【奇跡のリマスター】強キャラを出禁にして遊ぶ『SNK VS. CAPCOM SVC CHAOS』がちょっと楽しい説

アメリカで行われた格闘ゲームの祭典では毎年、新作格闘ゲームが発表されるのが通例です。ただ、おれたちのSNKは狂っているので『SNK VS. CAPCOM SVC CHAOS』(以下『SVC』)のリマスター版を突如発表した。なんとオンライン対戦にも対応しロールバックネットコードにも対応しているという。リマスターするタイトルが斜め上すぎるだろ。

『SVC』はかつて発売されたSNKとカプコンのコラボによる夢のタッグ作品ですが、まあまあ独特な操作性と激しいキャラクター格差のあるゲームバランスが悪目立ちしており、当時あんまり対戦盛り上がってなかったよねと20年前のことを思い出します。このゲームの弱いキャラクターは、ただ弱いだけではなく、戦術の幅が超乏しいんですよね。立ち状態に当たる技やら成立するコンボがなさすぎて、どうやってダメージ与えるのか頭を抱えるような者さえいる。このゲームもしかして未完成のまま発売されたのでは……と思わしきキャラクターたちが跋扈するすげえ作品だったんです。

『SNK VS. CAPCOM SVC CHAOS』(リマスター版)



プラットフォーム : PlayStation®4 / Nintendo Switch / Steam / GOG

発売日 :
2024年7月21日: Steam (デジタル版) :
2024年7月22日:Nintendo Switch™、PlayStation®4、GOG.com (デジタル版)
※パッケージ版の発売日は未定です。

「格闘ゲームなんてバランス悪くて当たり前でしょ」みたいな澄ました顔をしたオタクををぶっ飛ばすくらいの迫力があるんですよこのゲームは。よく格闘ゲーム史上でも屈指の弱キャラとして『ミリオンアーサーアルカナブラッド』の初期バージョンスノーホワイトが挙げられたりするが、あれも「共通システムで強いサポート選べるからまだマシ」だとさえ思えます。疑う方は今すぐ本作を購入し、バイソンとかバルログを使ってください。

しかも今回のリマスターは、オリジナル版を忠実に再現することにこだわったのか、ゲームをクラッシュするような致命的なバグだけを対処し、ほぼ成分未調整で20年の時を超えてふたたびおれたちの元に帰ってきたものとなっている。これは奇跡です。

といきなり暴言気味にはじまる記事になってしまいましたが、実はおれは『SVC』にはまあまあコインを入れたほうなんです許して。SNKライクなグラフィックで描かれたCAPCOMキャラに興奮し、豪鬼を結構練習し、そのあと隠しキャラとしてゲーニッツが出てきたことに感動して対戦に取り組んでいたんです。隠しキャラのギースが破滅的な性能を持っており、ほとんどのデフォルトキャラクターの存在を許さず、ギースは寒いとか言いながらもう一人の壊れキャラである春麗で僕頑張ってますみたいな面してるやつもいたゲーセンでね。某プロゲーマーにロックマンゼロの永久を決められてニコニコされたこともありました。許せねえよ。

でも、ゲーセンでゲーニッツが使えるなんて!という一点でかなりのめりこんでいたんですよね。ちなみにゲーニッツはすごい弱いうえに、使える技がすげえ少なかったりするので、一人用で練習することがすぐなくなるという問題も抱えていたし、このゲームの流行というのもあっという間に終わってしまいましたが……。最後は勝てなさ過ぎて豪鬼も使っていました。

▲マジでこのキャラ弱いな……とか思いながらも、ゲーニッツが好きすぎるあまりそこそこ遊んだ思い出があります。

▲SVCを終わらせた漢・ギース。ほかにもぶっ壊れキャラはいるのですが、ギースは「簡単」なんですよね。

そんな思い出のある作品だから、その後発売された家庭用も買った。今回のリマスターも「誰得なんだよ……いや俺得なのかも」とか思いながら軽率に買ってしまったところ、これがちょっと想像以上に面白い。特に、当時触る気も起らなかった弱キャラを動かすのがちょっと楽しいのだ。

強いキャラは「出禁」にすることで
『SVC』の新たな扉が開く

以下は異常者たちによる『SVC』の遊び方なので、できることがたくさんあるキャラクターを使いたいというキャラは、ギースとか春麗とか豪鬼とか使っときましょう。これらのキャラはトレーニングモードも楽しいです。

当時『SVC』をまあまあ遊んだものの、コインを入れることを憚られたキャラクターたちがいる。投げキャラの象徴のような存在なのに、コマ投げがあまりにも減らないヒューゴー。立ち状態に狙えるコンボに乏しく、けん制技も空ぶりまくるバイソン。爪によるけん制を得意としてそうなのに、対戦でまるでそのけん制が機能しないバルログ。ソニックブームと同じ世界の飛び道具とは思えない硬直絶大な上下タイガーショットで2枠も必殺技が埋まっている帝王サガット。豪鬼がいたら存在する意味がイマイチわからないリュウ。なんであんたこの豪華な座組のゲームにいるんだという小ジャンプのないチョイ・ボンゲ。ちょっと触っただけでキャラの限界が垣間見え、練習することも乏しく、そのうえ弱いので「これで強キャラとやるのは無理というかお金の無駄」なみたいなことをマジで感じる。さすがにそれは暴言でしょと思う方はね、もう一度言いますがバルログとかバイソンを使ってみてください。

