賞金がなくても、eスポーツじゃなくても、豪華な大会がなくても、ロールバックネットコードがなくても、二人のキャラの体力バーが画面上部に表示されていれば熱い戦いが楽しめる予感がする。それがおれたち格闘ゲーマーだろ?
ナカジマ:浅葉さん、『Fighting of Double Dragon 2023』やろうぜ。
浅葉:なにそれ。キングオブファイターズの新作か?
ナカジマ:タイトルに西暦ついてるだけでキングオブファイターズの仲間にするな。『ダウンタウン熱血物語SP』についてくるおまけソフトだよ。『ダブルドラゴン』とか『くにおくん』のキャラで対戦できるやつ。オンライン対戦もあるらしい。TGSでメディア対抗戦とかやってて面白そうだったよ。
浅葉:おまけソフトなのにTGSでメディア対抗戦。アークシステムワークスの本気を感じる。次の覇権ゲームはコレだな。みんなも乗り遅れたらかわいそうだから誘ってあげよう。
ナカジマ:勢いで人を巻き込むのはやめろ。
君は「Fighting of Double Dragon 2023」を知っているか。
このソフトは、1989年に発表されたシリーズ人気作「ダウンタウン熱血物語」のリブート作品である『ダウンタウン熱血物語SP』のおまけとして付属するものだ。SDキャラクターが画面狭しと暴れまわる”2D対戦格闘風ミニゲーム”であり、なんとオンライン対戦まで可能。発売元は格闘ゲーム制作に長けたアークシステムワークス。これは対戦するしかない。
『ダウンタウン熱血物語SP』
※Fighting of Double Dragon 2023はソフト内のおまけタイトルで、オンライン対戦が可能。
発売日:2023年10月12日(木)
パッケージ版:PS4/Nintendo Switch
ダウンロード版:PS4/Nintendo Switch/Steam
価格 3,740円(税込)
レーティング CERO B
ちなみに、この記事は対戦の後の興奮覚めやらぬ状態で猛スピードで書いているため、掲載後に「フラゲ野郎か?」と勘違いされるかもしれないので一応言及しておくと、なぜかこのゲームSteam版は10月11日、つまり発売日の一日前から配信&販売がスタートしていた。SteamページのPVでは12日発売となっているのに、おれたちの早く遊びたい気持ちにSteamが応えてくれたという自分勝手な解釈をし、11日夜から12日朝方まで遊んだ。
これはフラゲでもなければ案件でもなければズルでもない。おわかりいただけるだろうか?
超簡単な必殺技コマンド
ぶつかり合うハチャメチャ技
本作の操作は実にシンプル。最近格闘ゲームでは、小難しい必殺技コマンドを簡易化する試みに注目が集まっているが、本作にはいわゆる簡易コマンドしかない。
モダンがズルいとかクラシックはオタク野郎とか論争するまでもなく、簡易操作で思うがままに暴れまわる。それが『Fighting of Double Dragon 2023』なのだ。
ボタン同時押しとか、ジャンプ中に攻撃ボタンとか、さらには通常攻撃に必殺技が割り振られているキャラクターまでいるので安心してほしい。そして繰り出される必殺技のほとんどは破壊的な性能を持っており、着地硬直の極めて少ない飛び膝蹴りであったり、1回当たると3回くらい同じ技が繋がったりする。
ははん、アッパー調整ってやつね、とかそういうレベルで済まされない戦いがこのゲームには待ち受けている。
キャラクター数は16名(14名+隠しキャラクター2名)。格闘ゲームの初期キャラ数としては十分な数だろうとか適当なことを書いておく。おまけゲームということもあってキャラクターの技数は少なめだが、一人一人の動きや技が実に個性的。いわゆるコンパチキャラっぽいのが少ないのもアークシステムワークスのこだわりを感じる。
しかも驚くべきことに、オンライン対戦はひとたび始まってしまえばかなり快適で、友人との「プレイヤーマッチ」も気軽に行える。おまけゲームということもあって、ルームマッチの存在を疑い、一度対戦を終えるとマッチングが解除されても驚かねえぞと思っていた我々をお許しください。ちゃんとルームマッチがあり、連戦も快適。クロスプレイとロールバックネットコードには対応してないんですかぁ?とかいう方にはギルティギアをおすすめする。
おまけゲームにそんなものまであるわけないだろ!
