【本読み】『電脳格技メフィストワルツ』で格闘ゲーマーあるあるを楽しむ【光速は、俺らには遅すぎる】

負けたらラグのせい、勝ったらプレイヤー性能のおかげ、という過酷な戦いに身を投じている浅葉です。
以下に紹介するコマを、SNSなどで見かけた方も多いはず。

△SNSでこのコマが流れてきたのを見て一目惚れ。筋肉×ゲーセンのコラボレーションに震えろ。

場所はゲーセンのようです、アーケード筐体に筋肉質の男たちが群がっています。そこでなんか一際ムキムキの兄ちゃんが「光速は 俺らには遅すぎる」とか言っています。科学的な裏付けがとか考える前に、格闘ゲーマーの筆者はこのコマを見た瞬間、この漫画の「わかっている」っぷりを察してしまいました。
そんなわけで買ったのがコチラ。

『電脳格技メフィストワルツ』


おかゆさん (著),‎ 杉井 光 (原著)
1巻発売中(集英社グランドジャンプにて連載中)
集英社

△現在、第一巻が発売中。

本作のジャケットを見るまでは、先の筋肉ムキムキの兄ちゃんが主人公と思っていたのですが、どうやら違うようです。怒るとTシャツが破けて、筋肉ムキムキの状態でゲームをプレイするのではとか妄想していたのですが。
「光速は 俺らには遅すぎる」のコマの前には、このセリフにつながる説明部分があります。このムキムキの兄ちゃん「桜庭」がローカル対戦にこだわる理由は彼は「ネットだとラグがある」。このムキムキの兄ちゃんは、完全におれらよりのオタクとなっていて親近感が湧きます。
その他にも、俺たち格闘ゲーマーにしかわからないような、フレームの話なんかも出はじめて、完全に信頼感MAXです。

△「ラグ」に敏感な格闘ゲーマーの感覚を、見事に描写しています。

物語は、天才ピアニストとして将来を嘱望されていた主人公のフランが、左手の薬指と小指の自由をなくすところから始まります。回復の兆しはなく、全てを失ってしまった彼は、動画サイトで「自分がキャラクターとして戦っている格闘ゲーム」の動画を発見し、格闘ゲーマーとしての一歩を踏み出します。
(ウルトラどうでもいい話ですが、実は私、浅葉もピアノの方を、「モテツール」だと確信してやっていた時期があるのです。そして、ピアノの鍵盤の押し方と格闘ゲームのボタンの叩き方は、なんか似ているところがあると思っています。ボタンのメンテナンスなんてものがあまりにも適当だった地元・徳島のゲームセンターでは、ピアノの経験を活かし、「ボタンが効かない可能性を考慮して、同じボタンを2回素早く叩く」という技術が磨かれました。『ザ・キング・オブ・ファイターズ98』のタクマ・サカザキの、弱を刻みまくって龍虎乱舞に繋ぐコンボは、ピアニスト的運指が役立ちます。ただし、龍虎乱舞が「見切ったわ」に化けるとキレそうになります。)

△主人公の「森宮フランソワ」(通称フラン)くん

ここからの彼の活躍は痛快そのもの。メキメキと実力をつけていく様を見ると、格闘ゲームはそんな簡単なものじゃないというツッコミを入れてしまいそうにもなるのですが、本作はそれをわかったうえでエンタテインメントとして作り上げているのが面白いところ。先のフレームの会話や、初心者に何を教えるかという議論などは、おれたち格闘ゲーマーが何度も繰り返してきたものです。物語の細部に、格闘ゲーマーが「わかっている」と感じる設定や「あるある」話が散りばめられていることで、なんだか安心して読めてしまうんですね。格闘ゲーマーの方であれば、天才肌の主人公ではなく、対峙するプレイヤーたちに自分を重ねることもあるかもしれません。
ちなみに、現在グランドジャンプで連載されている最新話では「主人公の異常な成長」にも少々スポットが当てられています。「格闘ゲームファンタジーだ」と思っている読者の気持ちを代弁するような感情も描写されており、それをどう着地させるかも楽しみですね。

△主人公を迎えるゲーマーたちは、まさしくおれたちでもあります。初心者に何から教えるかという議論は、格闘ゲーマーなら経験したこともあるはず。ゴジラインでは、「とりあえず出しとけば強い技」あたりから教えるかもしれません。

△格闘ゲーマーはフレームにはうるさいですが、待ち合わせ時間にはルーズ。あるある設定も拾われています。

本作で主人公たちがプレイすることになるゲーム『アンリミテッド・アーツ3』は、作中だけの架空のゲームですが、このゲームは「プレイヤーの顔をスキャンして遊ぶ」という機能が備わっています。少し前に、当サイトでも盛り上がった『リアリティーファイター』的な要素に近く、この部分にも親近感がありました。
現実世界の浅葉vsナカジマはとても醜いものでしたが、漫画の表現の場では、プレイヤーとキャラクターの一体感を強調することに成功しており、作品のわかりやすさを底上げしています。プレイヤーの操作するキャラクターには、その人の魂が乗るのです。
格闘ゲームにおいても、e-sports化の話が盛り上がる今こそ、『リアリティファイター』の続編を出すときが来たのではないでしょうか。

【関連記事】【いつもの】唯一無二の格闘ゲーム『リアリティーファイター』 

△アサバとナカジマの泥試合が楽しめたプレイステーションVita『リアリティファイター』。

主人公と、幼馴染のヒロイン・水城彩音という、現実にそんな関係は成立しねえと力強く宣言したい要素も、物語の大きな見所です。
1巻では、ちょっとしたサプライズ展開もあり、なるほどそうくるかというところに二人の関係が着地します。

△ヒロインの水城彩音chan(左)。俺はゲーセン20年以上通ってますが、いまだ彩音chanを見たことがありません。おかしいな。

本作の作画担当の「おかゆさん」先生の女性描写も、『DOAX3』などのe(ro)-sportsを全面的に支持する我々としてはめちゃ推ししておきたいポイントです。本作は健全な漫画ですが、何気ない日常シーンにエロスを感じられるのはとても良いですね。

ゲーセン文化を扱った作品というと、ノスタルジーな方向で感情を揺さぶってくるものが多いのですが、本作は現在のゲーマーの感覚もうまく取り入れたハイブリッドなものに感じます。90年代のゲームセンターに強い思いれがある自分が読むと、とても大胆で、新鮮なものに感じるシーンもあれば、変わらずに残っているものも汲み取れて、ちょっと幸せな気分になります。
一巻の時点では、格闘ゲームの面白さやコミュニティといった部分に焦点が当てられており、これから先の広がりも楽しみです。格闘ゲーマーには、話のネタにもぜひとも読んでもらいたい一冊。今度からおれも、都内で遅刻した時は、キリッとした態度で「山手線は俺らには遅すぎる」と言い訳したいと思います。

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浅葉 たいが

浅葉 たいが

ゴジライン代表。ゲーム、アニメグッズのコレクター。格闘ゲーム、アドベンチャーゲーム、RPGをこよなく愛する。年間100本以上のゲームを自腹で買い、遊ぶ社壊人。ゲームメディア等で記事を書くこともあるが、その正体はインテリアデザイナー、家具屋。バンダイナムコエンターテインメント信者かつ、トライエース至上主義者。スマートフォン版『ストリートファイター4』日本チャンプという胡散臭い経歴を持つ。

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