『SVC』では、いわゆるキャラランクをつけたときに、S、Aランクあたりのキャラとそれ以下のキャラの間に、分厚すぎる壁があります。ゲーセンでBランク以下のキャラを使うのは精神修行を超えた何かだと思います。

おれもかつて、こういうキャラクターたちをゲーセンで数プレイして「二度と使わんわ」と決意を固めたものですが、あれから20年。オンライン対戦でまともに動く『SVC』が出てきてしまった。これなら一度買ってしまえばどんなキャラクターも気兼ねなく使うことができる。ちなみに、Xbox版もオンライン対戦に対応していたけれど、これはいまのような快適なオンライン対戦には程遠く、「ギリオンラインでも動く」みたいなものだった。しかも初代Xboxユーザーって、かなりの希少種だったから、この機会を逃すわけにはいかない。

▲四天王は調整間に合わなかったんだろうなあ……というくらい死に技と弱い技が目立つ。こんな弱いタイガーショットなかなか見ないぞ。

友人を「SVC買ってサガット同キャラやろうぜ」と軽率に誘ったところ、「あれ?サガットとかいたっけ?」という驚愕の返事をもらった。そんな悲しいやりとりにもめげず、サガット同キャラ対戦を遊んでみたところ、いかそうめんのような、地味ながらやめられない良さがじんわりと染み出てきた。絶大な硬直を持つタイガーショット、あんまり頼りにならないタイガーアッパーカット、しゃがみに当たらないタイガーニー。足払いからの必殺技くらいしかまともなコンボのない地味さ。そんな帝王が唯一輝くタイガーレイド→エクシードの激減りコンボ。タイガーレイドをいつどうやってきめるのかは誰にもわからないが、夢をもつことは人生においてもゲームにおいても大事だ。

こんなにも武器が少なく、とれる戦術の幅にも疑問を感じ、すべての技が心もとない性能の弱キャラの同キャラ対戦は、ゲームセンターではまず起こりません。だが、無限に気兼ねなく遊べる家庭用『SVC』なら実現できる!最初のほうは飛び道具を打ち合う『スト2』みたいな戦いをしていたおれたちだったが、次第にジャンプ攻撃を連打するような、いわゆるそれやるならどんなキャラでもいいだろ感溢れる戦い方へ移行し、高めにジャンプ攻撃をガードされたらためらいなくタイガーアッパーカットをぶっぱなしたあたりで、サガットであるアイデンティティーは崩壊し、おれたちの興奮は最高潮へと達した。

ベガ、バルログ、バイソン、チョイ・ボンゲ、ダン、香澄。あの頃使わなかったキャラクターたちと存分に向き合う。なんという幸せ。バイソンとバルログは3試合くらいで引退したが、チョイ・ボンゲとベガは噛みしめるとギリギリ味が出るキャラクターのような気がしました。ちなみにこうした弱キャラの群れに、「久々にギース使ってみるか」とかいってギースを投入したところ、一試合で夢から醒めそうになってしまった。あの頃『SVC』を遊んでいた方は、是非当時の『SVC』仲間を誘い、選ぶのが憚られるキャラクターたちを軽率に選び、適当に技をぶっぱなしてほしい。なに?『SVC』をやったことがない?『SVC』仲間がいない?『スト6』やってる仲間を誘って、「サガット同キャラやってみようぜ」と誘いましょう。

▲実戦ではまず決まらなそうなコンボを練習するのがちょっと面白い。

「弱キャラ縛りで対戦しようぜ」とか誘っても空気読めないやつが強キャラを選び始めて冷めるみたいな状況を防止する神システムが備わっているのがこのリメイク版の最強に嬉しいポイント。なんとこのゲーム、プレイヤーマッチの部屋を立てる際に「使用禁止キャラ」を複数指定できるんです。つまり、ギースも春麗も豪鬼もマーズピープルもロックマンゼロもデミトリも暴走庵も暴走ケンもガイルも出禁にして遊べます。この出禁ルール、結構いいような気がするので、ほかのゲームのランク変動に関係のないプレイヤーマッチにも是非つけてほしい。現在のゴジライン公式ルールは以下の通り。半分以上出禁じゃ!

