【ゴジセレ】和風ホラーノベルアドベンチャー×人狼『レイジングループ』、レビュー&インタビューを掲載!

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amphibian氏が語る『レイジングループ』

さて、ここからはamphibian(あんひびあん)氏へのメールインタビューの模様をお届けします。一度本作をクリアしてからご覧ください!
(インタビュー協力:赤野工作)

amphibian(あんひびあん):「鈍色のバタフライ」「トガビトノセンリツ」「D.M.L.C.-デスマッチラブコメ-」「レイジングループ」などを手がけるシナリオライター。


『レイジングループ』を生み出した「制約」という考え方


ーー物語を作る上で、発想の源泉となったものなどがあればお聞かせください。

amphibian:『レイジングループ』について言えば、出発点はやはり「人狼」でした。「レイジングループ」の前に、いくつかデスゲーム系シナリオを手掛けてきたのですが、それらはどれも正体隠匿と指名・投票を核とする「人狼系」と呼ぶべきルールを採用したものでした。2014年頃は「人狼」の人気もかなり高まっており、ここで直球の「人狼」を扱うのはアリと思われました。これまでのノウハウや反省点を結集して、我々にとっての「人狼」に一区切りつけよう、という気持ちも手伝って、企画は始動しました。

物語の特色部分は、往々にして、企画や執筆時の制約によって生まれます。今回の制約は主に3つでした。

『レイジングループ』製作時に課した「制約」
1)デスゲームのプロットは相互に似通ってしまいがちなので、そこに対策する
2)舞台はできるだけ日本にしたい(前提知識が多く、言語的に取材がしやすいため)
3)「全員生還」のリクエストが非常に多いため、これに対し何らかの回答を出す

1)のために採用した手法が「軸をずらす」です。デスゲームの本質ではない部分で勝負できる要素を入れれば、そこを掘り下げることで独自化できます。レイジングループでは、「和風ホラー」という軸を設定しました。歴史や風土の背景設定を盛り込んでいくことで、それらを掘り下げるのも楽しいし、そもそも掘り下げる過程で違うドラマを書ける。軸をずらすことは書き手と読み手の両方に新鮮さを提供できる、重要な手段だと思います。

2)のために使ったのが「組み合わせ」です。「狼」は本来日本にそぐわない文化かと思われるかもしれませんが、調べると「狼信仰」などネタになりそうなものは多々存在します。さらに「言葉遊び」を絡めれば容易にまとまりそうだと感じられました。実のところ、「異なる2つのものを組み合わせる」のは意外となんとかなります。それだけこの世の森羅万象には奥行きがあり、深掘りしていけばどこか通ずるものが見えてくるものだということでしょう。(蛇足ですが、この手口は悪用するとデマやウソ歴史をいくらでも作れると思います)

3)のために模索したのが「不可能を可能にするウルトラC」です。ウチの作品は「モブや外道がバタバタ死んでいくタイプのデスゲーム」ではなく、個別のキャラクター造形を重視していて、かつ「全員仲が良い」状態から始まりがちだったため、どのキャラも気に入ったので全員生きて帰れるエンドが欲しい、という声をよく聞きます。しかし、いくら考えても、「全員生還が可能なデスゲーム」に活路が見えませんでした。デスゲームはある意味、ハッピーとは程遠い狂気や恐怖や冷酷さを描くのに特化したジャンルではないか、大団円で全員生還となるデスゲームは、それまでに積み上げてきたシビアな物語をすべて茶番にしてしまうのではという考えもあったのです。そこで、この制約にこたえるため、私が出した結論は、「デスゲームそのものを最初から回避するしかない」でした。それも、「大団円までにプレイした全ての凄惨な物語を無かったことにせずに、デスゲームを回避する」。こういう「一見不可能な課題」をムリヤリ解決する案を検討すると、おおむね奇想天外な発想に行きつくことができます。今回はわりと悩むことなく、「ループ」という解法に辿り着きました。先だって「ループもの」について考える機会があり、因果を逆転する手段としてはコレしかないと思ったのです。後で考えたら色々なものに似てしまったりして反省するところでもあります。

