『シャドウバース』の全国大会RAGEに向け、ゴジラインの超巨大戦艦が動きはじめた。
格闘ゲームの世界大会EVO2016の『ブレードアークスフロムシャイニング』で優勝し、誰がなんと言おうと覇者という肩書きを手にした男・凡さんが、狭き門であるRAGEの出場権をかけた抽選に通ってしまったのだ。
そして、そんな凡さんが、夜中の4時という奇天烈な時間に『シャドウバース』の配信を始めた。
アプリ『シャドウバース』の配信機能を使ったカジュアルな配信かつ、こういう設定に疎い凡さんが始めた配信なので、「できたてのコミュニティかつ、音声なし」という非常に無骨な配信だったが、閲覧者は5名もいる。
浅葉「配信見てる人が5人もいる。今日登録したばかりで、この時間なのに」
ミズシナ「おれと浅葉で2人。あとは誰だ」
ヒマ「自分もいます」
ミズシナ「俺たち以外に見ている奴が二人もいる。RAGEに向けた”凡さん対策”、怠ってない意識高いプレイヤーがおるな」
この後、配信を見ていたのは、”ゴジラインのお友達”ばかりだったことがわかり、ミズシナのこの予想は覆ったが、この日の配信をチェックしていないRAGEプレイヤーは全て、凡さんにハチャメチャにされるというリスクを付与された。ダイナミックかつ奇想天外な凡さんのプレイヤーは、初見では脅威となるはずだ。
凡さんの『シャドウバース』は、驚くべきことに、サービスインから今まで無課金を貫いている。
何度かのカード追加も、無課金で乗り切り、デッキを構築しているのだ。
『シャドウバース』を遊んだことがない人のために説明しておくと、このゲームは課金圧が低めになっていて、微課金でもある程度のデッキを一つくらいは組めるようになっている。ユーザーにとても優しいゲームだ。
しかし、完全な無課金となると、大会などを想定した場合に心細いのも事実。
さまざまなカードを自分で使ってみないことには、強さや対策がわかりにくいというゲームの特性もある。
そして、RAGEは、大前提として、複数デッキを持ち込んで戦うレギュレーションとなっている。
大会ではすべてのカードを使える端末が用意されているそうだが、様々なデッキを試しにくい状態で挑むというのは、竹槍で戦争に挑むようなものだ。
それでも凡さんは、RAGEへの出場を心から楽しみにしていて、我々もそれを応援している。
浅葉「凡さんのデッキは、無課金だからか、突然出てくる誰も使ってなさそうなカードに圧を感じる」
ミズシナ「オリジナリティを求めとるのか、無課金で単純にカードが足りないだけなのかわからない時がある」
ヒマ「凡さんのデッキを見せてもらった時に、「そのカード抜いたほうがよくないすか」って聞いたことがあるんですよ。そしたら、「これは”おとり”です」、って言われました」
1・ 鳥や獣を捕らえようとするとき、誘い寄せるために使う同類の鳥・獣。《季 秋》「椋(むく)の木に―掛けたり家の北/子規」2・ 相手を誘い寄せるために利用するもの。「格安品を―に客を集める」
(デジタル大辞泉より引用)
ミズシナ「今までの『シャドウバース』にはない新しい概念”おとり”。これは凡さんしか使いこなせねえ」
浅葉「デッキ40枚で、普通のプレイヤーなら何を外すか苦しみながらカードを選ぶのに、”おとり”を入れる心の広さ」
ミズシナ「配信を見守ろう。しかし、今のところ凡さんが使ってるの、今の環境でめっちゃ強いドラゴンだね。俺はこういうのより、オリジナリティとか”おとり”が見たい」
我々は、凡さんに普通の強さやプレイを期待していないのだ。
ドラマを見せて欲しい。
そんな我々の願いが届いたのか、放送では急遽”ヴァンパイア”のデッキを披露してくれることになった。
浅葉「なんか、ヴァンパイア使ってくれるらしいぞ」
ミズシナ「今、ヴァンパイア辛い時代だけど、凡ならやってくれるかもしれん。なんかよくわからんデッキっぽいぞ」
浅葉「”おとり”、使ってくれるようにコメントしてみるよ」