▲ゴジラインでの『SVC』使用可能キャラは以上。半分以上使えませんが、これ結構遊べます。テリー、リョウ、リュウ、アースクェイクあたりも出禁かもな……みたいな議論を重ねています。

意外とシンプルで遊びやすい
技のでにくさは「慣れ」ろ

懐古厨向けの話ばかりでもまずいので、このゲームのシステムと肝となる読み合いについて少し解説しておきましょう。このゲームは4ボタンで遊ぶシンプル寄りの格闘ゲームだ。操作性、特にタメ技は独特の入力が求められるので、謎の敷居があるが、まあ慣れればなんとかなります。
ヒットストップが若干短いので、長めのコンボは難しめだが、ほとんどのキャラクターはあまり長いコンボを必要としません。というか、その長いコンボを決める機会があまり訪れないので、そこそこ技が出ればまあまあ対戦は楽しめる。そしてもう一度書きますが、弱いキャラをあえて使うという破滅的な楽しみ方は玄人というか異常者向けなので、初プレイの方は動かして楽しいキャラクターを選びましょう。春麗、ギース、豪鬼、ロックマンゼロ、タバサ、ガイルあたりはかなり独特の戦術が取れて面白いです。ウルトラ強キャラですが……。

△ソニックブームの性能が限界突破しているガイル。ソニックブームとサマーソルトキックが自在に出せれば超強い。ソニックとサマーなんてカンタンでしょと思ったあなた、ぜひチャレンジしてみてください。

このゲームのバトルシステムで特徴的なのは「グランドステップ」という特殊な地上ステップ。グランドステップはガードキャンセルで繰り出すことが可能で、移動中は無敵を帯びており、そこから通常技や必殺技で反撃に転じられます。多くの地上技はグランドステップでリスクを負わせられるので、慣れてくると安心して出せる技が極端に減ってきて、一部のキャラクターの無敵技をグランドステップからぶっぱなすとガード不能になるという謎の神仕様があるため、なんでもいいから勝ちたい人は豪鬼とか春麗でガン待ちするのもおすすめ。弱キャラはこのシステムへの対策さえ難しいというすさまじい格差社会なので頑張りましょう。

△ガードからスーッと近づいてくるグランドステップ。格闘ゲームの防御システムの中でも、かなりイカれた性能を有している。同時に、凄まじいキャラ差を見せつけてくれるすげえシステムでもある。対策するのが極めて難しいシステムなので、キャラ差でなんとかしよう。

あとは公式的に、超必殺技を遥かに上回る大技「エクシード」も面白要素になっています。体力が半分を切っているときに使用できるエクシードは、1試合に1回だけ使える大ダメージを与えられる切り札的存在。このエクシードがコンボに組み込みやすかったりぶっぱなしやすいキャラクターは一試合に一度の逆転要素を楽しめるが、当身のキャラとか、なんか超リーチみじかい始動技を出すキャラクターとかが存在しているのが本作のお茶目なところ。そういうキャラはまあ……頑張って活かすよう戦術を考えよう。

▲超必殺技を超える大技「エクシード」。ぶっぱなすだけで強いキャラもいるが、まるで使えないキャラもいる。格差社会を象徴するシステムとなっています。

SNKが描いた夢のコラボ

SNKが描くカプコンキャラは、かなり渋く描写されていて、四天王なんかの立ち絵は雰囲気十分。デミトリとかもモンスター感あって本家とはまた違った迫力があります。リマスター版にはギャラリー機能も収録されているので、『SVC』のアートまわりの良さをじっくりと眺めることができるのも嬉しいところです。
アーケードモ―ドで見られる、キャラクターの同士のかけあいとかもこのゲームならでは。コラボ作品の一番の見どころといってもいいでしょう。キャラクターの解釈が微妙に独特で、サガットがやたら饒舌だったり、テリーが相手によって攻撃的だったり、解釈の違いなのかぎりぎりを攻めたのかわからないラインの会話が見られます。
あとは、サウンドにも良曲が多く、ボス戦の曲などはSNK作品の中でも屈指の名曲になっている。サントラはプレミアがついて高騰しているので、ゲームのついでに復刻を願います。SNKのIPリヴァンプの取り組みの中で、過去のプレミアついてるCD類をまずなんとか再販してほしい。東京ゲームショウとかで売ってよ!

▲デミトリめっっちゃ格好いいキャラですが、やられ判定に病を抱えておりキャラ限定永久コンボの的になりがちな存在でもあります。

▲やたら饒舌なサガットとか見ごたえあります。

友人を誘ってこのカオスを楽しもう

当時遊んだ方も、当時スルーした方も、オンライン対戦対応の『SVC』を遊んでみてはいかがでしょうか。たぶん当時を未プレイの方が遊ぶと衝撃を受けるんじゃないかな。最強クラスのキャラクターたちの暴力に酔いしれるのもよし、弱いキャラクターたちのあまりにも不遇な技構成を楽しむのも良し。SNKとカプコンのコラボによる歴史的な作品として本作のさまざまな要素を愛でるのも良いでしょう。トレーニングモードなのにキャラクターセレクト時間が設定されていたり、トレーニングモードの機能が今風じゃなかったり、まあまあ惜しいところはありますが、「オンラインで対戦できる『SVC』」という一点でこの作品は貴重です。

『CAPCOM VS. SNK』ほど人気は出なかったゲームですが、『CAPCOM VS. SNK』は初代とバージョンアップ版のPROを経て、いまだ神ゲーとされる2へとたどり着いたんですよね。なので、『SVC』もいまから2作ほど出せば、神ゲーへとたどり着く可能性があります。『餓狼伝説COW』のあとあたりに、『SVC2』が出ることを願ってやみません。

▲謎の判定表示機能も搭載され、あの頃クソ技と感じた技の答え合わせができる。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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