【対談企画】なぜ今、格闘ゲームを作るのか。その情熱の源泉を辿る【『ミリオンアーサー アルカナブラッド』琢磨尚文氏、『ファイティングEXレイヤー』西谷亮氏】

「試合映え」と「ビギナー」への意識

——『ミリオンアーサー アルカナブラッド』と『ファイティングEXレイヤー』の共通点として、メインキャラクターを操作するという要素以外に、サポート騎士や強氣という「戦術に関わる要素」を楽しませる設計になっているという部分が挙げられます。こうした、格闘ゲームの味付けの部分については、どのような発想から生まれたのでしょうか。

琢磨:『アルカナブラッド』でサポート騎士というシステムを入れたのは、大きく二つ理由があります。
一つは、『ミリオンアーサー』はキャラクターの数が多いことです。できるだけ多くのキャラクターを、『アルカナブラッド』の中に入れたかったんですが、制作期間を見ると作れるメインキャラクターの数はそれほど多くできません。そこで、もともとカードゲームとしての要素もある『ミリオンアーサー』のイメージも意識して、サポート騎士、デッキという要素を取り込みました。結果として、多くのキャラクターの姿を画面上で見せられたかなと思います。
あとは、戦術的な所を、メインキャラクターで広げるより、外の要素で拡張するというバトルシステム自体にも興味がありました。同じキャラクターを使っているのに、戦術やコンボが違えば、プレイヤーの個性のようなものを出せるし、見ている側も面白いでしょうから。

『ミリオンアーサー アルカナブラッド』のサポート騎士
『アルカナブラッド』のサポート騎士は、その名の通りメインキャラクターをサポートする攻撃などを繰り出してくれる。サポートには1〜3までの消費コストが設けられており、画面上部のカードアイコン下に表示される青い玉のようなものが現在の所持コストを現している。地上、空中を問わず発動が可能なため、サポートを使いつつ立ち回りを優位に仕掛けるという動きも、本作における重要な戦術の一つだ。また、1コストのものは通常技から、2コストのものは通常技と必殺技、3コストのものは通常技、必殺技、超必殺技からキャンセルで発動することが可能。

△『アルカナブラッド』のサポート騎士は、必殺技感覚で呼び出すことができる。通常技や必殺技を「キャンセル」して発動する事も可能。(写真は『ミリオンアーサー アルカナブラッド』)

西谷:『アルカナブラッド』を遊んでみて、観ている側、ギャラリーを楽しませる要素がしっかり入っているなと思っていたのですが、やはりこだわりの一つだったんですね。アニメーションが流れる大技などもあって驚きました。

琢磨:演出の長い技って、格闘ゲームに落とし込むのはちょっと怖い部分もありますよね。テンポの部分に大きく関わりますから。一試合に何度も演出が長い技が流れるとだれてしまいます。チームアルカナの開発チームが、言わずとも意識してくれたので、程よいバランスに収まったと思います。ゲージの使い道というのが、幾つか用意されていて、キャラクターや戦術、戦況によって変化するようにも設計されています。

△『アルカナブラッド』では、ミリオンエクスカリバーという大技を使うと、美麗なアニメーションが流れる。(写真は『ミリオンアーサー アルカナブラッド』より)

ーー『EXレイヤー』の強氣は、βテストで触らせてもらったのですが、こちらも選択によってものすごくキャラクターのうごきが変わりますよね。ラウンドどころか試合中永続で、アーマーが付いてくるものなどがあって驚きました。メチャクチャやってくるなと(笑)

西谷:製品版のは、あんなもんじゃないです(笑)強氣については、自分の中で溜まっていたアイディアを形にしたものなんです。もともとは、スキルツリーのようなものを考えていて、昔弊社で制作をお手伝いした『超ドラゴンボールZ』にあったようなものからイメージを膨らませました。でも、対戦前の選択とか、メインキャラクター以外の要素をがっつり戦術に組み込むって、当然「難しさ」には結びついているんです。でも、格闘ゲームというジャンルもプレイヤーが成熟してきているし、ちょっと踏み込んでみたものを入れてみました。最終的に製品版に実装したものは、デッキを選択するというものなんですが、開発の途中ではデッキの中の強氣を一つ一つカスタマイズするという案もあったんですよ。ただ、これがやってみると、うまいプレイヤーでも悩んで悩んでしてしまうので、さすがに敷居が高すぎるかということで見送りました。試合が始まらないんじゃないかという不安もありました(笑)

『ファイティングEXレイヤー』の強氣システム
『EXレイヤー』では、キャラクター選択時に、「強氣デッキ」も合わせて選ぶことになる。強氣デッキは、5つの強氣から構成されており、それぞれの強氣に設けられた発動条件を満たすことで、キャラクターを強化する特殊能力が発揮される。特殊能力の中には、試合中永続のスーパーアーマーの付与や、特定動作の姿を消すといったピーキーなものも用意されている。

