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【ブックレビュー】エモい冒頭から始まる異世界転生『THE KING OF FANTASY 八神庵の異世界無双 月を見るたび思い出せ!』の話をする

   

八神庵が大好きである。『ザ・キング・オブ・ファイターズ95』(以下『KOF』と表記)のロケテストで両足を縛った赤髪のキャラクターを見たとき、衝撃が走った。
その赤髪のキャラクターが使う紫の炎と、強烈な打撃技を合わせた「八神流古武術」はあまりにも格好よく、乱舞技の”禁千弐百拾壱式・八稚女”には度肝を抜かれた。殴られてる相手が紫の炎に包まれていき、大爆発とともにフィニッシュ。当時対戦では滅多に決まる技ではなかったが、CPU戦ではよくこの技をヒットさせて喜んでいた。
それから随分と八神庵好きをこじらせていて、高校生のときは赤髪にしていたし、庵の履いている紐付きのパンツが”ボンテージパンツ”ということを知り、milkboyかどこかで赤いボンテージパンツを買って履いていた。もう20年くらい前の話である。

▲『KOF95』で突如現れた赤髪+謎のシャツ+紐付きのパンツを纏った八神庵。禁千弐百拾壱式・八稚女のあまりの格好良さに痺れたのは中学生くらいの頃。

禁千弐百拾壱式・八稚女といえば、発動時の「遊びは終わりだ」のボイスとヒット時の「泣け、叫べ、そして死ね!」が有名だが、このヒット時ボイスがついたのは『KOF96』からのこと。『KOF』の95~98はオロチ三部作と言われるシリーズだが、この96からの話の展開がとにかくめちゃくちゃに良い。八神庵とこの時期の『KOF』シリーズの主人公である草薙京は、大昔に地球意思ともいえる滅びをもたらす存在「オロチ」を封じた、草薙、八尺瓊、八咫から成る「三種の神器」の末裔にあたるが、660年前に大きな陰謀によって草薙と八尺瓊は袂を分かつこととなった。八尺瓊はオロチの力を血に宿し、八神と名を変え、その対立は京と庵の代まで解消されることなく、『KOF』の水面下ではオロチ復活を目論む新たな陰謀が蠢く。祓う者”草薙”、封じる者”八神(八尺瓊)”、そして護る者”神楽(八咫)”が揃うことで、オロチ復活を阻止する可能性は残されていたが、庵は家の因縁を通り超えて、個人的な感情で京を倒すことを望んでいる。しかし、オロチ三部作の完結編となる97では、ついに庵と京、そして八咫の末裔である神楽でチームを組むことが可能になり、このチームでエンディングを迎えると、隠し要素である「三種の神器チーム」エンディングが見られる。以下は、そのエンディングの動画である。

草薙京を宿敵とする八神庵が、オロチの力で内に眠るオロチの血を強制的に目覚めさせられ、あわや操られるというところで、強烈な自我でそれに抵抗し、オロチを拘束する。庵が京に抱く敵対心は何ら薄まっておらず、オロチを封じればまた京を殺してやろうとすら思っている男が、オロチを封じるために京に最後の一撃を託すのだ。このエンディングは、庵がオロチを拘束しているところに、京が「祓うもの」としての役割である草薙の拳を叩き込んだところで終了する。最後に出てくる女性は、京の彼女の”ユキ”。彼女もまた、ある運命の悪戯でオロチを巡る戦いに巻き込まれることとなった。
京のほうに目線をやる庵のカットが、とてつもなく印象的で忘れられません。今風の言葉で言うならとにかくエモいと思いませんか。

▲『KOF97』、三種の神器チームエンディングより。こんなにエモい格闘ゲームのエンディングがほかにあるだろうか。いや、ない。

そしてなんと、本日発売となったドラゴンノベルスの新刊『THE KING OF FANTASY 八神庵の異世界無双 月を見るたび思い出せ!』は、このエモいシーンから物語が始まる。
この時の衝撃で、庵は異世界エサーガ公国へと飛ばされるのだ。何が起きているかわからないまま置き去りにされそうになるが、スタートにこのシーンをもってくるあたりドラゴンノベルスは「わかっている。」『KOF』のどこが大事かを。
しかも、イラストレーターはSNK公式であり、『KOFXII』や『KOFXIII』のデザインなどを手掛けたおぐらえいすけ氏。
八神庵の異世界転生という言葉だけを見ると完全に悪ふざけにみえるが、本作は「やりきった」作品なのである。

タイトル:『THE KING OF FANTASY 八神庵の異世界無双 月を見るたび思い出せ!』
制作陣:SNK (監修), 天河 信彦 (著), おぐら えいすけ(SNK) (イラスト)
出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンノベルス
価格:1300円+税
ページ数:306ページ
発行年月日:2019/07.05

