2つのテクニック
――相手が人であるからこそ、予想だにしない展開が起こりやすく、そこに作戦で挑んでしまうと、戸惑ってしまったりするということですね。仲間の強さを信じているからこそ、自分の戦いに集中できるんですね。梅さんのチームはいかがでしたか?
梅:僕らのチームは、最初はアストレアさんのチームよりもさらにガチガチに、「戦略」を決めていた部分が多かったと思います。しかし、立ち位置や、攻めかた、守りかたを決めすぎるとやはり、対応が難しい武器を持っている状況がでたり、立ち位置に縛られてしまうこともあったんです。そうすると柔軟さを欠く部分ができてくるので、最終的には臨機応変に対応できるように、武器に応じて、マップで味方の配置を見ながら自分で考えて動くという形になりました。あとは、戦術的なところでいくと、予選から話題になった、「ケツテク」、「ケツグラン」と呼ばれる技術についても向き合いました。これは、バトルアリーナのモラル的なところとは別にして、大会で「可」であれば、向き合わざるを得ないところでしたから。
「ケツテク」と「ケツグラン」
ケツテク:テクニックを撃つ瞬間にキャラクターの向きを変えると、ほかの人からはテクニック射出キャラクターが元から向いていた向きに攻撃エフェクトが出ているように見えるが、自分の画面では最後に向いた方向にテクニックが飛んでいく。この自分の画面のテクニックにダメージと攻撃判定が設定されているため、相手からすれば見えないテクニックになってしまう。
ケツグラン:原理はケツテクとほぼ同じ。グランウェイブを撃つ瞬間に向きを変えると、ほかの人からは元から向いていた向きにグランウェイブが飛んでいくように見えて、自分の画面では最後に向いた方向にグランウェイブで飛んでいく。グランウェイブの派生を発生させるまでは正しい位置に現れないため、派生を出した瞬間に瞬間移動したように見える。また、グランウェイブを発動する瞬間に肩越し視点に変える事によって発動させるテクニックも存在する。(通称:ずらしグラン)
この「ケツテク」、「ケツグラン」は、自分の画面では視認できないため、ABTの練習段階では「ケツテク」、「ケツグラン」が使われているかもしれないという認識のもと戦う必要があった。このため、「見えない技をかわす」という、他のゲームにはない読みあいと動きが必要になったと語ってくれた。アークスバトルトーナメント予選期間中に、一度は「禁止」になる可能性が公式から言及されたが、決勝大会はこの現象を使用した戦術が「使用可」ということでルール発表が行われた。この現象については、今後のアップデートで修正予定。
Keyta:梅さんのチームは、FPS勢が居たこともあり、ケツテクを使用しない場面でもテクニックの使い方が上手く、それが活きる状況では敵にしたくないチームでしたね。練習試合でも、いやというほどテクニックの強さを見せつけられました。
――ケツテク、ケツグランについては、予選から大きな話題になりましたよね。『PSO2』のウラワザ的な挙動の一つとして知られていた要素だったんですが、対CPUではそこまで大きな影響のないものだったんですよね。それが、バトルアリーナという対人戦においては、とても強力な戦術になってしまったと認識しています。この話題はなかなかデリケートですが、観戦などをしていても目立つ部分で、本大会を語る上では避けて通れないものだと思います。
NINJA:振り向き以外にも様々な繰り出し方があることから我々は「ケツテク」ではなく、「消しテク」と呼んでいました。ここではケツテクと呼びますが、この現象の存在自体はかなり早い段階から確認していました。東京予選ではあまり使われていない印象を受けた方がいると思いますが、あれには理由があったんです。我々が普段練習しているゲームのオンライン環境だから出来ていることで、試合会場の環境でケツテクができるかどうかというのが、当日試合をしてみるまでわからなかったんですよ。ケツテクは、自分と相手の画面を見比べないと、出来ているかどうかがわからないんですね。正直、運営が後々あれが不具合であると発表した時は驚きました。
