何度目かの『ひぐらしのなく頃に』をNintendo Switchで遊んでみました。話の流れや解答を知っているのに、なぜこんなにも夢中になってしまうのか!
本作の家庭用版は、プレイステーション2の時代から、家庭用版ならではの体験を盛り込みつつ、原作へのリスペクトを欠かさないというスタンスで作られてきています。その結果、作品に収録された膨大な物語が、ただのサスペンスやホラーという枠を超えて、プレイヤーの感情を様々に揺さぶる『ひぐらし』サーガとでもいうべきものに昇華されているからかもしれません。
発売日 :2018年7月26日
プラットフォーム:ニンテンドーSwitch
ジャンル :サスペンスアドベンチャーノベル
販売元 :エンターグラム
権利表記 :竜騎士07 / 07th Expansion ENTERGRAM
価格 :限定版:9,980円+税、通常版(パッケージ): 7,980円+税、ダウンロード版:6,980円+税
本作のために作られた新主題歌は『僕たちはもう知ってる』(Vo:松澤由美、作詞作曲:志倉千代丸)。この楽曲の歌詞は、そのタイトルの通り『ひぐらしのなく頃に』の物語のあるパートを描いたものでありつつ、『ひぐらしのなく頃に』の物語を知っているプレイヤーにも重なるものとなっています。そう、本作は、『ひぐらしのなく頃に』の物語を「もう知ってる人」にもしっかりと刺さるよう、丁寧に作られた作品なのです。
もちろん、まだ遊んだことがないという方も、本作一本で『ひぐらしのなく頃に』ワールドに浸れます。つまり、経験者にも、初プレイの方にも優しい一本なのです。今回の記事では、そんな贅沢な一本の魅力を、ネタバレ成分低めでご紹介したいと思います。
本作は、雛見沢村という寒村を舞台に起こる不可思議な出来事の連鎖と、それに関わる多数の人間を描き出した濃密なドラマです。公式サイトにも書かれている、本作のプロローグを読めば、その雰囲気をつかむことができるはず。
例年より暑さの訪れの早い今年の6月は、昼にはセミの、夕暮れにはひぐらしの合唱を楽しませてくれた。
ここは都会から遠く離れた山奥にある寒村、雛見沢村。
人口2千に満たないこの村で、それは毎年起こる。
ー雛見沢村連続怪死事件ー
毎年6月の決まった日に、1人が死に、1人が消える怪奇。
巨大ダム計画を巡る闘争から紡がれる死の連鎖。
隠蔽された怪事件、繰り返される惨劇。
陰謀か。偶然か。それともーー祟りか。
いるはずの人間が、いない。いないはずの人間が、いる。
昨夜出会った人間が、生きていない。そして今いる人間が、生きていない。
惨劇は不可避か。屈する他ないのか。
でも屈するな。
運命は、その手で切り開け。
本作には、物語をサスペンスたらしめる要素が多分に含まれています。現実なのか幻想なのか、正気なのか狂気なのか、生存しているのか死亡しているのか。どんでん返し、痛快な証明、状況の打破。物語を読み進めるにつれて、本作のサスペンスに引き込まれていくという人も多いはず。少しゾッとするような表現もあるので、万人向けではないかもしれませんが、それらはただの猟奇趣味ではなく、それらはこの物語をより強固にするためのスパイスなのです。ただ怖いだけの作品ではありません。ホラーやグロは苦手だからという人も、ちょっと我慢して物語を読み進めてほしい!そんな魅力が本作にはあるのです。
本作を遊んで、改めて驚かされるのは、テキストアドベンチャーの持つ表現の可能性です。本作ほど、グラフィック、文章、演出、音楽など「ゲーム」であることを活かし、あの手のこの手でプレイヤーを揺さぶってくる作品は、なかなかありません。
本作に収録されているシナリオの数は23本。そのひとつひとつが短いのではと想像する方がいるかもしれませんが、どのシナリオもずっしりとしたボリュームと、見所が盛り込まれており、総プレイ時間はおそらく、音声スキップをせずに遊べば300時間を超えるはず。そしてその膨大なプレイ時間の間、プレイヤーを退屈させない多彩な表現が次々と画面から繰り出されます。『ひぐらしのなく頃に』以降、”『ひぐらし』っぽい”と言える作品は増えましたが、未だ本作が素晴らしき一本であり続けるのは、こうした表現の妙に支えられているからかもしれません。
『ひぐらしのなく頃に』シリーズの集大成のような作品になっている本作では、既に過去のシリーズ作品をプレイしたことがある人に向けた配慮も充実しています。作中のネタをクイズ形式で回答していく、「真・オヤシロショック」は、物語の理解度や細部への注目度をテストするものとなっており、ファンには嬉しいお遊び要素となっています。ここでの正答率が高ければ、シナリオを次々に解放することができるので、未プレイのシナリオだけを遊びたいという方は、先にこちらを進めるのも良いでしょう。また、『雛見沢停留所』シナリオでは、コミカライズ版の作画を担当した「ともぞ」氏が、キャラクターデザインを担当するなど、今までのコンシューマー版とは違ったテイストで遊べるような配慮も施されています。
スキップ機能も快適で、次の場面まで一気にスキップする機能も用意されているので、本作を「おさらい」的にプレイする方はスムーズに物語を読み進めることができるはず。本作では、「鬼隠し編」が1周目に固定され、共通パートからの分岐という形で他の幾つかのシナリオに分岐するので、最初は少し戸惑うかもしれませんが、ヒント機能である「ルートナビ」をオンにすれば、それを追いかけるだけで目当てのシナリオにたどり着けるはず。
ニンテンドーSwitchとアドベンチャーゲームの相性は抜群です。テレビモードでは、アドベンチャーゲームとしては過剰に感じる1920×1080ピクセルの解像度でゲームを楽しむことができ、携帯モードでも十分美しいグラフィックで気軽に、時には寝転がって作品に没頭することが可能です。おれはこのゲームのほとんどをソファとベッドの上で、携帯モードを使って遊んだのですが、時間と疲れを忘れるほどには快適でした。文字の大きさも大きすぎず、めちゃくちゃ長いカケラ紡ぎ編まで気づけば一気に遊んでいました。
本作は『ひぐらしのなく頃に』の集大成と言える作品になっています。未プレイの方は、名作を贅沢に味わうことができ、既プレイの名作としての余韻を、また鮮明に感じることができるはず。移植を重ねてきたことで、かつてない快適さとボリュームの作品に仕上がっているので、これが1万円せずに買えてしまうのは、あまりにもお得だと思います。『ひぐらし』ってサスペンスでしょ、ホラーでしょ、ギャルゲーでしょ。こうしたジャンル分けを元に敬遠している人がいるとしたら、是非この機会に遊んでみてください。
細かい話をすると、シナリオの数だけではなく、既存の物語でも過去作との違いがあるため、どの時点の『ひぐらしのなく頃に』を遊んだかによって、受ける印象が微妙に異なってくるのですが、それもまたこのシリーズの楽しみ方の一つ。特に本作は、マクロな部分を見ていくと、今までとは決定的に違う部分があるので、そこは語り合えるポイントのひとつかなと思ったり。もちろん、本筋ともいえる、物語の内容に大きな違いはありません。むしろ、本作が一番多くの「可能性」を描いた作品となっています。