【ゲームレビュー】君は『十三機兵防衛圏』の美しい光を見たか

あのゲーム良かったなあとふと思い出す作品には、印象的なシーンが映像として頭の中に残っていることが多いように感じる。シナリオが良かった、バトルが面白かった、そういった記憶で名作として覚えているものもあるんですが、やっぱりゲームの記憶として一番に浮かんでくるのは僕の場合シーンなんです。
『十三機兵防衛圏』を遊んでいると、このシーンをいつまでも覚えているだろうという不思議な自信が湧いてきます。しかも、それがひとつではなく複数ある。なんでこんなにもゲームの画面に心を揺さぶられるのだろうと思ってふと考えたら、魅力的な”光”に惹かれていることに気づかされました。教室の窓から差し込む穏やかな夕日、街を包む美しい光、残酷なまでに尖った赤さを見せる炎。本作の光の表現には、情念が篭っているようにすら感じられます。ある光はノスタルジーを、ある光は切なさを、ある光は微かな希望を。シーンごとに、光に特別な意味があるようにすら感じるんですね。

▲光の表現がとにかく繊細で美しい。こちらはバイクでバイバスを走るシーン。エモい。

全てが名シーンに見えるアドベンチャーパート

本作はアドベンチャーパートとバトルパートから構成されるゲームで、”ドラマチックアドベンチャー”というジャンル名が充てられています。アドベンチャーパートは美麗な2D風グラフィックで物語が描かれているのですが、これは『オーディンスフィア』、『ドラゴンズクラウン』といった素晴らしく趣のあるグラフィックを作り出したヴァニラウェアの持ち味を最大限に活かしたものになっています。横スクロールアクションゲームのように描きこまれた背景の中を、キャラクターを操作して移動し、人に話しかけたり、探索したりして物語を読み進んでいくのです。そして冒頭でも書いたように、このパートで描かれるシーンがあれもこれもエモい。

本作のタイトルにもある”十三”という数字は、ある時代に突然現れた謎の生命体たちとの戦いに身を投じる少年少女たちの人数と一致します。そしてアドベンチャーパートでは、この13人の少年少女たちを”主人公”として、さまざまな視点から物語を読み進めていくことになります。13人の少年少女は、同じ時代の人物ではなく”時代を超えてきた存在で”、ある者は科学技術の発達した未来から、ある者は現代に比べて物資と技術に乏しい戦時中のような時代からやってきたりしているので、プレイを開始してしばらくは物語の時系列もバラバラで、話の全貌が見えてきません。なぜ彼らは”機兵”と呼ばれる物に乗り込んで、人類を守るように戦っているのか。それすらもわからないままゲームは進んでいくのです。

▲こちらが主人公たちが操縦することになる機兵。乗るための適正などが存在するなど、ロボットアニメ的に欠かせない要素もしっかり用意されている。エモい。

それでもプレイする手が止められないのは、一つ一つのシーンに主人公たちのパーソナリティーを色濃く表現する会話や動作が詰め込まれていて、彼らが抱えるものが次々と明かされていくから。謎の生命体に脅かされ、未来があるかどうかわからない荒廃した世界の中で、人物間の友情や恋心、そして疑いや怒りなどが描かれていくんですね。いろいろな主人公の物語を見て話の全貌が見えてきた時、本作のシナリオが”時系列をバラバラに描く”という形式を取りながら、いかに整合性を保つために労力を費やしてきたかに驚かされます。なるほど、あの時のこのキャラクターのこの行動には、こういう理由があったのだとわかり始める頃、プレイヤー自身が物語の伏線を見つけているかのような爽快感があるんです。

▲13人の主人公から

▲アドベンチャーパートでは”クラウドシンク”という、主人公が得た情報を元に考えを深めることで物語中の行動や会話を判断するシステムが採用されています。

物語への没入感を削がないバトルパート

バトルパートはRTS(リアルタイムストラテジー)形式のタワーディフェンス。大量に襲いかかってくる謎の生命体を、機兵に載って迎撃していくというものですが、このパートの画面は実にシンプル。画面だけ見るとちょっと寂しい気もしますが、ここではアドベンチャーパートで見てきた”物語”がプレイを補完してくれます。アドベンチャーパートで触れてきた物語が濃厚なので、バトルパートではあのキャラクターたちが今まさに戦っているのだと感じつつ、プレイに臨むことができるんですね。

▲こちらがバトルパートの画面。機兵や敵の位置は”アイコン”状に小さく表示されます。アドベンチャーパートで得た情報を元に、プレイヤーは戦いの状況を妄想するわけです。