浅葉:ディスプレイの設定をリフレッシュレートを60Hzにしないと動作が怪しいという時点でかなり不安視してたけど、60Hzなら操作性はいいな。
ナカジマ:ゲームの起動前にディスプレイのリフレッシュレートを確認する。これ大事な攻略だな。必殺技出しながら左右に動いてるだけで圧感じるキャラが多いのが気に入りました。
浅葉:ジミーめちゃくちゃかっけえ。
ナカジマ:あんたのジミー、膝蹴りと回転蹴りで画面往復してるだけだが……。
浅葉:何人かはこの戦術で倒した。
対空、さし合い、確定反撃
オタク要素はすべて置いてきた
3時間くらい、おれたちはアツくワンパターンな戦いに身を投じた。画面狭しと飛び交うクソ技の数々。毎試合新たな発見があり、毎試合キャラクターを変えたくなるような性能差や相性差を感じ、夜の1時を迎えた頃、おれたちは感想を語り合った。
ナカジマ:1分くらいで気づいたんだが、このゲーム、対空とかさし合いとか確定反撃とかいう概念が必要なさそうだな。強い技をぶつけあって、勝てる側が「有利キャラ」みたいなところがある。
浅葉:うむ、おれも1分くらいで気づいてしまった。技ぶつけあって負けるキャラは「不利」。技性能は裏切らない。
ナカジマ:ただ、SIMON(山田)だけはこのゲームを初めて遊ぶ人には是非体験してもらいたい。キャラクター操作の左右を反転させる技があるんだけど、操作が反転してる時間が相手にわからないようになってるから、凄まじいわからん殺し力を感じる。操作が反転する技、平成にめちゃくちゃ嫌われてもう出てこないと思ったら「ここ」にあったわ。せめて操作が反転してる時間を示すアイコンとかエフェクトとかあったら良かったのにな。
浅葉:なんのエフェクトもないから、最初ゲームがバグったのかと思ったわ。エフェクトは確かになー。でも、おまけゲームにそんなものを作る予算はないのかもしれん。
ナカジマ:でもSIMONもバレると近寄られ続けてきついから、”メインキャラ”にはなりえなかった。
浅葉:もうメインキャラ決まったの?
ナカジマ:はい。
浅葉:奇遇ですね。僕も決まりました。
ナカジマ&浅葉:SPEEDだろ。
この日の対戦会で”どりーさん”と呼ばれる友人が使い始めたSPEED(望月)は、3時間の戦いの末、「みんなのマイキャラクター」になっていた。
昔から望月好きだったんだよなー。望月、おれ向いてる気がする。キャラが強いとかじゃなくて、SPEEDは動かしてて楽しいから使ってるんだよね。望月といえば俺。お前性能だけでSPEED選ぶのやめろよ。
ありとあらゆる自己肯定と他者否定の言葉をぶつけあうほどに、おれたちはSPEEDに魅入られていた。
全てを切り裂くSPEEDのスクリュウ
SPEED(望月)。その名の通りスピードに長けたこのキャラクターの強みは、歩いているだけでほとんどのキャラクターが追いつけない機動力と、「スクリュウ」と呼ばれる必殺技にある。
ダッシュ中にジャンプといういとも簡単な操作で繰り出す「スクリュウ」は、空中をぐるぐると回転しつつ攻撃する技なのだが、一度発動したが最後、ほとんどの技をすりぬけつつ相手にヒットする。このゲームに無敵技の概念があるのか、それとも相殺のような仕組みが発生しているのかわからないが、「出すだけで無敵感を味わえる」スゲェ技となっている。
また、この技の終わり際がヒットしてしまうと、そのままもう一度スクリュウが連続ヒットするなどの大事故が発生する。技の終わり際は、スクリュウに対していろいろ対抗しようとする場合に天誅のように発生するのが実に赴き深い。無敵技で対抗しようとしたり、回避して着地を狙おうとしたり、空対空を狙おうとしたり。そうした努力はスクリュウの前では大抵無力だ。
迎撃不能、反撃不能。それがおれたちの辿り着いた結論であった。
浅葉:このゲーム凄いのが、「対戦では同じキャラを選べない」という神仕様があることで、SPEEDvsSPEEDが発生しないところだな。
ナカジマ:SPEEDを選びやすいのは1P側。もしこのゲームで一億かけた戦いがあるなら、試合前のじゃんけんが何よりも重要になる説がある。
そう、このゲームはなんと、同キャラを選べない。相手がSPEEDを選んだ場合、もう片方ののプレイヤーは、神の力”スクリュウ”に、人の力で打ち勝たなければならない。
そのゲームに”神”が現れし時、そのゲームの対戦寿命は失われる。近代格闘ゲームにおいて、相性が悪いとされる組み合わせで対戦を行ったとしても、実力が近いもの同士でやれば有利側の勝率が10割となることはまずない。ダイヤグラムという古来からのオタク文化でいえば、相性が悪くても7-3くらいに収まるものがほとんどだろう。しかし、本作において、SPEEDを選びしものに勝つのは困難、ていうか無理なんじゃねえのみたいな雰囲気が漂ってきている。終わりの芳香である。
夜中の2時。おれたちはアプリケーションを落とし。感想を語り合った。「おまけにしてはすげえゲームだよ」。「何より動かしていて面白い」。
「SPEEDさえいなければな……」
戦いの終わりを誰もが感じ始めたとき、一人の男の発言が空気を一変させた。
オワ田:そのゲーム、隠しキャラが最強ですよ。
浅葉&ナカジマ:は?