アストレア:そして、東京会場で、どうやら出来るようだということになって、練習や他の予選でもケツテクが見られるようになりましたね。普段練習試合をしている、僕たちや梅さんのチームは、ルールや仕様がどう転んでもいいように、ケツテク「有り」と「無し」、両方の環境で練習をしていました。ケツテクをめぐっては、大会の間に「決勝大会では禁止にするかもしれない」というアナウンスが公式からあったりして、ルール的にぶれていたところなのですが、両方の環境で練習していたので、精神的には楽でした。
――いわゆる「ウラワザ」的なテクニックで、いろいろと物議をかもしましたが、運営側のルール判断も難しかったようですね。
NINJA:決勝大会では、練習環境と異なる状態になってしまうということで、ケツテクの禁止は見送られたのですが、実際に遊んでいると、意図せぬケツテクというのも発動してしまうので、大会としては好い判断だったと思います。例えば、相手がソードを担いで接近してきた時、後退しながらテクニックを貯めて、チャージが完了した瞬間に相手にはなつというのが、普通の行動なのですが、これは実はケツテクになってしまっているんですよ。
後退からの射出ほかにも、ジャンプして障害物ぎりぎり上を抜けるように撃ったり、壁から出て少し角度を変えてすぐに撃ったりすると相手の画面では見えないフォイエとなってしまうことがある。
――僕は格闘ゲームの大会なども今までにいくつか見てきているのですが、「競技」や「大会」の場ではこういう制作サイドが想定していないテクニックは、「ゲームの進行を止める」ものでなければ「使用可」となることが多かったので、意図しないものをジャッジしにくいということを含めても、今回のABTの判断は妥当だったのかなと思います。ランクマッチでの使用の是非はともかくとして、競技としてはOKがでたほうがすっきりしますから。たとえば、某格闘ゲームでは、仕様の穴ともいえる「ガード不能」連係と呼ばれるものがあったのですが、これは世界の舞台でも「可」とされていました。もちろん、格闘ゲームの大会でも禁止となったテクニックなどは多くありましたが、それらは画面を停止させてしまったり、試合を進行不能にするものが目立つ印象です。
NINJA:ランクマッチ等での使用するしないの議論は別にして、ABTで「禁止」となると、そこを判断するジャッジが非常に厳しい役割となりますし、粗探し的な争いになってしまう可能性がありましたね。
――しかし、これは実際に見てみると強烈ですね。画面上に、見えない攻撃判定が飛んでくるんですよね。皆さんは、その見えない攻撃を撃ったり、避けたりしていたんですか?
Keyta:そうですね(笑)ただ、「ケツテク」はズルい!「ケツテク」があるからダメ!としてしまうと、競技のルールとしては存在しているので、向き合わざるを得なかったんです。そして、向き合った結果、実はこのテクニックには特殊な「対策」ができることがわかりました。
梅:僕らは、決勝大会が終わった後に、この対策のネタばらしをしてもらったんですが、衝撃でした。我々を含めて、「ケツテク」、「ケツグラン」には肩越し視点で撃たなければいけない場面以外ではメリットしかないと思っていたプレイヤーからすると、驚きの種あかしでした。「ケツテク」、「ケツグラン」を上手く使おうという出場者は多かったのですが、弱点があるはずという視点はなかったんです。我々のチームはそもそも攻撃していることを気付かせない仕掛け方を練習していたのですが、まさかアストレアさんのチームは弱い部分を探しているとは思ってもいなかったです。
――予選から、ABTの流れを追いかけていたつもりだったのですが、その話は初めて聞きました。具体的に、どういった対策があるのでしょうか。
Keyta:ケツテクで繰り出されたテクニックやPAというのは、攻撃しているということを「消せる」ので、一見非常に強力なんです。でも、このケツテクで繰り出された攻撃というのは、「ヒットストップ」が軽いんですよ。なので、ガードさえしてしまえば、本来はガードしてから攻撃が当たる直前にガードを解除するタイミングを計る必要のあるガードキャンセルテクニックが、ずっとガードし続けても自動的に発動し、100%成功させることができるんです。実は、この対策は、決勝大会までずっと伏せていました。
