2017年11月、スクウェア・エニックスは、アーケード用2D対戦格闘ゲーム『ミリオンアーサー アルカナブラッド』をリリースした。本作は、NESiCAxLive2(ネシカクロスライブツー)というシステムに載せて配信され、全国のゲームセンターをつないでの対戦機能を導入し、対戦環境を大幅に拡張した。
以前に、ゴジラインに掲載したインタビューにもあるように、『ミリオンアーサー』というスクウェア・エニックスを代表する大きなIPを対戦格闘ゲームというジャンルに持ち込んだのは、本作のキーマンであるスクウェア・エニックスの琢磨尚文プロデューサーの情熱によるところが大きい。
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今回の記事では、格闘ゲームを、ゲームセンターを愛してやまない琢磨氏と、アーケードゲーム分野で様々な活動を続ける石井ぜんじ氏をお招きして行った対談記事を公開する。世代こそ異なるが、その二人の根底に流れるゲーセンへの熱い想いには、重なるところも多い。
二人の「ゲーマー」のトークから、ゲームセンターや格闘ゲームに興味を持ってもらえれば幸いである。
琢磨尚文:『ミリオンアーサー アルカナブラッド』のプロデューサー。ゲームセンターに通い詰めていた時期もあるという、「ガチ」の格闘ゲーマーでもある。本作の新着情報は、琢磨氏のtwiitter(@montandesu)などでも続々公開中。
石井ぜんじ:元GAMEST編集長、ゲームライター。ゲーム制作の仕事にも関わる。ゲーセンの歴史を綴る『ゲームセンタークロニクル』2017年3月23日発売。『石井ぜんじを右に!』好評発売中。ゲーム関連ほか、SF、ミステリ、アニメなどエンタメ全般に興味あり。 聞き手:浅葉たいが
●ゲームセンターという「場」の魅力
——お二人は今回、初めてお会いになるんですよね。まず、簡単な自己紹介をお願いいたします。
琢磨氏:スクウェア・エニックスで『ミリオンアーサー アルカナブラッド』のプロデューサーをやらせてもらっている琢磨です。本作に関わる前は、『ミリオンアーサー』シリーズの企画や運営に携わっていました。
石井氏:石井です。ゲーメスト(※1)という雑誌の編集長をやっていました。今は、ライターとして文章を書いています。
※1 ゲーメスト:新声社から1986年〜1999年にかけて刊行されていたゲーム雑誌。アーケードゲームを中心にスポットを当てており、さまざまな企画や、当時としては珍しい最先端の攻略を掲載していた。数々の迷誤植も有名。
——今回は、ゲーセン好きの二人の話が聞かせていただこうと思い、座談会を企画させていただきました。石井さんのゲームセンター好きは筋金入りですよね。
石井氏:ゲームセンターにはずっと通っていますね(笑)今は『BORDER BREAK』を遊んでいます。稼働初期からやっているので、ずいぶん長くやっていますね。
琢磨氏:石井さんが『BORDER BREAK』(※2)とは意外でした。石井さんがゲームセンターに通い始めた頃というのは、いつ頃だったんですか?
石井氏:ゲームセンターに本格的に通い始めたのは、高校時代ですね。熱を注ぎ始めたのは『ゼビウス』(※3)です。中学生くらいの頃から、ゲームにはとても興味があって、遊んではいたんですけど、その時は根本的にお金がなかったから、デパートにあるゲームコーナーとかで遊ぶことが多かったです。そこに、今では骨董品のようなゲームがワンプレイ10円で置いていたんです(笑)『スペースインベーダー』(※4)が流行っていたのは僕は中学生くらいの頃なんですが、ちょっとやっては「これで100円か」という金銭感覚でした。当時のゲームセンターは、場所にもよるんでしょうが、小中学生にはややハードルが高い場所です。琢磨さんはいかがですか?
