【プレイレポート】光と影、そしてその間。不思議な余韻を残すホラーアドベンチャー『祝姫 -祀-』

アドベンチャーゲームの本を作ったりしたこともあるさすらいのオタク・浅葉です。
今回の記事では、ホラーゲーム『祝姫 -祀-』のプレイレポートをお届けします。
本作は、『ひぐらしのなく頃に』等で知られる竜騎士07先生がシナリオを手掛けた作品で、ジャンルはホラーゲームとなっています。一見ハーレムもののギャルゲーかと思いつつ、過激なグラフィックや文章で描かれる「呪い」や「霊障」がプレイヤーの心を揺さぶります。

『祝姫 -祀-』
発売日:2017年9月7日
プラットフォーム:プレイステーション4、プレイステーションVita
ジャンル:ホラーアドベンチャー
価格:プレイステーション4版:6,980円+税、プレイステーションVita版:5,980円+税
発売元:日本一ソフトウェア
オリジナル版:DMM.comラボから配信中

△DMMから配信されたホラーアドベンチャーが、PSプラットフォームに登場。新規シナリオも追加されています。

光と影の強烈なコントラスト

本作のジャンルはホラーアドベンチャーとなっていますが、本作には「シナリオ分岐」が存在しないため、読み進めていくだけで全てのシナリオを楽しむことができます。プレイヤーの意思がゲームの中に反映されないタイプのアドベンチャーゲームなので、プレイヤーは主人公やヒロインたちを「眺める」ことになりますが、どの登場人物も強い個性と影を抱えているため、作品世界にどんどん引き込まれていきます。和遥キナ氏によるキャラクターデザインが、この振れ幅の大きい登場人物とかみ合い、ホラーゲームに深みを与える異物感を生み出していて、光と影のコントラストが絶妙なものになっています。
日常パートで見せるヒロインたちの過剰なまでに可憐な「光」の部分と、陰惨で嫌悪感すら湧いてくる「影」の部分を見比べると、とても同じゲームだとは思えません。特に、影の部分の文章は抉りこむような鋭さで、時に悪趣味にすら感じるほどです。プレイヤーは、影の部分に対して抱いた同情や拒絶をエネルギーに、本作の物語に光を探して、読み手としてひたすら前へと進むのです。

△ヒロインたちの魅力が溢れるイベントシーンをたくさん見た後に、一気に落差のあるホラーの扉が開きます。

物語序盤から、今プレイヤーの目の前で起こっていることが何なのか判断がつかないまま、どんどん話が進んでいくので、この奇妙な世界に引き込まれるのにそう時間はかからないはず。『ひぐらしのなく頃に』のエッセンスでもあった「謎ときや考察」をする作品ではなく、明かされる事実に驚いているうちに物語が幕を閉じるタイプの作品です。「サスペンス」ではなく、「ホラー」として受け止めれば、こうした構造にもすんなり馴染めるはずです。

『祝姫-祀-』プロローグ
煤払(ススハラ)家の男子は代々、一定の歳を迎えると親元を離れて独り立ちする。
そして誰にも頼らずに心身を鍛え、それを以て一人前と認められたそうだ。
だからこの日に備え、一人で生活する為に様々なことを身に付けてきた。
県立須々田高校。そこが僕の新しい学校だ。高校での毎日は、気楽なだけでなく、とても快適。誰もが楽しげに過ごす2年A組。
しかし、彼女。黒神十重(クロカミトエ)。彼女は、不思議……という言葉だけでは説明のつかない少女だった。胸には片時も離すことなく、日本人形のようなものを抱えている。知らぬ間に髪の毛が伸びている呪いの人形に違いない、などと囁く者もいる。そう言われても不思議のない、薄気味悪い人形だった。

