【MAAB特別企画.03】ゲームセンター好きが語る「今と昔」。『ミリオンアーサー アルカナブラッド』がアーケードにこだわった理由とは【琢磨尚文氏・石井ぜんじ氏対談】

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●アーケードにどのような作品を投入するべきか


——スクウェア・エニックスがアーケードの2D対戦格闘を出すと聞いた時は、かなり驚きました。石井さんはいかがでしたか?

石井氏:面白い動きだなと思いました。格闘ゲームとはいえ、なんか変化球なのかなと思っていたのですが、見てみると表現が2Dなんですね。まず、2D表現というところに驚きました。今の時代に、2Dで格闘ゲームを作るのってとにかく大変じゃないですか。見方によっては古く見えてしまうし、そうならないように美しく派手にしようとすると手間がかかる。ある意味、挑戦だなと。

琢磨氏:3Dにもいろいろな強みがあるのですが、『ミリオンアーサー』というIPの雰囲気を出すには、やはり2Dだろうと思っていたんです。そして2Dでやるなら、とにかく試合を観ているだけでも楽しいゲームにしたいと考えました。ゲームセンターではおそらくこの「試合を見る」ということが日常的にあるだろうと思っていたので。3Dでやると、着せ替えとかは楽しかったのかなと思いますけどね(笑)

石井氏:ゲームセンターにタイトルが置かれた時の存在感という視点は、とても大事でしょうね。僕はガチガチの格闘ゲーマーというわけではないんですが、ゲームセンターという空間で『アルカナブラッド』を見たとき、とても存在感のあるタイトルだと思いました。ぱっとみて、遊んでみたくなる表現が盛り込まれているんですよね。動きもほどよく素早いし、技も派手なので、キャラクターを動かしていて楽しい、勝てると楽しいという感覚を掻き立ててくれそうですよね。正直、新作が出たときに「これは厳しそうだな」とか思ったりするのですが、『アルカナブラッド』に関しては前向きな可能性を感じました。NESiCAxLiveという導入の敷居があまり高くないシステムに載っているというのも良いですね。遊べる場所が多い。

▲NESiCAxLiveは、いろいろなゲームを切り替えて遊ぶことができる。NESiCAというカードに、プレイヤーのプレイ履歴などを保存できるのも特徴。NESiCAxLive2では、店舗間のオンライン対戦を実現した。

——石井さんは、NESiCAxLiveの登場を見た時に、どのような感想を抱かれましたか?オンライン対戦に関しては先ほど話題に出ましたが、システムとしての使い勝手とか。

石井氏:個人的な感想になりますけど、良いシステムだと思いますね。長くゲーセンの流れを見ていると、対戦格闘ゲームもそうですけど、基板を入れてた汎用筐体がゲームがぜんぜん出てこなくなってきた時期に差し掛かって、これはヤバイなとは思っていたんです。アーケードゲームは、駅前商店街にあるような、小さな個人経営のゲームセンターっていうのが支えてきた部分も無視できないんですね。そういうところで稼働するのは汎用筐体で、どうしても基板で売ってるものなので、そういったお店の数が減ってくると、基板を売るというビジネス自体ができなくなってくる。そうなるとさらにそういう店がなくなって、基板もつくりにくくなる。結果として、一気に規模が縮小してしまうんですね。ぼくの書いてる本でも書いたんですけど、基板のゲームを売るって、実はプレイステーションみたいな家庭用ゲーム機のビジネスに近いものがあって、とにかくハードがいっぱいないとソフトが売れないじゃないですか。それと同じようにゲーセンの数がいっぱいないと基板が売れないんですよ。だからゲーセンの数を減らさない努力がもっと必要だった。でも数も減りすぎたし、家庭用も技術としては追いついてきたから、大手メーカーとしてはでかい筐体を売って稼ぐという方向になったんですね。