琢磨氏:僕は『GUILTY GEAR X』(※5)のアーケード版が流行っていた頃にゲームセンターに通い始めたんです。格闘ゲームを本格的にやり始めたのはこの頃ですね。スーパーファミコンで『ストリートファイターII』(※6)も遊んでいたんですが、「ゲーセンは危ない場所」というイメージがある時代だったので、なかなか通うというところまでいかなかったんですよ。
石井氏:先生や保護者からは「近づくな」と言われることが多い場所でしたよね。今もそうなのかもしれませんが、ずっとゲームセンターを見てきていると、最近はケンカなんかも見なくなりました(笑) 環境が良くなったというよりは、ただ人が減っただけなのかもしれませんけど。
琢磨氏:もともとゲーセンに滅茶滅茶朝から晩までいるような生活をしていたのが高校生くらいからはじまって、そのあと10年くらいはそんな生活を続けてたんですよ。その10年間って、ちょうどそのころアーケードゲーム人気が下降線になっている時代でもあるんですけど、まだ賑わっていた時代でもありました。人もいっぱいいたし、個人経営のゲーセンもいっぱいあったし、おばちゃんがカップ麺持ってきてくれるような店も残っていました。そこから少し時間が流れて、だんだんと「あのゲーセンなくなったらしいよ」、「まじか」というのが増えたような気がします。
石井氏:琢磨さんは、今となっては、「古き良き」と括られることの多いゲームセンターを体験していたんですね。
琢磨氏:ありがたいことに、ギリギリで体験させてもらいました。ゲームセンターのおもしろさとか、コミュニティとか、ゲーセンであった友達と仲良くなったりっていうのも経験はしてたんです。だから、アーケード向けのゲームを作りたいという願望はずっとありましたね。それも自分の好きな格闘ゲームをやってみたいと思っていたんです。でも現実として、人は減ってきているし、ゲームセンターによっては対戦が成立しにくいことも身をもって知っている。格闘ゲームを作るチャンスがきたら、オンラインに頼ることになるだろうというのも感じていましたね。
※3 『ゼビウス』:1983年にゲームセンターで稼働したナムコ(当時)発の縦スクロールのシューティングゲーム。当時、今までにないプレイフィールをもたらす作品として話題となり、人気を博した。その後、さまざまなプラットフォームに移植されている。
※4『スペースインベーダー』:1978年に稼働したタイトー発のアーケードゲーム。画面上部から攻撃してくる敵を、自機を左右に動かしながらショットで迎撃していく。長く、高得点を稼ぐために、さまざまな攻略やテクニックが編み出された。
※5 『GUILTY GEAR X』:2000年に稼働した2D格闘ゲーム。家庭用ゲームとして発売された『GUILTY GEAR』の続編に当たる作品で、美麗なグラフィックと独特の世界観や、スピーディで自由度の高いバトルが話題となった。当時の販売元はサミー、開発元はアークシステムワークス。
※6 『ストリートファイターII』:1991年に稼働したカプコン発の2D格闘ゲーム。コマンド入力によって発生する「必殺技」を使い分けた奥深い戦略性が話題となり、CPU戦、対戦ともに大ブームとなった。2D格闘ゲームというジャンルのベースとなるシステムやルールを多数採用しており、現在の格闘ゲームにもさまざまな影響を与えている。
——『ミリオンアーサー アルカナブラッド』(以下『アルカナブラッド』)はオンライン対戦に対応していますよね。「ゲームセンターでオンライン対戦をする」というのが格闘ゲームに来ると聞いた時、自分はあまりピンとこなかったんですよ。格闘ゲームのオンライン対戦は、家庭用ゲームで既に導入されている仕組みでしたから。ゲームセンターの醍醐味である「大型筐体で遊ぶカードゲーム」のオンラインと違って、そこにゲーセンならではのものってあるのだろうかと思ったんです。開発するにあたり、そういう懸念はありませんでしたか?
