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【本読み】脳波でゲームを動かす時代になっても、格ゲーの熱さは変わらない『バトルメサイア』

   

僕はファミコンが発売される以前から、ゲームセンターでずっとゲームを遊んできた。その過程で、ビデオゲームが絡むものは何でもチェックしてきたものである。その昔、ゲームを題材にしたコンテンツ(小説やコミックなど)は、一部の例外を除いてほとんど存在しなかった。しかし最近は、web小説を中心にゲーム(またはゲーム的な異世界)を扱ったものが非常に多くなってきた。

時代はつくづく変わったなと思う。しかしweb小説では多いものの、コミックでゲームを扱ったものは、まだまだ少ない。その中でこの『バトルメサイア』は、バリバリのゲームを題材にしたコミック作品だ。しかも対戦格闘ゲーム、いわゆる格ゲーのプレイヤーに焦点を当てたものである。

『バトルメサイア』

△自身も格闘ゲームプレイヤーであるという吉原基貴氏の描く”格ゲー”の世界は、ゲーマーを揺さぶるリアルに満ちている。原作者は『アルカナハート』などを手がけたさくらいとおる氏。”格闘ゲームもの”として、最強のタッグと言っても過言ではないだろう。

原作:さくらいとおる
漫画:吉原基貴
ファミ通クリアコミックス(KADOKAWA)
コミッククリアにて連載中

このコミックで描かれるのは、ある意味90年代以降の格闘ゲーマーが、夢に描いたような世界だ。学校には格ゲー部が存在し、格闘ゲームが強ければ、進学や就職などにも有利。しかも格ゲーのプロになれば、国が生活まで保障してくれるというのだからたまらない。もちろんゲーセンに行けば、野良でいくらでも対戦相手が見つかるという素晴らしい環境だ。昨今はオンライン対戦でないとあまり相手が見つからないからなぁ……。90年代は田舎の駅前商店街のゲーセンでも、対戦相手は容易に見つかったというのに。

△作中で描かれる未来の”ゲーセン”は、驚くような進化を遂げているが、その賑わいは1990年代のアーケードゲーマーが体験した熱狂に通じるものがある。

つい脱線したので話を戻そう。本作の主人公は天使アサヒという学生である。このいろいろ訳アリな感じの彼が、格闘ゲーム『バトルメサイア』で戦い、活躍するといった内容である。ただ、格闘ゲームといっても、新時代の格ゲーはひと味違う。なんと脳波でキャラクターを操作するのである。そのデバイスはヘッドギアのような形状をした“インテリジェンス・デヴァイス”(通称ID)である。脳波で操作するなんて、なんてカッコイイ(または厨二)。これが本当の次世代機ってヤツである。「でも実際には、そんなことできるわけがないよね」と思うかもしれない。しかし意外にそうでもないのである。現実の世界でも、脳波でロボットをコントロールするといったような研究は日夜進んでいる。ただの夢物語のように思えるが、結構ありそうな未来なのかもしれない。

主人公は対戦格闘ゲームにおいて優れた資質を持っているわけだが、だからといっていつも勝てるわけではない。格ゲーから長い間離れていたらしく、新バージョンの「バトルメサイア」に対応するのは簡単ではなかった。脳波で操作するのに慣れておらず、アケコン(アーケードコントローラー)という旧時代の遺物を持ち出してくる始末である。

△格闘ゲームの熱い攻防が、躍動感ある絵で描かれている。

アケコンに対しての思い入れは、世代によってだいぶ違うのではないだろうか。この作品からは、アケコンに対しての愛着みたいなものが感じられる。ゲーセンで育った世代としては、ゲームの操作はジョイスティックとボタンが基本である。ゲーセンの格闘ゲームがすぐに家庭用ゲーム機に移植されるようになってからは、自宅で練習する人も増えた。アーケードスティックを購入し、故障するまで使い込んだ人もいるのではないだろうか。

いっぽう家庭用ゲームで育った人だと、家庭用コントローラーでも必殺技コマンドが余裕で出せたりする。デバイスへの愛着は、ゲームの世代や時代を象徴的に表すものだといえるだろう。

本作の格闘ゲームで使われるデバイスは、前述したIDである。脳波を検知して操作するデバイスであり、まさに格ゲー新時代。そんな夢の最新ゲームを、学校やゲーセンで思う存分遊ぶことができるのである。このようにゲームのデバイスは近未来的だが、ゲーセンの様子は現実とあまり変わらないのが面白い。対戦で戦うと、「ゲーセンは初級者も上級者も対等」とか「10年早いんだよ!!」とか煽ってくるあたり、いかにもゲーセンらしくて楽しい。なんだかんだいって、昔から未来まで、ゲーセンでは弱肉強食の摂理が働いているんだな、と感じさせられる。これは格ゲー世代なら共感してもらえるのではないかと思う。

またゲーム内での攻防の描写は、格闘ゲーマーにとっては理解しやすく、なかなか熱いものがある。一瞬の技の選択や、フレーム単位の攻防。いかにも格ゲーらしい展開が、じっくり描きこまれた絵で表現されているのが良い。近未来の夢のようなゲーム環境と、時代を経ても変わらない対戦格闘ゲームの本質。本作では目新しさと、プレイヤーには馴染み深い部分の、両方の要素がうまく配合されている。そのバランスの妙が、本作の魅力となっているように思う。
今後の展開で気になるのは、これからどんなプレイヤー、対戦相手が主人公に絡んでくるか、というところだ。対戦格闘ゲームはコミュニケーションが取りやすいツールなので、個人的にはそのあたりが楽しみだったりする。

△2017年現在のプロゲーミングシーンを踏まえた舞台設定も、ゲーマーに刺さるはず。

対戦格闘ゲームはもともとゲームセンターで対戦するように作られたものであり、そこにはさまざまなプレイヤーが集まってくる。ゲーセンに来るプレイヤーの年齢、家庭環境はそれぞれ違うし、いろいろな性格の人がいる。選ぶキャラクターや、好みの戦闘スタイルも違うだろう。異なる個性がぶつかり合うとき、そこにはドラマが生まれる。未知の相手に対して、主人公たちがどのように立ち向かっていくのか。登場人物が増えるにつれ、キャラクターやストーリー面での、本質的な面白さはいっそう増していくことだろう。この文章を書いている時点で単行本の1巻が刊行されているが、物語はまだまだ始まったばかりである。主人公がどのような歩みで高みを目指していくのか、その前に何が立ちはだかるのか、興味は尽きない。格ゲー好きのみなさんは、ぜひその行く先を見届けて欲しいと思う。

※文中の画像は『バトルメサイア』より引用。

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石井 ぜんじ

石井 ぜんじ

元GAMEST編集長、ゲームライター。ゲーム制作の仕事にも関わる。ゲーセンの歴史を綴る『ゲームセンタークロニクル』2017年3月23日発売予定。『石井ぜんじを右に!』好評発売中。『セガ・アーケードヒストリー』『シュタインズ・ゲート公式資料集』などで執筆。ゲーム関連ほか、SF、ミステリ、アニメなどエンタメ全般に興味あり。

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