このように、執筆にあたってセルフ縛りともいうべき制約を入れていき、それを解決していくことで独自アイデアを出していきます。なお実際にどうやって思考するかですが、私の場合は「トイレに行く」「風呂に入る」「歩く」などします。「歩く」は、昆虫記で有名なファーブル先生が思案にふけるとき部屋をぐるぐる歩き回った(そのせいですり減った床が現存する)というエピソードから真似しはじめた気がするのですが今調べてもエピソードが出てこないので偽りの記憶かもしれません。ただ座って考えるよりも頭が動く気がします。体を動かすと、他の心配事や雑念を考える余裕がなくなるのかもしれないですね。

緻密な設計が生んだ奥深い「物語」


——キャラクターの心情の揺れ動き、推理のための証拠、キャラの時系列等のリンクをどのように管理していたのでしょうか。

amphibian:最初はExcelで全キャラぶんの縦長の表を作ろうとしたのですが、やめました。気が遠くなりそうだったのと、あまり重要でない(あるいは何も考えてない)キャラまでその方式で管理すると無駄が多かったためです。レイジングループでは、どんな伏線があるか、重要な役者がある局面で何を考えていたかは全部、シーンごとに区切ったプロットに書き込んでいました。そして、プロットの間に直接ゲームテキストを書き込むかたちで進めていったのです。詳しいノウハウはひみつですが、テキストエディタでシーンを一覧にして簡単に編集/ジャンプできるようにしています。ジャンプ先にはプロットがあり、それに続くかたちで本文が読めます。すると資料を横に並べなくても「このシーンではどんなことをやらなきゃならないんだったな」というのが分かるのでミスが減ります。一通りできた後は、キャラ別にストーリーを読んでいき、言動にブレや矛盾がないかを確認していきました。
あまり重要でないキャラや、発言量が少ないキャラなどは、ここでセリフを増やすなどし、バランスとっていきます。そもそも準備段階で「このキャラはこのルートではこういう方針で動く」とか「このキャラはこういう性格だから絶対にこういう動き方しかしない」といった指針をきちんと立てておくと、ブレが出にくくミスを減らせます。ただしコレをやりすぎるとキャラ造形がデフォルメされていきますし、状況次第で動きを変える柔軟で知的なキャラを書きにくくなるので、こういった点でキャラごとに役割を決めつつ、バランスよくやることを目指しています。なお、これでなおミスが出る場合は、最後に着手する「暴露モード」向けテキスト執筆でゴマカシを入れたりもしています。キャラのブレをムリヤリ補正している箇所もあったりするので、興味がある方はぜひ探さないでください。

——各キャラクターは物語を描くために用意したのか。それとも各キャラクターを用意した上であのような物語になったのでしょうか。

amphibian:どちらかといえば、「描くために用意した」ということになるでしょうか。和風ホラーをやり、ひとつの集落をリアルさをもって成立させるには、全世代・各性別のキャラが要ると考えました。今回の人物像はほぼ100%、その「制約」が出た時点で確定していたと思います。また今回、諸事情から「黒幕の名前と属性と目的」についてはキャラ作成段階から確定していました。前述の制約もあり物語の方向としては「ループを使ってデスゲームに立ち向かう」ものとも決まっていました。このあたりから、一部のキャラのスペックは、「大きな物語」を描くために確定していたと言えます。
しかし一方で、残る大多数のキャラクターはどういう運用をするか未定の状態で生まれてもいます。かれらをどう動かすかは、実際にあみだくじを作成して検討し、おもしろそうな組み合わせを抽出しました。個々のルートや宴やシーンにおいてキャラがどういった言動をするかは、日常シーンで掘り下げた各キャラのディテールをもとに、ライブ感をもってその場で考えている部分もあります。そういう意味では、「小さな物語」については各キャラクターありきで生まれたものと言えると思います。

——没になった展開などはあるのでしょうか?

amphibian:「陽明がただの『ひと』である」ルートは物語上やるべきだったと思っています。確かこれは当初検討されたけど長くなりすぎるのでボツにしたはずです。そこをやってこそ「人狼」の総括ができたのかなと。他にボツにした要素として、「謎エンド(仮)」というのがあります。本編で「バーサーク」というおかしなチャプターがありますが、あんなものを各所に仕込んでおいて、全部KEYを取ると解放されるエンドです。そこでは全身黒タイツを着込み腕をいっぱい生やした私が、オリジナルソング「うごめく犬」に合わせて深夜の街を闊歩したり、ラブホテルのベッドの上で踊り狂ったり、「闇はすべてを知らない ただ 全てが闇のなかにあるだけ」などと意味深なことをつぶやいたりするものでした。「バーサーク」は残存した謎エンド(仮)の断片とも言えるかもしれません。今のコンテンツの広がりをみるかぎり本当にやらなくてよかったです。