おれとナカジマから「オワちゃん」というあだ名で呼ばれたりする”オワ田”が、謎の発言を差し込んできたのだ。
確かにおれたちは隠しキャラを出現させていないが、スクリュウは無敵to無敵のようなもの、そんな技に対抗できるキャラや手段などあるのだろうか。ましてや、最強ですよと断言できるような強さなどが隠しキャラに与えられているというのだろうか。
ナカジマ:絶対SPEEDのが強い。
子供の喧嘩レベルの言い合いが始まった。浅葉とナカジマはもう40歳を過ぎているのにいつもこんな感じでどうしようもない。オワ田の年齢は忘れたが、この人もけっこう「おじさん」だったはず。
出してもいない隠しキャラをSPEEDより弱いと断じるナカジマ。おれたちと対戦をせずにキャラランクを語り始めるオワ田。しかし、オワ田もおれたちが格闘ゲームオタク、しかも「こういうゲーム」に特化していることを知っているはずなのに、どこからその自信は来るのだろうか。お互いを認め合っているからこそ、お互いのキャラランクが許せない。それが格闘ゲーマーってもんなのかもしれない。
オワ田:いや、そのゲームには「公式のキャラランク」があるんで。公式を疑うんですか?しかもアークシステムワークス謹製のキャラランクですよ。
眠気は吹き飛んでいた。アークシステムワークス公式のキャラランク。俄には信じがたい。メーカーが自らキャラランクを出すということは実に稀だし、発売日にキャラランクを出すなどということがあるだろうか。しかし、焦りで震えるタイピングで検索を繰り返した我々の前に、確かにそれは存在していた。しかも、見たことがないキャラクターが最上位にいる……。ROXY(長谷部)はしかもSSというランクではないか。どうやらこのキャラランク、東京ゲームショウのメディア対抗戦の際に出されたものらしい。
浅葉:東京ゲームショウのメディア対抗戦のときに、公式キャラランクが発表されていたのか……。
ナカジマ:いやいうてですよ。スクリュウはマジ無敵to無敵の技なので、対抗策があるとししたらスクリューくらいですよ。はっ……まさか。
浅葉:こいつらもスクリュウを持っている可能性がある。
オワ田:お気づきになられましたか。
深夜2時。おれたちの戦いの時計は再び時を刻み始めた。
ALEX、ROXY
そしてSPEEDの彼方へ
ALEX(くにお)とROXY(長谷部)は一人用モードをクリアーするだけですんなりと出現した。
こういうゲームの「キャラ解放」は、作品によってはとてつもない手間をとられるので警戒していたが、さすがはアークシステムワークスといったところだろう。
そして予想した通り、ALEXはスクリュウを持っている。
ROXYはスクリュウこそないものの、空中竜巻旋風脚みたいな技が一度あたると5回くらいつながって相手の体力が5割溶けている。
浅葉:ALEXとROXY、さすがに隠しキャラ。これ確かにワンチャンあるかもしれん。
ナカジマ:SPEEDちょっと火力負けしてそうだな……。いやでもなー、機動力あるからSPEEDいけるはず。
オワ田:SPEED最強っていってたのにあなたがた……。「いけるとか、いけない」とか。もう掌返しです?
ナカジマ:あ?じゃあ対戦して決めようぜ。SPEEDが負け越したらソフト代払うわ。メーカーの決めたキャラランクを、おれたちが破壊する。
対戦の結果について、個人の名誉にかかわるため、ここでは触れないことにする。真剣勝負の結果についてあれこれ語るのは無粋だ。
勝者も敗者も勇敢に戦った。
ただ、ひとつ言っておくとすると、格闘ゲームに慣れていない方は、火力だけが正義だと勘違いしやすく、隠しキャラやボスキャラが最強だと思いこみがちである。
皆さんも気をつけてもらいたい。
『Fighting of Double Dragon 2023』の夜が明けた。オンライン対戦に対応し、簡単操作で熱すぎる戦いが楽しめる、「おまけ」とは思えない贅沢なゲームだ。勝ちに徹して遊ぶと友達をなくすようなキャラクターもいるが、友達とわいわい和やかに遊べるゲームを探しているという方には、間違いなくおすすめできる1本である。
SPEEDに魅入られることなく、皆さまもぜひ様々なキャラクターを試してもらいたい。
昼食を終えた頃、「オワ田」が語りかけてきた。
「今日何時からいけます?」なにをするのか書かれていなくても、その一言だけで、おれたちは戦いの予感を感じ取る。
しかも続く言葉は、「答え見つけましたよ」である。
まだSPEEDに抗おうというのだろうか。
彼の見つけた答えが知りたくて、おれたちは今日も『Fighting of Double Dragon 2023』を起動する。
SPEEDを超える神キャラ、神戦術に心当たりのある方がいらっしゃいましたら、情報提供をお待ちしております。