相手の攻撃が当たる前にガードしておき、相手の攻撃が当たる直前にガードを解くことにより、相手の画面ではまだガードしているように見えて自分の画面ではガードしていないという状況が発生する。この状況ではガード判定になっているため、ガード後の動作をキャンセルするような形で動くことが可能になる。このガードモーションを素早くキャンセルするテクニックの俗称をガードキャンセルと呼ぶ。
このテクニック自体は、タイミングをとる必要があり、死角からの攻撃などに対して狙うのは難しいが、ケツテク、ケツグランはガードキャンセルをせずにガードをし続けても必ずガードキャンセルと同じように、ガードモーションが素早くキャンセルされる。
以下の動画は、普通のテクニックやグランウェイブをガードキャンセルせずにガードし続けた際の硬直と、ケツテクとケツグランをガードし続けた際の硬直を比較した動画になる。普通のグランウェイブをガードした際は、ダメージ表記が消えてからライジングエッジが発動されているのに対し、ケツグランをガードした際は、ダメージ表記が出ている最中にライジングエッジを発動できている事が分かる。
NINJA:この対策だけは、外に出さないように、ひっそりと検証して、練習していたんです。実はこの現象は、試合中に普通に起こるんですが、そこに違和感を感じたところから調べ始めたんです。「通信ラグじゃないか」と諦めなかったのが良かったですね。その他にもケツテクメギドが地面に当たった際にプレイヤーに直撃せず、爆風でダメージを受ける際は一切よろけが発生しないことを利用した攻めも練習しました。
Keyta:この対策ができていると、4vs4ではケツテクの有効度が大きく話が変わってきます。6vs6の形式ではケツテクが猛威をふるいますが、一人一人の動きをよく把握できるABTならこの対策を狙えるポイントが多いんです。特に、タイマン状態になる時によく使用する対策なので今回の大会に限っては大きな戦力になりました。
――ちょっと鳥肌が立ちました。僕も、ケツテクには明らかにメリットしかないと思っていました。こういう強い行動というのは「使わないと損」をすることが多いですから、ルールでOKとなったら、使い方を模索するというのは当然ある方向性だと思っていました。そこに対策が潜んでいるとは、驚きです。
Keyta:ケツテクは、バトルアリーナとして想定されていなかった挙動ですが、その想定されていなかった挙動には、想定されていなかった不思議な仕様があったんです。梅さんのチームが、試合で通常のテクニックとケツテクをふんだんに混ぜて使ってくれるので、良い練習になりました。
梅:ガードキャンセルの存在は、練習しているチームのほとんどが知っていたんですが、まさかケツテクを単に通常ガードするだけでガードキャンセルが発動し、それが逆に安定感のあるカウンターとして使われているとは思いませんでした。練習試合でやられていたシーンも、よくよく考えるとあるんですけど、「うまいな。いつも見えないはずの攻撃をガードキャンセルしてくる。」と思っていたんですよ(笑)グランウェイブについてはガードキャンセルをよくされたので、肩越し視点でのケツ(ずらし)グランを発動させ、派生攻撃の広範囲である下判定を利用し、相手の後頭部で派生を当てる事によりガードを失敗させる「めくりグラン」で対応はしてたんですが、まさか100%発動とは(笑)
NINJA:ケツテクはPPアンリミテッドと組み合わせると強力な戦術だったので、そこを攻略できたのは大きかったですね。二人で検証できる格闘ゲームのような形式ではないですから、検証するには複数の協力者がいるんです。ほかにも、ケツテクによるメギドなどへの対策として、特定位置でテクニックを誘うという対策を作ったりしていました。ケツテクを行っているということは、ロックオンを切っているわけですから、玉の軌道を制御しにくいんですね。そこで、ジェットブーツなどで高台に登って、メギドを誘って壁に当ててしまうんです。