琢磨氏:まさにそういう心配はありました。コミュニティというのはゲームセンターの魅力の一つですから。でも、幸いに我々は、『鉄拳7』という素晴らしい例を先に見ることができたんです。『鉄拳7』はオンライン対戦を積んだアーケードゲームですが、稼働後には好意的なユーザーの声を多く見かけました。場所が離れていても対戦できる喜びや、意外と家では格闘ゲームをやらないプレイヤーがいるんだなということもわかったんです。家でガチャガチャとアーケードスティックで操作するのは当たり前じゃないんですよね。オンライン対戦は、ある意味ではコミュニティを広げるきっかけになっているのかなと考え始めたんです。アクセスしているゲームセンターとプレイヤーネームが見える状態で対戦して、SNSなんかで交流ができるというのは、ゲームセンターのオンライン対戦ならではかなと。ゲームセンターのプレイヤーが使っているNESiCAみたいな履歴保存システムって、家庭用のタグ以上に、情報が載っているんですよ。
石井氏:どこのゲームセンターから遊んでいるというのが情報として表示されるのは大きいでしょうね。プレイヤーネームと合わせれば、「どんなプレイヤー」なのかというのが想像できたりもするし、SNSで見つけられたりもしますから。僕は実は、格闘ゲームにも早くオンライン対戦を入れて欲しいというのを、だいぶ前から思っていたんですよ。思っていても何にもなりませんけど(笑)オンライン対戦が入ってきて、「そこにいないプレイヤー」と対戦するようになっても、そこにゲームセンターの魅力の何割かはきっと残るんです。と、実現までの技術的な苦労などを考えずにコメントしてしまいますが(笑)
——実際にゲームセンターでのオンライン対戦を体験してみると、どこかゲーセンの看板をちょっとだけ背負ってるような感覚になるんです。「東京のゲーセンかよ!負けたくない」みたいな(笑)相手も、ゲームセンターという空間にわざわざ来て、筐体にコインを入れていると思うと燃えますよね(笑)ゲーセンで対戦した後に、twitterにメッセージやリプライをくれた人がいたんですよ。カードネームとSNSの名前がほぼ同じなので、たどってきてくれたんだと思います。「対戦ありがとうございました」というようなメッセージをもらって、なんかそこにかつてのゲーセンの楽しさのようなものを感じたんですね。自分と同じように、ゲーセンという空間に足を運んで、コインを入れてプレイしている人が相手だと考えると、なんだか興奮します(笑)
石井氏:いい話じゃないですか。最近の僕はわりと孤独に『ボーダーブレイク』をしているので、オンラインの便利さや手軽さを実感することのほうが多いですね(笑)
——なるほど(笑)石井さんの感覚がドライで驚きました(笑)ゲームセンターのコミュニティから離れているという実感があるのでしょうか。
石井氏:長い付き合いの友人はゲームセンターで出会った人も多いですし、昔はゲーセンにいくうちに自然と友達ができたりしていたんですけど、最近はコミュニティに属したい!と自分が強く願ってないのかもしれませんね(笑)昔、マイコンゲームマガジンという雑誌でハイスコアコーナーがあって、そこがゲーマーの一つの目標になっていました。今で言うと対戦格闘ゲームの大会で一位になるという同じようなノリです。そこを目指すには、いろいろな攻略情報を仕入れていかなきゃいけないんで、人づてに話を聞くということをしていたんです。僕なんかは都心から離れたところに住んでるので、東京のゲームセンターまで見に行ったりして。それが知らないうちに、友達のネットワークになっていったという実体験がありますね。熱中している仲間同志が、ゲームのことを話したいから自然と集まってきたというような印象です。出会いの場所というよりは、出会うべくして出会うみたいな(笑)
琢磨氏:それはすごくよくわかります。どうやって知り合ったかとかって、あまり覚えていないんですよ。なんか自然と話してた(笑)格闘ゲームだけの話かもしれませんけど、ゲームセンターに来てる人で、同じゲームを何度か対戦した人って、それを目的にきてるのがお互いにわかるから、話しやすいのかもしれませんね。
——昔ほどゲーセンで新しく出会って、仲良くなることは減ったけど、「おっ、あいつ今日もいるな」みたいなのはまだよくありますね。
石井氏:オンラインのゲームが入ってきたとしても、ゲームセンターという場があるのなら、コミュニティが壊れるということはそうそうないと思うんです。それによって遊びやすくなる効果の方が大きいと思います。その場には、ゲーム好きが集まっていると言うだけで心強いところありますよ。お互いに趣味とか考え方がぜんぜん違うのに、気をつかいながら生きたりもしますけど、そうじゃない空間があってもいいなと(笑)
琢磨氏:クラスメイトと趣味が合うとは限らないですもんね、ゲーセンって必ず趣味が合うはずなんですよね。
石井氏:よく家庭用の技術がアーケードに追いついたってよく言われるじゃないですか、でもやっぱり楽しいのって「場」にも宿ってると思うんですよね。ゲームが面白い、友達がそこにいるというだけではないような気がしますね。
琢磨氏:SNSなんかも便利だなと思います。一度会った人と、コミュニケーションがとれるじゃないですか。僕の学生時代は、携帯電話で連絡を取り合うこともなかったですから、遠征しても一期一会で終わることが多かったんですよ。
goziline
様々なジャンルのゲームを大人気なく遊びます。
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