オンラインゲームをいくつか遊んでいると、よく見かける名前というのがある。『ソード・アート オンライン』が世に出てからは、主人公である”キリト”というキャラクターネームを見かけることが増えた。『ファンタシースターオンライン2』はもちろん、『ファイナルファンタジー14』や『モンスターハンター』シリーズでも見かけたことは一度や二度ではない。
名前の重複がシステム的に許可されていない場合は、kirito、†キリト†など、いろいろな表記を使い分けられるのもネットゲーマーには周知の事実だ。
そして、この新しくはキリト、古くはクラウド(ローマ字のKURAUDOは冗談なのか本気なのかわからなくて色々な意味で危ない)、セフィロス、ハセヲなどを名乗るプレイヤーの多くは、エンジョイ系プレイヤーに属することが多く、ときどき「そんな装備、プレイヤースキルでそのキャラクター名を名乗るな」と槍玉にあげられたりもする。名前のせいで、ちょっとしたミスでも、「キリトなのに」と陰口を叩かれることもある。つまり、2016年のいま、ネットゲームにおいて、最強の激モテ剣士・キリトを名乗ることは、あまりにもリスクが高いのだ。
しかし、2016年10月に発売された『ソードアート・オンライン ホロウ・リアリゼーション』は、このネットゲーム界の暗黙の了解を清々しく吹き飛ばしてくれた。本作は、キャラクターメイキングが可能なゲームで、男性と女性のアバターを使い分けられるのですが、デフォルト、つまりゲーム開始時に表示される名前や容姿、声が”キリト”になっているんです。
ちなみにこの作品、外見はあくまでキリトくんのアバターなので、性別を女の子にしてもアスナたちからは”キリトくん”として扱われます。キャラクターボイスをオフにすることで、女の子としてのロールプレイも可能ですが、ストーリーをすんなり楽しむには、デフォルトのまま進めるのが良さそうです。
キリトを名乗ることをゲーム側が薦め、許してくれる。
おれだって、誰だってなりたいんだよ。キリトに。
キリトとしてこの世界で生きることにしたおれは、このゲームをやると言っていた、徳島のゲーム仲間”HAME”に連絡を取った。
HAME:RPGの趣味が浅葉と似通っている元ネトゲ廃人。某オンラインゲームにおいて、HAMEといえば微妙に名の知れたプレイヤーだったらしいが、浅葉は別鯖で遊んでいたために詳細は不明。ゲームに対する評価は辛口であることが多いが、買ったゲームはなんだかんだやりこむ男。トロフィーコンプリート厨。
おれ「キャラクターネームは何にした?」
HAME「HAMEにしたけど」
おれ「容姿は?」
HAME「男キャラかな。おっさんキャラ好きなんだけど、このゲームのキャラクリは世界観重視してるからか、若者しか作れんね」
おれ「お前、何もわかってねえ。デフォルトでキリトくんになってたろ。おれも、お前も、この世界ではキリトだ。名前はキリト、容姿もキリト、これ以外の選択でこのゲームを遊ぶのは逃げ」
HAME「いやいや、キリトって。お前、ネトゲで蔑まれるキリトをたくさん見てきただろ。リスクしかねえんだよ、その名前と容姿には」
おれ「でも、想像したことがあるだろ。もし名前がキリトで、最強のプレイヤーだったらって。もしそんなことができちまったら、激モテのオンラインゲームプレイヤーになるだろう」
HAME「お前、あえてキリトで挑むっていうのか。わかったよ、俺もこの世界では”キリト”だ」
俺たちの前には、無数のキリトが現れるだろう。
そうなったとき、誰が本物かを決めるのは、”やり込み”以外にないだろう。最強の装備を身に纏い、可能な限りステータスを突き詰め、迅速なアクションでモンスターを討伐する。
頂は遥か遠く。
しかし、俺たちは立ち止まらないだろう。
最強の剣士・キリトを再現するための冒険が幕を開けた。