【レビュー】マダミスが苦手だからこそ『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』が楽しかったのかもしれない

リアルの人とやる「マーダーミステリー」とか「人狼」が苦手である。大前提として究極的に自分勝手なので、集まる日を決めて、みんなで一緒に楽しもうみたいなのがいまいち合わない。あとは気心の知れた人と遊ぶゲームは好きだけれど、初対面の人が混ざるアナログゲームの場というのが苦手。格闘ゲームに育てられたのでゲームで人に気を使ったり、使われるみたいなことに激しいアレルギーがある。いっそゲームするより飲み会でよくないですか?とか思ってしまう救いがたき陰の者が僕である。

それなのに今回の記事では、Steamにて発売中の『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』という作品を紹介しようと思う。このゲームをプレイしたきっかけは『Fate/ Grand Order』というとてつもないIPを引っ張った塩川 洋介氏が独立後に発表した作品だからというのが大きな理由である。著名なクリエイターの大きな転機にある作品かつ、小規模開発で、しかもアドベンチャーゲームというきわめて作り手の個性が強く出るジャンル。こういうのが一番わくわくするんですよね。

『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』


ジャンル:ミステリーアドベンチャー
リリース日: 2023年12月1日
プラットフォーム:Steam(販売ページ)
開発元: 213℉
パブリッシャー: Aniplex Inc.
価格:2200円
公式サイト:https://mmparadox.com/

▲タイトルから予想される通り、シナリオにはタイムリープ要素もあります。プレイ時間は10時間くらいとコンパクトですが、その作りこみに驚くはず。

ちなみに筆者は、「人狼」は苦手でも、それを題材にしたアドベンチャーゲームである『グノーシア』や『レイジングループ』は楽しく遊ばせてもらった。ということは「マダミス」もゲームなら楽しめるのではと思って進めてみたところ、期待とは異なる面白さに驚いてしまった。このゲームはアドベンチャーゲームではあるが、マーダーミステリーのエッセンスを抽出し、それを鋭利に尖らせた怪作だったのだ。クリアーまでの時間は8時間程度だったが、独特のシステムに導かれて推理を組み立てる爽快感や、ときどきふっと現れる物語としての鋭い部分にすっかり満足した。これが発売直後のことなのだが、意外と周りに感想を語れる人がいないので、紹介文でも書いてプレイヤーを増やそうと思った次第である。

スイカを超えていけ

見出しが誤植と思う方もいるかもしれないが、これを一番に伝えたい。
体験版を遊んで買うかどうか判断するという人も多いご時世である。ただ、本作の体験版の範囲で登場する一番最初の事件を遊んだだけで、ゲームの雰囲気を掴める人はそれほど多くないだろう。
このゲームは、主人公の15歳の少年「天沢 樹」が、育ての親の出身地である「式音島」を訪れ、島を脅かす「式音島の神隠し」に立ち向かう物語である。神隠しというオカルト的な現象に対して、マーダーミステリー流の推理でしっかりと「答え」を導き出していくというシリアスなものなのだが、最初の事件はなんと仲間内にいるであろう「スイカ泥棒を当てる」という内容なのだ。要するに、隠れてスイカ食った奴誰だよマーダーミステリーで解決すっぞという話なのだが、シリアスでもない事件にシリアスなやりとりをする主人公と従兄弟たちから、やべえ……神ゲーかもしれん、みたいなことを読み取れる人がいたとしたら、超能力者かステマの類ではないかと思っている。
物語と推理急加速をはじめるのはこのスイカ事件を解決したすぐ後、主人公が不思議な力で「過去」へと飛ばされるイベントが発生してから。ここからは本当に面白いので、このゲームのことを「スイカ」だけで判断するのはやめよう。

▲スイカにガチすぎる冒頭パート。ここまでではゲームの雰囲気を掴みかねるので、その先へと進もう。

▲式音島の神隠しに関わる謎解きが本作のメインミッションとなる。1章につき1つの事件が発生し、それらは大きな謎へとつながっている。

タイムリープし事件を解決する
新感覚マーダーミステリー

スイカ事件以降は、式音島の神隠しにちなんだシリアスな事件と向き合うことになる。本作のストーリーの主軸は、「式音島の神隠し」の謎を解き明かすことだが、そのためには現在だけでなはく、過去の事件にも触れる必要がある。樹はなんと、見つめた「写真」の時代に飛ぶという不思議な力に目覚め、過去の事件を実際に推理できるようになるのだ。タイムリープものの定番である、過去を変えた結果現在が変わるという要素も物語をうまく味付けしていて、事件を解決したにも関わらず、さらに謎が広がるという事態も発生する。
ゲームは各章に分かれており、章ごとに1つ大きな事件が発生し、マーダーミステリー風の推理で分析していく。キャラクターの背景や心情の変化の過程などはボリュームとしては少なめだが、この割り切りが初対面の人を交えて遊ぶマーダーミステリー的な雰囲気へとうまく昇華されている。物語に登場するすべての人を観察しつつ、時には疑い、真実に近づいていくというプレイフィールを引き立ててくれる。

