer』は島根を舞台にしたミステリーアドベンチャーゲーム『√Letter ルートレター』のシナリオをさらに膨らませたいわゆる完全版とも言える作品です。発売当時、この作品をプレイした人の間で主に話題となったのは、いくつかのルートで触れることになるオカルト要素や、登場人物たちに降りかかる奇想天外な不幸、そしてマックスを自称する主人公の強烈な個性でした。ゲーム発売前にプレイヤーたちが抱いていたイメージは『ラブプラス』のキャラクターデザインでも知られる箕星 太朗先生が描く可愛らしいキャラクターたちを絡めた恋愛要素8:ミステリー要素2くらいのものだったと思うのですが、実際にプレイしてみるとぶっとんだ主人公がぶっとんだシナリオを切り拓いていく力強い光景の印象が強すぎ「ネタゲー」として感じる人もいたのではないでしょうか。だって主人公がノッてきたときは”マックスモード”なる必殺技みたいなモードが発動しますし、相手を論破している時に急にヅラが取れたり、いきなり相手がケーキをやけ食いしだしたりするのさすがに強烈すぎるじゃないですか。
ただ、そんなギャップのあるゲームでありながら、決してダメなゲームではなかった。最後に見ることになるであろう恋愛に絡んだルートはギャルゲーファンにも刺さるものになっているし、オカルト色の強いルートも終わってみればメリハリとして強く印象に残る。アグレッシブすぎる主人公も、プレイヤー同士で話していると「あいつはすごいやつだ」みたいな話で盛り上がれる。正直、変わったシナリオのアドベンチャーゲームではありますが、それがオンリーワンであることに繋がっていて、アドベンチャーゲームとしてのUIも作り込みを感じる。手抜きや投げやりで作られたものではなく、本気のクリエイティブでぶっとんだものを世に送り出してきたことがわかるんですね。多くのプレイヤーにとって忘れられない作品になったことも確かで、「烏が飛んできて頭にぶっ刺さって死ぬゲームでしょ」と言ってわかりあえる作品って、正直なかなか稀有だと思います。
完全版である『√Letter ルートレター Last Answer』はぶっとんだ主人公であるマックス氏が、さらにぶっとんだ新シナリオへと突っ込んでいく様が見られます。しかも、何を思ったのかこのゲーム”実写モード”というとてつもない取り組みにチャレンジするという離れ業を見せてきます。実写でどうやって再現するんだろうというシーンも、本当に実写で再現しにかかるパワフルさに興奮した人も多いのではないでしょうか。
さて、そんなぶっとんだキャラクター、シナリオが話題となった本作ですが、一方では作中で描かれる島根県の美しさに心惹かれた人も多いはず。僕もそのうちの一人で、プレイしながら、島根県ってこんなに良いところだったっけと自問自答していました。中学の頃に学校の旅行で行った島根県の記憶はぼんやりとしか残っておらず、そんな僕から見ていると、こんな場所があるのなら是非いってみたいという気持ちになったのでした。
そしてその渦巻く願望を前に進めてくれたのが、角川ゲームスが『ルート』シリーズ第二段としてリリースした『Root Film ルートフィルム』という作品です。この作品も『√Letter ルートレター』と同じく島根県を舞台にしていますが、主人公たちの行動範囲がぐっと広がり、津和野や温泉津、美保関に隠岐の島にまで足を運ぶのです。『√Letter ルートレター』は島根県の要ともいえる松江市にぐっとフォーカスした作品で、『Root Film ルートフィルム』は松江以外の島根県を描き出した作品。この2つを遊んだうえで島根県に行けば、なにか素晴らしいことが待っているに違いないと思って出かけたのが記事化もした舞台探訪の旅なのです。
≪関連記事≫【舞台探訪】『Root Film ルートフィルム』&『√Letter ルートレター』ご縁の国島根を歩く舞台探訪
