【対談企画】なぜ今、格闘ゲームを作るのか。その情熱の源泉を辿る【『ミリオンアーサー アルカナブラッド』琢磨尚文氏、『ファイティングEXレイヤー』西谷亮氏】

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格闘ゲームは近年、e-sportsとして注目を集めている。しかし、国内においては、新作として登場する作品はまだまだ少ない。
2017年にアーケードで稼働した『ミリオンアーサー アルカナブラッド』は、スクウェア・エニックス初の2D格闘ゲームという挑戦的なプロダクトだ。
そして、2018年6月28日にプレイステーション4のダウンロード専売ソフトとして発売された『ファイティングEXレイヤー』もまた、アリカにとって久々の自社タイトルとして送り出す格闘ゲームとなっている。

今回の対談では、両作品のキーマン、『ミリオンアーサー アルカナブラッド』のプロデューサーである琢磨尚文氏(スクウェア・エニックス)、『ファイティングEXレイヤー』のゲームデザイナーである西谷亮氏(アリカ)に、格闘ゲーム制作の源泉となった出来事や、制作におけるこだわりを語ってもらった。
両作品のプレイヤーはもちろん、格闘ゲームというジャンルを愛するプレイヤーも、本記事からクリエイターたちの情熱を読み取ってもらえれば幸いだ。

△スクウェア・エニックスの琢磨尚文氏(左)と、アリカの西谷亮氏(右)。

●interviewee

琢磨尚文 氏:『ミリオンアーサー アルカナブラッド』プロデューサー。ゲームセンターに通い詰めていた時期もあるという、「ガチ」の格闘ゲーマーでもある。

西谷亮 氏:株式会社アリカ代表取締役。『ファイティングEXレイヤー』の総合プロデュースを手掛けた。

(聞き手:浅葉たいが、がちょ、写真:大須晶(twitterID:ohsuAK)氏)
※本記事の対談は、『ファイティングEXレイヤー』発売前に行いました。

格闘ゲーム制作、その情熱の源泉

——「完全新作」として格闘ゲームを制作し始める原動力についてお聞かせください。

△『ミリオンアーサー アルカナブラッド』のプロデューサー・琢磨尚文氏。プラットフォームとしてゲームセンターを選んだのは、自身なりの恩返しでもあるという。

琢磨:僕はゲームのデバッグをする仕事からはじめて、スクウェア・エニックス モバイルスタジオを経て、『ミリオンアーサー』シリーズに関わるようになったんです。『ミリオンアーサー』が次第に大きなコンテンツになってきた時に、派生作品を作るという流れが出来てきて、そこで僕なら何をしようと考えた時に、アーケード、格闘ゲームというアイディアが浮かんできました。『ミリオンアーサー』はいろいろなプラットフォームで展開されていましたけど、アーケードというのはまだなくて、格闘ゲームというのも面白いのではと思いました。と、ちゃんとした理由はこんなところなんですが、僕がゲームセンターに一年で364日くらいいるような人間だったというのが企画の発端としては大きいですね。それこそ、年に一回くらいちょっと熱出していけないとかいうレベル(笑)「『ミリオンアーサー』の多面展開が必要でしょうとか、アーケードを出してないのまずくないですか」みたいなプレゼンをしました(笑)

西谷:なぜアーケードから始めたのかというのが気になっていたのですが、今の琢磨さんの説明でわかりました(笑)実は、この対談が決まってから、ゲームセンターに『アルカナブラッド』を遊びに行ったんですよ。そこで、このゲームの制作チームのこだわりみたいなものを節々から感じたので、どういうバックグラウンドがあるのだろうと思っていたんです。アーケードで展開されるということは、人目に付く機会が増えることでもありますから、IPの拡大という意味では、大きな一手なのかもしれませんね。

琢磨:ただ、格闘ゲームを作りたいとは言っても、今回が自分にとっての初めての格ゲー制作なんです。そこで、チームアルカナというパートナーと一緒に制作を進めることにしました。チームアルカナのメンバーの方々には、プロジェクトが正式に立ち上がる前から、挨拶に行っていたんですが、自分が思っていたよりも早く、動き始めることができました。

『ミリオンアーサー アルカナブラッド』
2017年11月にアーケード用タイトルとして稼働を開始した、スクウェア・エニックス初の2D対戦格闘ゲーム。スマートフォン等のプラットフォームで人気を博す『ミリオンアーサー』シリーズのキャラクターや世界観をベースにした、賑やかで遊びやすい作品となっている。プレイヤーは、メインキャラクターと3人のサポート騎士を選択肢し、バトルに臨むことになる。

△『ミリオンアーサー』シリーズのキャラクターが格闘ゲームで大暴れ。本作ならではの新キャラクターも登場する。(写真は『ミリオンアーサー アルカナブラッド』より)

ーー西谷さんは、なぜ今格闘ゲームを作ることにしたのでしょうか。『ストリートファイターⅡ』や『ストリートファイターEX』シリーズを作った西谷さんを、もう一度制作に駆り立てたものをお聞きしたいです。