▲キャラクターの性格や内面の描写は結構あっさり気味。でもこれが、マーダーミステリーパートに活きてきます。

▲事件シーンのビジュアルは比較的マイルドな部類なので、グロいのが苦手という人もなんとか遊べるはず。

マーダーミステリー要素が色濃くでる本作の推理場面では、主人公とその事件の関係者全員が容疑者となり、話し合いを行って犯人を推理していく。推理は「調査フェーズ」からスタートし、容疑者たちがそれぞれ疑問に思っていることを聞きだしたり、疑問解決や推理に役立つ「手がかり」を会話の中で獲得していく。得た「手がかりは」自動的にゲーム内でメモされ、時系列に並んでいく。実際のマーダーミステリーを遊んだことがある人ならわかるだろうが、実際のマーダーミステリーをシンプルにして落とし込み、かつメモを取るという時間がとられがちな部分をゲーム側がすっきり行ってくれるという仕組みになっているのだ。
調査パートが終ると、容疑者全員で推理を披露しあう「全体議論フェーズ」へと移行する。推理フェーズでしっかりと推理を組み立てておけば、他の容疑者たちを樹の意見で納得させることができる。そして、ここで容疑者たちを納得させられれば、続く「投票フェーズ」で犯人への投票を集中させることができるという仕組みだ。ただし、全体議論フェーズまでの推理の組み立てに綻びがあると、投票が犯人に集中しないという事態に陥る。また、推理が正しい場合でも、調査フェーズなどで変化する他の容疑者の「信頼」というパラメーターが低いと、推理を素直に受け入れてもらえないこともある。「信頼」は、容疑者たちの疑問に的確に答えることで上昇することが多い。そして、容疑者たちが、自分が疑われていると感じるような会話を仕掛けると、「信頼」は低下してしまう。全体議論フェーズまでに、ある程度容疑者たちの信頼を獲得しておくのが攻略のコツとなる。

▲▲会話の中で情報を獲得すると、それが自動でメモとして記録される。ちなみに、推理パートには「残り時間」という要素があるが、これはリアルタイムで減っているわけではなく、選択肢を選ぶことで減少する。かなり残り時間には余裕があるので、焦らずプレイしてもOKだ。

▲得た情報はメモとしてコレクションされ、このアイコンを組み合わせて「推理」を行う。ボタン一つで時系列順にソートすることも可能。多くの事件では容疑者の「アリバイ」が重要になる。

推理パートで推理がスピーディに組み立てられるようになると、ゲームの面白さが一気に出てくる。パズルのピースが綺麗に組みあがったときの爽快感はこのゲームの強烈な独自性となっているので、スイカを抜け3章くらいまでまずは遊んでみてほしい。システムが独特なため、最初は戸惑うかもしれないが、難度はそれほど高くない。わからない場合は、いろいろな話を容疑者にぶつければ、新しいヒントが出てくることもあるので、ある程度総当たり的なプレイでも突破可能だ。章の節目節目くらいでセーブをとっておけばリトライもそれほど大変ではないだろう。

▲推理パートのキャラクターはかなりオーバーリアクション気味で、ちょっと笑ってしまうようなものも。筆者も最初はびっくりしたが、地道な推理を積み重ねる中での清涼剤的効果があることに気づいてしまった。

大胆な削ぎ落しによって光る独自性

このゲームの体験がリアルのマーダーミステリーそのものかというとそうではないが、マーダーミステリーの面白い要素の集合体なのは確かだ。「一人用ゲームとしてマーダーミステリー」を煮詰め、再構築するということをやっている。その目的のために、とにかく冗長に見えるものを削りまくっている雰囲気がある。尖ったシャープな部分、つまり「一人で遊ぶマーダーミステリー」の面白さをプレイヤーへと突き立てるために、いらないものを削って、削って、必要なものをしっかりと残した怪作なのだ。切れ味を上げるために削るというのは、アドベンチャーゲームでも行われる工程だが、この作品ほど大胆に削ってきているものはあまり見たことがない。特にシナリオ面の削り上げはかなりのもので、かなりコンパクトにまとまっている。シナリオのボリュームがあるゲームというゲームはそれだけで、シナリオ自体が心に響かなかったとしても、プレイしたという満足感をプレイヤーに与えることができる。長編小説を読み切ったあとの達成感のようなものだが、こうした保険をこのゲームは最初から捨てている。だからこそ、鋭く、面白い。

こう書くと、さっき熱弁していた「スイカ」は蛇足ではないのかと思う方もいるだろう。不思議なもので、最後まで遊ぶと、スイカの必要性がなんとなくわかってくる。マーダーミステリーというロールプレイを行うゲームで、ゲーム内の登場人物たちが本来の性格か演技なのか境目の見つけにくいロールプレイを見せる。このシーンがあったからこそ、登場人物たちを平等に疑い、最後まで楽しめたのかもしれない。そして、削りに削ったシナリオにも、しっかりと響く一撃は残っている。いろいろなアドベンチャーゲームを遊んできたが、とあるエンディングのワンシーンで結構な衝撃を受けた。タイムリープもののエンタメに慣れた方であれば、予想がつく展開も出てくるが、このエンディングに至る流れだけで感心させられてしまった。このゲームのもうひとつ見せたいことが浮かび上がってきたかのような感覚に襲われたのだ。ネタバレを伏せるため詳細は書かないが、このエンディングひとつで、「別に普通に感動させることもできるんですよ?」みたいな余裕すら感じさせてくる。すごい。プレイする皆さんは、ぜひ「すべてのエンディング」を見てほしい。

『マーダーミステリーパラドクス このひと夏の十五年』というタイトルを見て、「マダミス苦手だなあ」と思う方には是非遊んでみてほしい。それにしてもタイトルも挑戦的だ。タイトルに「マーダーミステリー」なんていれたら、僕みたいにこのジャンルが苦手な人は買い控えてしまうのではないだろうか。不器用か、戦略かはわからないが、この記事を読んで、興味が湧いたら是非遊んでみてください。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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