△主人公の煤払涼(すすはら すずむ)。容姿端麗、草食系、武道に長けた好青年。

△黒神十重、本作のメインヒロイン。焦点の合わない瞳でぼんやりとしていることが多く、突如態度が豹変するなどの奇行も目立つ。

アドベンチャーオタクの一人語り

本作を遊んでいて、真っ先に頭に浮かんだのがKeyから発売されている名作アドベンチャーゲーム『AIR』。どことなく設定面で重なるところがあり、『Rewrite』でシナリオを務めた竜騎士07氏が担当しているということで、どうしても意識にちらつくのです。しかし、全編通して遊んでみると、終盤は『Air』と全く異なる方法に話やテーマが振られており、とても満足して遊ぶことができました。『AIR』や『Rewrite』を知っているからこそ、先の展開を変な方向に妄想し、違う形で裏切られるというのはなかなか爽快でした。
本作のシナリオはプレイヤーの感性で受け止めかたがいろいろに変化するものとなっています。あえて、プレイヤーの想像にお任せするという部分をシナリオに入れ込んでいるため、どうとでも取れる部分がいくつかあります。ヒロインたちの「影」の部分を、あえてぼかしているようなシーンもちらほらあり、プレイ後に不思議な余韻が残るのです。この余韻を、なんだかもやもやすると捉えるか、考察や願望を含めて楽しむかというのは人によって分かれそうですね。おれはどちらかというと、後者のタイプなのですが、とあるヒロインについてはどうしてももっと未来の話を見たかったなと思います。「分岐」のないアドベンチャーゲームにゲーム性があるかないかという議論には、最近あまり興味がないのですが、ここに「分岐」があればと願ってしまいたくなる場所が、一つだけあるのです。

△おれのイチオシキャラクター・莉里杏ちゃん。kawaii。

オリジナル版にはなかった「結姫」ルートは、本編屈指の萌えサブキャラクターである雛形先生にスポットが当たっており、こちらも充実した読み物になっています。雛形先生の学生時代の可愛らしさと危うさは、個人的にかなりツボでした。このルートでも、光と影のコントラストはたまらなく強烈なので、オリジナル版を遊んだと言う方も是非遊んでみてください。
その他、目立った変更点としては、本作では表現的に色々アレだったのか、ヒロインの一人、鼎ルートのシナリオが大幅に修正、加筆されています。オリジナル版の方がかなり直球だったのですが、今回のものもまた色々想像できる陰惨さがあります。どっちもヒドいやつもいたもんだ的なお話ですが、「怖さ」についてはやや方向性が違うので、興味のある方は両バージョンプレイしてみると良いかもしれません。

【オリジナル版との違い】
日本一ソフトウェアから発売された『祝姫 祀』には、完全新規のシナリオ「結姫」編が追加されています。このシナリオは、雛形真由にスポットを当てたものとなっていて、オリジナル版に残されていた謎を伏線を回収するものとなっています。また、プレイステーションプラットフォームへの移植に伴い、一部表現を差し替えたシナリオなども存在します。

また、システム面では次の場面まで一気にジャンプできる「シーンスキップ」があるのも良かったです。『祝姫 祀』には、選択肢が1か所あるのみなのですが、ワンシーンが長めになっているため、通常のテキストスキップ機能ではやや遅く感じてしまうのです。このシーンスキップも爆速というわけではありませんが、テキストスキップで送るよりも断然テンポが良く、コンシューマーではXbox360時代のアドベンチャーゲームで良く見かけていた機能だったので、このシステムにスポットが当たってくれると嬉しいですね。共通ルートを何度もプレイさせて、既読率を稼いだり、ルート分岐までたどり着くタイプのゲームには、この機能があったほうが「絶対に」良いと思います。
日本一ソフトウェアのホラーゲームに対する積極的な取り組みは、ホラーゲームファンとして嬉しい限りです。この夏発売された『深夜廻』はもちろん、昨年の『真・流行り神2』もとても良かったです。個人的には『真・流行り神2』の2章は、ここ数年のホラーゲームの中で屈指の出来栄えだと思うので、今後何らかの形で続編を観てみたいですね。来年の夏も、日本一ソフトウェアの動きに注目です。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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