琢磨氏:導入してもらいやすいというのは、NESiCAxLiveの強みですね。お店の規模や状態によって、賛否あると思いますが、良いシステムであるという評価をいただくことも多いと聞きます。あまりに薄利すぎて、それほど大きくないお金をさらに分けて取り合うって話なので、お互いしんどいというのも聞きますが。

石井氏:どういう風に作り手とお金が安定するかとかいろいろ問題はあると思うんですけど、NESiCAって、考え方によっては汎用筐体みたいなものだとおもうんですよ。でかい筐体をバッと売っちゃいましたじゃなくて、ゲーセンにいつもあるじゃないですか。ゲーセンにいつもあるああいう台っていうのはやっぱ必要なんですよ。それに、ひとつのゲームが人気無くなったら撤去するしかないとなりにくいのも良いですね。NESiCAは内部的にいろんなタイトルをつっこめるのも魅力だと思います。

△石井氏の著作『ゲームセンタークロニクル』。

——ゲームセンターでの「見せ方」のようなものを意識して制作した部分はあるのでしょうか。

琢磨氏:僕は『アルブラ』以前に、格闘ゲーム制作に関わったことがないので、見せ方についてはチームアルカナの方々に教えてもらうことが多かったですね。僕自身は格闘ゲームというジャンルでは、ほとんどプレイヤーでしかなくて、今の時点ではクリエイターという立ち位置ではないなと考えています。でも、そのプレイヤーの視点や、『ミリオンアーサー』というIPを扱う側として、いろいろと質問や疑問を投げてみたりもしました。手触りとかの部分を伝えると、それをしっかり形にしてくれる製作陣に驚かされましたね。見せ方とかにも色々な技術があって、それを惜しむことなく投入してくれたんです。例えば、チームアルカナの方々は、画面を、プレイヤーが舞台を見てるみたいなイメージで作ってると言っていました。キャラクター同士を向き合わせるのではなく、ちょっとだけこちらを向いているように描きこむことで、そのゲームのキャラクターを魅力的に表現できるというんですね。こういう技術とか方法って、普通にプレイしてたら気づかないんですよね。

石井氏:ゲームの面白いって、いろいろな要素に支えられていますもんね。分析するときりがないくらい。昔、僕がライターを集めて格闘ゲームをつくったときも、絵的なセンスがある奴がいて、格闘ゲームとしては一見関係のなさそうなところでいろいろな指摘を入れてくれましたね。ライターのくせに上がってくるグラフィック担当任されてる会社から上がってくるもの見て、全部ダメだしして、最終的に向こうが怒って。それでそのライターは、こう描くんですとかって自分で描いて送ってたんですけど、今考えるととんでもない話です(笑)。

△キャラクターが少しだけ「プレイヤー」の方向を向いているように見えるシーンは、舞台感を意識した表現方法とのこと。そう言われてみると、確かに!

——石井さんは、ゲーメスト監修の格闘ゲームに関わられていますもんね。『速攻生徒会』、僕大好きでした。今でも、たまにみんなで集まって遊びますよ(笑)

石井氏:今の時代の作品とは比べられないですし、あれはアーケードでもないですけど、それでも当時、格闘ゲームプレイヤーの情熱みたいなものを汲み取ってか「面白い」という声も少しもらいましたね。僕は琢磨さんのような、プレイヤーの視点がわかる人が、ゲームをどんどん作って欲しいと思うんですよ。レビューなんかを書かせてもらうことも多いんですが、普通にゲームを遊んでいる人の感覚が入っていないようなものって、もったいないと思うんです。開発の納期や予算的に難しいものももちろんあるんですが、「ここをこうしていれば、絶対に良くなっていたのに」という小さいところを見逃さない視点というのは、これから大事になってくると思います。お客さんの目はとても肥えていますよ。