 

△こちらが西谷氏オススメのサンダーボルトデッキの能力のひとつ「テレポート」。(写真は『ファイティングEXレイヤー』より)

琢磨:βテストでもやはり、強氣システムに衝撃を受けましたね。今までに遊んできた格闘ゲームのバランスとは明らかに違うところを目指しているなと思いました。

西谷:製品版では、βテストにはなかった強氣も当然入っているので、楽しみにしていてください。突然投げキャラが目の前にテレポートしてきたりする「サンダーボルト」という強氣なんかもあります。ただ、一見メチャクチャに見えて、対策になる動きや、対立関係になるであろうデッキも用意しているので、戦いの理解度が深まれば、より熱い対戦になるはずです。

琢磨:格闘ゲームを作るとなると、簡単にするか難しくするかというところってすごく悩みますよね。簡単にしすぎると奥深さが出ない、難しくしすぎると新規の層が入ってこない、とかいろいろな議論があります。

西谷:『アルカナブラッド』は『ミリオンアーサー』のファンにも向けたものですから、難度のつけ方は苦労されたんじゃないでしょうか。

琢磨:プロジェクトを立ち上げる時からずっと考えてたんですけど、『ミリオンアーサー』というコンテンツの格闘ゲームですから、イメージとしてはキャラクターゲーム寄りですよね。キャラクターゲーム、キャラゲーというと、正確な言葉の定義は別にして、偏見を持たれやすいジャンルなんです。簡単すぎるんじゃないかとか、格闘ゲームとしてやりこみがいがないのではないかとか思われるのかもという恐れはありました。そこでチームアルカナでは、「ちゃんとした格闘ゲームなんだけれど、間口は広くとりましょう」という、矛盾するような、実現することが難しいことをテーマにしていました。それでできたものは今の『アルカナブラッド』なんですが、現時点で手応えは感じています。僕のプレイヤーとしての感覚ですけど。

西谷:実際、私の感想も、慣れてくればとても遊びやすいというものでした。この対談をやると決まってからゲームセンターで遊んでみたんです。最初はシステムが多そうだなと思っていたのですが、数試合すれば基本的なことがわかるようになりました。琢磨さんが現役のプレイヤーの感覚を持っているというのは、大きな強みですよね。

琢磨:ありがとうございます。格闘ゲーマーからは、「結構簡単」と言われるんですよ。でも一方で、「やりこみがいがある」とも言ってもらえたりしています。格闘ゲームの心得っていうのがあればわりとすぐはいれて、そこそこの戦力になって対戦できる作品になりました。いわゆる「波動拳、昇龍拳、竜巻旋風脚」コマンドが出せれば、結構いろいろなことができるんです。もちろん、ビギナーの方には、これらのコマンドが難しいのはわかっているんですが、そこはこのジャンルの醍醐味として入れさせてもらいました。実は、ディレクターと、必殺技コマンドを入れるか、なくすか、という議論もしたんです。必殺技ボタンを設けて、方向キー一方向との組み合わせで必殺技を使い分けるというゲームも今では多いですから。最終的に、手触りと、ボタンを増やしたくないという考えで、必殺技を従来のコマンドにしました。ーー波動拳、昇龍拳、竜巻旋風脚コマンドって、格闘ゲーマーからすると共通言語のようになっていますよね。僕ら格闘ゲーマーからすると、簡単ですけど、昔を思い出すとかなり練習したことを覚えています。2D格闘ゲームの歴史を辿ると、複雑なコマンドの技もたくさんありますが、要素を分解してみると波動拳、昇龍拳、竜巻旋風脚になるものがほとんどなんですよね。西谷さんは、こうした格闘ゲームのコマンドを作り出した時代から格闘ゲームに関わっていますが、コマンドの難度についてはどのようにお考えですか。

西谷:僕は『ストリートファイターⅡ』から制作に参加したのですが、「波動拳、竜巻旋風脚、昇龍拳」というコマンドは初代『ストリートファイター』の時代からあったんです。それで『ストリートファイターⅡ』を作る時に、このコマンドはみんなできないんじゃないかなって考えたこともありました。そこで、ほかのコマンド案として、簡単なのは連打や溜めだろうということで、連打や溜めにあったフレーバーの技を用意してもらいましたね。いろいろなタイプのコマンドを持つキャラクターがいて、どれかに引っかかってくれればいいなと当時は考えていました。やっぱりジャンル特有のものなので、難しさはあると思いますね。それでも、未だに格闘ゲームのフォーマット的なものになっているのは、当時考えとしてあったフレーバー的なものがしっくりきたというのがあるのかもしれませんね。波動拳コマンドは腕を突き出すようなイメージとか、ボタン連打コマンドでキャラクターも攻撃を連打するとか。