作中にも、バリバリにわかっている感がでている。『KOF』でお馴染みの必殺技を使い、ゴブリンや、女騎士や、挙句の果てにはドラゴンとも戦う。ちょっとマニアックな技まで登場して、思わずおおっとうなってしまった。庵といえばやはり素手と炎を使った格闘術。鎧とか剣なんてものは不要なのだ。(次巻があれば見てみたい気もするが)
よくよく考えたら『KOF』でも、人間かどうか怪しいやつらと八神流古武術+本能で戦ってきたわけだから、多少のモンスターなんてなんともない。
設定的には『KOF』では最強クラスの実力者であり、格闘ゲーム的にも性能が高い”強キャラ”だったりすることが多い庵だが、本作で描かれる庵も無法な強さを持っている。多数の敵を相手にしてもまるで動じない圧倒的な実力は、文章で読むとゲームとはまた違った味わいがある。以下は、冒頭のシーンからの引用である。

輝く柱から現れた男の掌に、紫色の炎が燃えている。私の瞳や髪に似た色の炎が。
「まさか……」
私はまず自分の目を疑った。なぜなら、呪文の詠唱なしで炎を――魔法を操る者などこの世界に存在するわけがないのだから。あまつさえ、紫色の炎など……。(『THE KING OF FANTASY 八神庵の異世界無双 月を見るたび思い出せ!』10ページより)

どうだろうか、この冒頭から感じる圧倒的な強さは。庵が異世界転生したエサーガ公国では、魔法の詠唱なくして超常の力は使えない。しかし、庵は八神流古武術により、素早く炎を繰り出せるため、戦士のタフネスを持ちつつ、詠唱なしの魔法使いのような超常の技を使えるチート級の男なのだ。

▲ノベル用の技表も用意されているほどのやりきりっぷりに乾杯。

強さ以外の描写も、しっかりとゲーム版の八神庵をベースにしている。『KOF』は、格闘ゲームでありながら、さまざまな物語やキャラクターを異様な熱量で描いてきた。ネオジオフリークやゲーメストやアルカディアといったゲーム雑誌に掲載されていた「公式ストーリー」をいつも楽しみにしていた。ゲームのエンディングも、ちょっと気合入りすぎではと思うようなものも少なくない。
そんなぜいたくな環境の中で、八神庵という人物はとても繊細に描写されてきた。草薙京をつけ狙う因縁のライバルで、立ち向かってくる敵にはとことん冷酷な男だが、戦士を相手にしないときの彼からは、不器用な優しさのようなものを感じることがある。野性的で暴力的な戦闘スタイルをとる庵の嫌いなものがプロフィール上では「暴力」となっているのは冗談のように笑われたりするが、これにも実はしっかりと理由がある。そして、この異世界転生では、そんな庵の人間味溢れる部分もたくさん描かれている。ところどころ、ちょっと優しすぎやしないかと思うこともあるけれど。

本作は、庵の異世界転生となっているが、物語は”アルテナ”という女騎士の視点で語られる。庵の心情描写も多少は入るが、あくまでアルテナから見た庵の姿が、読者の前には現れるのだ。個人的に、庵のミステリアスな部分というのは、語られないからこそ惹きつけられる部分もあるので、この形式には大いに賛成である。ちなみにこのアルテナは、語り手であり、本作のヒロインの一人でもある。もうひとり、ヒロインキャラクターとしてリリリゥムという魔法使いの女の子が登場する。

▲アルテナとリリリゥム。どこかで見たことのある二人だが、ここは異世界。気にせずいこう。

そして、アルテナもリリリゥムも、『KOF』プレイヤーならどこかで見たことのある外見をしているが、本作は異世界の話。この際ケンスウやロバートのことは忘れよう。そもそも、庵のような危うくも格好いい男に出会ったら、惚れてしまうのも無理はない。ちなみに庵の『KOF95』の大切なものは”彼女”だったし、『KOF99』では大切なものが”新しい彼女”に変わっていた。「食った」などの物騒なネタもプレイヤーの間でささやかれたりもしたが、庵はモテる男なんです。

▲挿絵もしっかり入ってます。庵のことを知る人はマストバイ!と言っても過言ではありません。

気になって仕方ない作品だったので、早々に読み終えたが、八神庵を知っている人であれば、なんらかのぶっ刺さる部分がある作品だろうと思う。異世界にいっても、庵は強く、不器用なままだ。ときどき、『KOF』では見られない反応を見せるシーンもあるが、それはそれで面白い。ネットでバズったりもしているようなので、是非続刊に出てもらって、まだまだ庵の異世界転生を楽しみたい。なんならアニメ化もしてほしいし、Blu-rayが出るならそれも買う。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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