▲機兵が持つ武器や技による攻撃はとにかく派手で爽快。

バトルパートの難度はやや低め。機兵別にさまざまな攻撃が用意されており、それらを大型の敵や大群に撃ち込んでいくのですが、敵をなぎ倒していく爽快感は抜群です。ただ、ゲーム後半に登場する敵が序盤から中盤にかけて登場する敵の耐久値をあげたものだったりするので、バトルパート単独の戦略性や面白さが突き抜けているというわけではありません。しかし、これくらいが丁度いいと思わせてくれるのが本作のすごいところ。正直僕は、アドベンチャーパートとバトルパートを繰り返すタイプのゲームが仕組みとしてあまり得意ではありません。だいたいこの手のゲームって、バトルパートが絶望的につまらなくて、冗長だったりするからです。話を読みたいのに水増しみたいなバトルをプレイさせられて、それが地味に時間がかかって、物語への没入感が薄れてしまうということが多いんですね。いっそバトルなんて要らないと思う作品すらある中で、本作のバトルは本当に”丁度いい”ところに着地していると感じました。サクサク進むのでテンポが阻害されないのですね。きっとこのバトルがなければ、少年少女の戦っている感はもう少し薄れていただろうし、これよりバトルが濃いと物語の印象が薄れてしまう気がします。

崩壊編、追想編、究明編


序盤はチュートリアル的にアドベンチャーパートとバトルパートを繰り返してゲームが進行していきますが、そこを抜けると追想編(アドベンチャー)、崩壊編(バトル)、究明編(Tips閲覧)を自由に切り替えられるようになります。この仕組みのおかげで、ある程度物語を見たからバトルを遊んでみるといった風に、プレイヤーの好みでゲームのプレイ方針を変えられます。アンロックにバトルが必要な物語があるなど、完全にアドベンチャーパートだけ最後まで遊ぶということはできませんが、この思い切った仕組みのおかげで「バトルパートのプレイを強制されている感」がないのも本作の大きな特徴です。

▲ある程度ゲームを進めると、アドベンチャーとバトル、どちらを遊ぶか選択できるように。

こんなゲームが遊びたかった

プレイしていて”こんなゲームが遊びたかった”と何度も思わされた『十三機兵防衛圏』は、極めて総合力の高いゲームです。アドベンチャーゲームを横スクロールアクションゲームのようなフォーマットに落とし込み、その特性を最大限に活かす形で、読み物として多くの人に支持されるであろう少年少女のジュブナイル物語として仕上げている。本来横スクロールアクションのような画面って、アドベンチャーには不向きだと思うんですよ。まず、画面をみるとわかるように、テキストアドベンチャーのように文字をたくさん入れると画面の良さが消えてしまう。そうすると、状況や場所を描写するうえで、テキストアドベンチャー以上にたくさんの素材が必要になります。それに真正面から挑み、地の文さえ使わずに、キャラクターの思考と会話を中心にした構成でプレイヤーの心をつかむ。これは凄いことだと思います。
一つ一つのシーンだけ見ていけば、過去の名作を連想させるような展開や、オマージュのようなところもありますが、それを「時系列をバラバラにしたうえで、最終的にプレイヤーが一つの物語として受け止められるように再構築する」という離れ業を成し遂げることで「どこかで見た感」を希薄にしているのもユニークなところ。個人的に、この時系列がバラバラになっていることで、プレイヤー自身が「話を理解しなければならない」と意識するのも良かったのかなと思います。発表から発売まで随分と時間が空いて、突如発売日が告知されて「ホンマに大丈夫なんか」とか思ってすみませんでした。

▲台詞のテンポが良く、会話が洗練されているのも本作の美点のひとつ。テキストアドベンチャーとの差別化が、シナリオの時点で意識されていることが伺える。

正直なところ、人間ドラマとロボットものとしての魅力が素晴らしい形で表現された大傑作『高機動幻想ガンパレードマーチ』(以下『ガンパレ』)のようなゲームを求めて、本作を買ってみたという部分もありました。何かしらの秘密や痛みを抱えた人間が、葛藤しながら戦いの場に出るという形が重なったからです。実際にプレイしてみると、『ガンパレ』と重なる部分もあり、それが”遊びたかった”という感情を呼び起こすの鍵の一つになっているのは間違いないのですが、物語の内容は異なりますし、その物語を描く仕組みも別物です。2D横スクロールアクションの名手として知られるヴァニラウェアの集大成とも言える表現の中で、『ガンパレ』にも通じる普遍的なエンタメを描いた作品。それが本作なのかなと思うのです。本作を遊んだ人には是非『ガンパレ』を、『ガンパレ』ファンだったという人には是非本作を遊んでもらいたいです。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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