細かいボツシーンで印象に残っているものといえば、「ここはBGMナシでプレーンな雰囲気にしたいんだ!」「いいや甘いBGMを流すべきだ!!」という議論の果てに今の形に落ち着いたところがあります。該当するのは「最後の約束」ですね。「川に突き落とす」はギャグ的な行動のつもりで書いてたので想定と違いましたが、こういうのもアリかなと思いました。大筋では自由に書かせてもらいました。 ひどい殺し方や死に方もほぼそのまま出ています。あえて言うなら李花子の天然エロ発言などはそこそこ削られています。元々はもうちょっと露骨でした。

あと、書いてみたいのは、真ヒロイン以外のヒロインとのまっとうなエンディング、でしょうか。これについては社内で議論があり、個人的にはやれなくもなかっただろうと思っているところです。よくリクエストいただくのは「他の加護の組み合わせで黄泉忌みの宴」ですね。とてもきついので、個人的にはとてもやりたくないですね。

広がる『レイジングループ』の世界


——コンシューマ版でフルボイスになった“仏舎利ロック”ですが、これは誰かが作曲したのでしょうか、それとも即興なのでしょうか。

amphibian:作詞作曲私です。書いてるとき即興でつくったとも言います。一応、説明用に作った仮歌のデータとほぼフルの歌詞はあります。私は音楽の勉強をろくにやっていないのですが、作詞作曲やってみたい欲がとても強く、作りかけで投げている曲がいっぱいあります。今回は「キリノネガイ」「Last Acceleration」で作詞を、「しんないもうで」で作詞作曲をやらせてもらい、夢を形にしていただきました。仏舎利ロックについては歌扱いじゃなくてあくまでボイスなのですが、歌い回しが難しく、収録にあたりご迷惑をおかけしてしまいました。おかげさまでウケたので良かった気もしますが、なんでウケてるのかイマイチ分からなくて怖いです。

——好きなキャラクターやユーザーに注目してもらいたいキャラクターを教えてください。

amphibian:私は特定のキャラクターへの思い入れがあまり強くなく、みんな見てほしいと思っています。キャラクターに対して公平であることが、偏愛からくるえこひいき描写や出番の多寡差を減らす秘けつかとも思います。しいて言うなら「茶っ葉のチャパティー」にもっと注目していただきたい。

——今後、『レイジングループ』でやってみたいメディア展開やグッズ展開はありますか? また次のデスゲームものや別の次回作などの構想はありますか?

amphibian:ずばりローカライズとアニメ化です。文字数が多いので翻訳費用はとんでもないことになり、現状では踏み切れる状況にはないです。しかし意外と外国の方にも関心を持っていただいてるみたいなので、何とかできるといいのですが。アニメ化は翻訳のさらに20倍くらいは金がかかりそうで現状では夢のまた夢です。しかし書いておけばいつか叶うかもしれないので書いたのです。映画化でもいいなあ。グッズ展開については、コンテンツのしめくくりに資料集を世に出したいとは思っています。私の書いたヘタクソなラフが満載になりそうでレビュー評価は下がりそうですが。あとレイジングループ版のアナログ人狼カードデッキ。リクエストも多いですし割と簡単に作れそうな気配もあるので、やりたいです。
次については、本当はレイジングループを最後にいったんデスゲームをやめようと思っていました。色々他にやりたいものもあるためです。が、レイジングループが広まってしまって、そうもいかなそうです。もう少し考えますが、何かしら近いものが出てくる可能性もあります。

——ファンにひとことお願いします。

amphibian:やりたいことは沢山ありますがなかなか前に進めず申し訳ないです。必ず何か形にしますので、懲りずに待ってていただけるとうれしいです。

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カワチ

カワチ

ビジュアルノベル好きのフリーライター。さまざまなメディアに記事を寄稿しており、マニアックな知識や小ネタなどで読者を唸らせている。深みのあるゲームが好きかと思えば、「エロければなんでもいい」と豪語する猛者。

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