琢磨氏:実際プロデューサーがそのジャンルに詳しくなければいけないとかはないんですけど、できてもいいだろうというのはなんとなく思っていました。知らないより知ってるほうが判断したり、意見したりしやすいことも多いですから。でも、いざやるとジレンマみたいなものもたくさん味わいました。格闘ゲーマーとしての自分と、プロデューサーをやらなきゃいけない自分ってちょっと立ち位置が違うんですよ(笑)格闘ゲーマーとしての視点ではこっちが好みなんだけど、これは私情をいれてはならんなみたいなのがいっぱい出てきました(笑)

※8 『速攻生徒会』:セガサターン用ソフトとして発売された2D格闘ゲーム。ゲーメスト系列で連載された小川雅史氏の漫画作品『速攻生徒会』を原作とする作品で、スピーディで派手なバトルが特徴。現在の「コンボゲー」と呼ばれるジャンルの源流となるような技のつなぎが多数用意されており、コアな格闘ゲーマーからの評価も高い。(※石井氏がゲーム版『速攻生徒会』で担当したのは、ライターたちの意見のとりまとめ(開発メーカーと参加ライターとの間の取り持ち)のほか、基本システムの設計等にも関わったそう。当時の「担当キャラ」は2キャラクター。この他にも、守秘義務の関係でタイトルこそ出せないものの、複数タイトルの制作に関わっているとのこと。)

——本作のプレイフィールって、結構絶妙なところにいると思うんです。一見とても派手で難しそうだけど、やってみると格闘ゲームの基本操作の組み合わせで遊べるラインにいますよね。スピードも程よくて、コンボにも達成感がある。実はそこまで難しいことをやっていないのに、難しいことをやっているように見えるというのは、発明だと思うのですが、こうした塩梅は琢磨さんから提案したのでしょうか。

琢磨氏:製作陣の中に、「難しすぎず、簡単すぎず」という指針はありましたね。あまり難しくしすぎると、よく言われる敷居が上がってしまう、でも簡単にしすぎると手応えがないじゃないですか。だから、そうはならないようにしようと考えていました。どちらかというと、一見コンボゲーに見えるようにするのも、狙い通りですね。2D格闘ゲームって、すごくざっくりと分類するなら、どっしりとした地上戦を重視した「立ち回りゲー」か、いろんな始動からちょっと長めのコンボを決める「コンボゲー」に分かれると思うんですが、新規プレイヤーには「コンボゲー」の方が刺さるところもあるだろうと思ったんです。「立ち回りゲー」かつ「コンボゲー」どっちも取れればいいんですけど、ぱっと見のイメージでいくとどちらかにしか受け取られないだろうと思ったので、コンボゲー的な楽しさを強めに入れました。

石井氏:ゲーメストでの『速攻生徒会』の時の考え方に近くて驚きました。当時は2D格闘ゲームだと『ストリートファイター』と『ヴァンパイア』という作品がとにかく強烈で。その二つを見てみると、『ストリートファイター』はいわゆる立ち回りゲーで、かなり緻密な面白さの設計がいるうえに、そこが伝わりにくい可能性もあるなと考えました。『ヴァンパイア』は展開がスピーディでややマニアックですよね。ほんとうに広いターゲットから見たらやっぱり一部の人しかできないゲーム性が若干入っているんですが、視覚的に興味を引きやすい要素があるのかなと思って、『速攻生徒会』は展開がやや早くてマニアックな方向にちょっと降ったんです。見栄えの意味でも、そっちの方が良いかなという議論はありましたね。

△コンボゲーというと難しいイメージがあるが、本作の操作は慣れてしまえば簡単にこなせるものがほとんど。必殺技やサポート騎士の呼び出しなども、簡単なコマンドで発動することができるのだ。

——我々としては、攻略もとても楽しかったですよ。技の中に今までにあまり見ないような要素もたくさんありましたし、属性の概念もほどよいスパイスになりました。

琢磨氏:ありがとうございます。プレイしてくれている方からも、面白いと言っていただけますね。そういってくれる人のためにも、大会やイベントはやっていきたいですね。

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様々なジャンルのゲームを大人気なく遊びます。

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