西谷:もともと格闘ゲームはすごく好きなんですが、制作するというところからはずいぶん離れていました。一つ大きなきっかけとなったのは、「企業対抗戦」というイベントです。そこで、自分が昔関わっていた格闘ゲームというジャンルが、まだものすごい熱を持ったプレイヤーに支えられていることを実感したんです。
それから、格闘ゲームのイベントを観に行ったり、EVOに行ったりしたんですよ。それから、エイプリルフールの企画として、格闘ゲーム風の動画を出してみたんですが、そこで思っていた以上に格闘ゲームコミュニティの方から反応をいただきました。その反応を受けて、EVO2017の方に、もう一段階進化した出展物を用意してみたら、こちらも好評でした。格闘ゲームを作ろうと決心したのは、EVO2017ですね。興味を持った時点で、ぼんやりと頭に浮かんできたものはあるのですが、会社のタイトルとしてやるぞと決めたのは、1年くらい前になります。

△アリカの西谷亮氏。

琢磨:EVO2017は、昨年の夏なので、1年くらいでゲームを作ったということでしょうか。キャラクター数も結構いますよね。エイプリルフールのPVを見たときに、これはネタじゃなく、いつか発売されるなと思ったのですが、思ったよりもずっと遅いタイミングから開発がスタートしていたんですね。

西谷:そうですね(笑)エイプリルフールのものは、格闘ゲーム風のPVを作ったと言うだけで、ゲームとして動かせるものでは全くありませんでした。ハッタリですね(笑)制作期間は実際一年といったところです。ベースとなるようなものは少しあって、過去にテスト的に作ってみたものがあるからいけるかなと思っていたのですが、結局ほとんど新規素材で作ることになってしまいました。

『ファイティングEXレイヤー』
2018年6月28日に、プレイステーション4専用ダウンロードタイトルとして発売された格闘ゲーム。3Dグラフィックによるキャラクター描写を用いているが、バトルは2D格闘ゲームをベースにしたものとなっている。バトル中に、条件を満たすことで発動する「強氣」という独自のシステムを採用しており、バトルの序盤、中盤、終盤と、駆け引きや戦術が大きく変化するのが特徴。

△『ストリートファイターEX』を手がけたアリカが送り出す最新作『ファイティングEXレイヤー』。(写真は『ファイティングEXレイヤー』より)

ーー凄いスピード感ですね。家庭用でいうフルプライス相当のゲームって、作るのに2年とか3年とかいう時代なので、驚きました。

琢磨:『アルカナブラッド』は2年半くらいかかっています。まだ製品版が発売されていないのですが、プロモーションを見る限り、とてもしっかりとした格闘ゲームに見えます。制作現場はどのような雰囲気でしたか?

西谷:社内のモチベーションはすごく高かったですね。オリジナルのタイトルをやるというのが久々だったので。製作期間は短いのですが、かなり濃厚な一年を過ごしました(笑)もともと制作のスケジュールも決めていて、それに合わせてゲームのボリュームや要素をどうするか決めていた部分もあるので、修羅場というほどのものはなかったような気がします。昔のゲームを作っていた頃のスケジュールが凄すぎて、変に慣れてしまっているのかもしれませんけど(笑)『アルカナブラッド』との比較でいくと、『EXレイヤー』の方は、対戦に特化していたからできたスケジュールかもしれませんね。

――既存の格闘ゲーマーを強く意識した作品ということでしょうか。

西谷:そうですね、やはり最初は格闘ゲームコミュニティーの人に遊んでもらいたいなと思って作品コンセプトを考えました。そこで考えていたのが、ゲームとしての手触りの良さです。操作や、通信遅延なんかにストレスを感じるようではダメでしょうし、トレーニングモードなんかも今受け入れられている格闘ゲームを基準にしないといけないと思いました。特に、全体的なテンポにはこだわりましたね。僕、せっかちらしいんですよ(笑)最終的には、僕だけではなく、スタッフがテンポについて進言してくれた意見なども取り入れて、今のゲームになっています。

『EXレイヤー』開発裏話.01
エイプリルフールの企画として出したPVは、アリカ内の3人ほどのスタッフで制作しました。『ストリートファイターEX』に登場した『ストリートファイター』スカロマニア制作コンセプトとしては、「とりあえず楽しそうなもの」を目指していたんです。EVO2017の時点で制作を決めた際には、制作期間の都合から、キャラクター数を8人にするか、それとも商品としての引きを重視して10人にするかという議論などもありましたね。久々の自社タイトルかつ、世界展開を見込んだことで、20年くらい前にやっていたこととは違っているものがたくさんあったのも驚きでした。ワールドワイドの蓋を開けると、アリカの規模だとかなり大変なことが多くて。そもそも、世界にゲームをリリースする場合の入り口が、昔は一つで良かったのが、今は4つくらいあるんです。日本、アメリカ、ヨーロッパ、アジアとその他の地域みたいに分かれていて。βの時にこの仕組みと向き合うことになって、大変な思いをしました(笑)

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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