琢磨:当時の技のフレーバーが今に継承されて、今は逆に、コマンド投げだから一回転にしようとか考えてしまうほどに影響力を与えているというのは凄いです。『アルカナブラッド』にも、スノーホワイトというデカキャラがいるんですが、投げ技をつける、コマンドはとなった時に、一回転は難しいかもしれないけれど、一回転じゃないとダメだと思いましたもん(笑)

ーースクリューパイルドライバーについては、改めて考えると凄いですよね。正確に一回転コマンドを入れなくても出るという設計があったから、その後いろいろなテクニックにつながり、難しくてもいいかという風潮になっているような気がします。最近の格闘ゲームの一回転は、かなり簡単に出せるようになりました。『EXレイヤー』でも、基本的には『ストリートファイターⅡ』由来の必殺技コマンドを採用していますよね。

西谷:クラシックモードではそうですね。格闘ゲーマーの方に馴染みやすいかなと感じました。今回、また新たに格闘ゲームを作ろうと思った時に、これらのコマンドの敷居について考えたのですが、今や格闘ゲーマーの間では当たり前のものになっているから、これはこれでいこうと導入を決めました。ただ、必殺技コマンド入力ってビギナーの方には難しいよねという意識もあったので、今、僕が新しく、格闘ゲームのコマンドを作るならどうするだろうという観点から『EXレイヤー』には「プログレッシブモード」という操作モードを実装しています。プログレッシブモードでは、従来の必殺技よりもコマンドの数を減らしているんです。具体的には、一方向+ボタン等ですね。最近の格闘ゲームでは、イージーモード的なものを実装しているものもありますが、今作のプログレッシブモードは、上級者にも使ってもらえる、使ってもらいたいものを目指しました。

△こちらがプログレッシブモードの必殺技コマンド。(写真は『ファイティングEXレイヤーより』)

琢磨:クラシックとプログレッシブモードでは、プログレッシブモードの方が強くなる可能性があるということですか?

西谷:理論上は、少ないコマンドで必殺技を繰り出せるので、その可能性が高いですね。プログレッシブモードにしたからといって、できる行動が減るわけではないんです。イージーモードとなると、技を削って操作を簡略化するイメージがありますが、プログレッシブはすべての行動を、少ない操作で繰り出すことができます。『EXレイヤー』のバトルチューニングをしてくれている人たちからも、「プログレッシブは格闘ゲームじゃない」というような反応があったのですが、しばらくしてプログレッシブの方が流行していました(笑)ただ、クラシックモードに馴染んでいる人は、無理に変える必要はなく、その経験や技術がしっかり生きるようにしました。クラシックモードの熟練格闘ゲーマーと、ニューフェイスのプログレッシブモード使いが、良い試合をしているなんて光景も見られたらいいなと思います。プログレッシブモードなら、スーパーキャンセルなどもかなり簡単になりますし、ダランなんかは、クラシックでは一回転や二回転コマンドになっている技を、サクサク繰り出せますね。

ーー『アルカナブラッド』は4ボタン、『EXレイヤー』は6ボタンですが、どちらもシステムに関わる操作がわかりやすいのも魅力だと感じました。例えば『アルカナブラッド』は、サポート騎士が必殺技コマンドとして落とし込まれています。『EXレイヤー』は、『ストリートファイター』シリーズで慣れ親しんだ6ボタンベースですが、複雑な同時押しは少なくなっています。

琢磨:『アルカナブラッド』のプレイヤー層を考えると4ボタンがわかりやすいかなと思ったのですが、いざ作り始めると「サポート騎士ボタンが欲しい」と思った時期もありましたね。ただ、ボタンを増やすよりはということで、竜巻コマンドにサポート騎士を入れるという形にしたのですが、これがわかりやすさにも繋がりました。個人的なこだわりなのですが、格闘ゲームのシステムがわかりにくく感じる時って、それを「システムだ」と強く意識させてしまうからだと思うんです。バトルバランスを取るために、こういうシステムだからと押し付けるような形にはしたくないと作る間考えていました。「サポート騎士は、必殺技が増える感覚なんですよ」というと、ちょっとわかりやすいかなと思うんです。

△『ミリオンアーサー アルカナブラッド』の基本的な操作がこちら。4ボタンにうまくまとめられていることがわかる。

西谷:冷静に考えると、6ボタンって異常ですよね(笑)せいぜい4だと思います。『アルカナブラッド』を遊ぶと、4つボタンでもいろいろな工夫をして、技の多さや使い分けを実現していることがわかります。でも、『ファイティングEXレイヤー』は6ボタンにしてしまいました(笑)これは昔作っていた作品の延長というところもあるのですが、僕を含めて、一部の格闘ゲーマーにはしっくりくる部分なのかなと感じてもいるからです。4ボタンゲームを好きな人、6ボタンゲームを好きな人って、分かれているような気もするんですよね。僕としては、どちらも格闘ゲームとして愛して欲しいと思いますが(笑)

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。
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