浅葉「凡さんにコメントで、”おとり”のこと聞いたら、”おとりis何”とか返ってきてるけど」
ヒマさん「俺が熱弁された”おとり”はなんだったんだ」
ミズシナ「凡さんは、過去の事にこだわらねえでっけえ男」
配信を見ていると、凡さんのヴァンパイアデッキは、デモンコマンダー・ラウラ、アザゼル、鮮血の花園などを駆使して大ダメージを狙うパワフルなデッキであることがわかった。凡さん自身「ロマンデッキ」というこのデッキだが、ハマった時の爆発力はホンモノ。
凡さんの配信では、スムーズにコンボが決まり、爽快な勝利を手にしていた。
見ている我々も、後半のわずか1ターンのうちに相手を粉砕するその強烈なプレイに魅入られていた。
浅葉「すげえコンボ決まって一気に相手の体力なくなった」
ミズシナ「やべえぞこのデッキ。OTK(ワンターンキル)しとる。凡さんのオリジナリティを感じとるよ」
浅葉「ヴァンパイア、今の環境厳しいけど、これちょっと面白そうだな」
感心と共に配信を見ていると、驚くべき一つの真実が浮かび上がってきた。
以下の、配信中の一幕をご覧いただきたい。
「裁きのデビル、オトリか???」ということに対して、「イエス」と答えている凡さん。
凡さんは、”おとり”のことを忘れてはいなかった。
配信の冒頭では、忘れたふりをして「おとありか」などと言って、視聴者を欺いていたのだ。
対戦相手が配信を見ているかもしれない”リスク”を考慮した、あまりにも深い立ち回りに、唸るミズシナ、浅葉、ヒマ。
ミズシナ「やっぱり”おとり”は凡さんの”タクティクス”なんだな。感動した。オリジナリティとおとり、二つの要素が絡み合う絶妙なデッキだった」
ヒマ「”おとり”、俺の聞き間違いじゃなくてよかったよ」
ミズシナ「それはそうと、この凡さんのデッキ、勢いある。カードが足りてないからかよわそうだけど、ちゃんと組むとワンチャンあるかもしれん」
浅葉「凡さんのデッキ、リスペクトしていけ」
ミズシナ「ちょっと組んでやってみるわ」
カードゲーマーにとって、”オリジナルデッキ”は魔性の女だ。
求めても求めても追いつけない。
自分で組んだデッキで戦うことに憧れるカードゲーマーは数知れず、しかしその多くが、”オリジナル”としての存在感を放てず埋没していく。
しかし、凡さんのオリジナルデッキの爽快な勝ちっぷりには、確かに夢が宿っていた。
一通りのカード持っているミズシナならあるいは、完成させることができるのかもしれない。
数時間後、マスターポイント(ゲーム内の勝利で溜まるポイント)を数千落としたミズシナが、地面に転がっていた。
ポイントと貴重な睡眠時間を失ったミズシナを見て、一つの可能性に気付く。
我々特捜班は、真実を探るため、凡さんに電話をかけた。
浅葉「あのヴァンパイアはRAGE用なの?」
凡「ロマンデッキっすから、多分使わないっすよ」
”おとり”が、ゲームの中だけの戦術だといつから錯覚していたのだろう。
放送で公開したデッキもまた、俺たちを踊らせるための”おとり”だったのだ。
浅葉「ミズシナ、お前も”おとり”にやられたんだよ。凡さんのあの配信そのものが、”おとり”だったってワケ」
ミズシナ「放送の勢い見てヤラれちまってたけど、冷静に考えたらこのワンターンキルのパーツ揃えるより簡単に勝つ方法あるし、そもそもリーダー殴れなくなる守護置かれたらどうすんだよこのデッキ」
浅葉「『遊戯王』のインセクター羽蛾はエクゾディア(特定カードを揃えると勝ちが確定するドリームなカード。凄まじい”引き”を持つカードゲーマーにしか使いこなせないロマンカードでもある)に勝つ方法がわからなくて、海に捨てた。お前はエクゾディアを”使おう”としちまったわけよ。海に捨てるのが正解だった」
ミズシナ「今度から、デッキの枚数余る自由枠あったら、”おとり”の採用を考えるわ」
皆様も、おとりにはゆめゆめご注意を。
※本記事で採用されたデッキについての強弱へのツッコミは受け付けておりません。