舞台探訪をしている間から、僕の抱いていた『√Letter ルートレター』と『Root Film ルートフィルム』への感想は大きく変わり始めました。特に、『√Letter ルートレター』はぶっとんだシナリオという印象が強かったのですが、舞台を探訪することで、”実際に島根県を巡ったうえで物語を作ったのなら、こういうシナリオが生まれるのかもしれない”という感覚になってくるのです。島根県を巡る前の僕というのは、たとえば神社ひとつにしても、美しい場所だなくらいの認識しかありませんでした。しかし、実際に訪れ、その神社にどのような言い伝えやご利益があり、そしてどのように訪れる人がお参りをしているのかなどを目の当たりにしてみると、理解したはずだった『√Letter ルートレター』の物語がまたうねりをあげて動いているように感じます。そして景勝地の迫力というのも実際に訪れると異なるもので、そこで語り合うキャラクターたちを想像すると、この場所なら真実を語りたくなるかもしれないとさえ感じることすらありました。また『√Letter ルートレター』の一部ルートでは、未確認飛行物体、UFOのネタが登場するのですが、プレイした当時はこの唐突さに驚かされたものでした。しかし、実際に松江を散策してみると、パチスロのお店でUFOというチェーンが目立つことに気づきました。もしかして、このUFOからインスピレーションを受けたのかな、などと想像するのもとても楽しかったです。
島根県の舞台探訪をする前に感じていた”ぶっとんだゲーム”であるという僕の感想は間違いだったとは思いません。しかし、島根県を探訪したことで、その裏側にある部分をしっかりと味わうことができたと確信をもってお伝えすることができます。島根県に行く前の僕は、魚の片側だけ食べて美味しかったというような状態だったけれど、島根県に行くことで裏側があることを知り、そこもしっかり味わうことができたと感じています。この稀有な体験ができたのは『√Letter ルートレター』がこだわりぬいて作られたアドベンチャーゲームであることと、根底にある島根県への愛情が確かなものだったからでしょう。実際に舞台を回るとわかるのですが、本作のロケハン、随分時間をかけたんだと思います。
そしてもう一つ確信したことは、『√Letter ルートレター』と『Root Film ルートフィルム』が僕のようなゲーマーにとっては、素晴らしい旅の入り口となり、同時に最良のガイドたりうる存在になるということです。今回レビューを書こうと思ったのはこのことを伝えたかったからで、本作をプレイする人の多くは”島根県を舞台にしたゲームだから”という理由で遊ぶわけではないでしょう。でも、プレイした方の多くは島根県に少なからず興味を抱いているはず。このゲームのオープニングで主人公はかつてのペンフレンドからの手紙を受け取り、それをきっかけに島根に向かいます。そして、プレイヤーはこのゲームのエンディングで、島根に誘われます。これは誇張でもなんでもなく、完全クリア後のおまけとして「島根で待ってるね」というようなメッセージが表示されるからなのですが、そのメッセージがずしんと手ごたえのあるものになっています。ゲームだから美化されているんでしょうと思わずに、是非いつか自分でゲームに出てくる場所に訪れてください。おそらくその時には僕のように、ゲームをプレイするだけでは味わえない、でも確かにこのゲームがあったからこそ味わえたものが実感できるはず。
『√Letter ルートレター』は松江市をじっくりと案内してくれるガイドで、『Root Film ルートフィルム』ではその外側へと飛び出すためのガイドです。キャラクターたちが訪れる場所ほとんどが、実際に行って後悔のない場所になっており、そのうえキャラクターたちが語ってくれたちょっとした情報が、現地でさらに新しい楽しみに振れるきっかけにもなります。島根の各地で無料配布されている観光ガイドはどれも素晴らしい出来で、出版業界の片隅にいるものとしても感銘を受けたのですが、『ルート』シリーズも負けずとも劣らない素晴らしいガイドです。実際『ルート』シリーズを遊んで島根県に来ましたという方は僕のほかにもたくさんいるようで、こういう効果をもたらすゲームってなかなかないと思います。
島根県在住の方にとってこのゲームはどう映るだろうかと今想像しましたが、そういう方もまた、本作を愛着を持ってプレイできるのではないでしょうか。実際本作の立ち上げに尽力した安田プロデューサーは島根県出身ですが、本作のことをとても愛おしそうに語っていました。しかも本作、さらりと島根県を扱うゲームではなく、とてつもなくディープに掘り下げていますから、現地に住んでいても遊ぶことで新しい発見があるかもしれません。
『√Letter ルートレター Last Answer』はPS4、ニンテンドーSwitch用ソフトとして好評発売中。
難しい時期ではありますが、遊んで島根に興味を持った方は、機会を見つけて現地を散策してみてはいかがでしょうか。