むらまさを求めてダンジョンに潜り続けている。
つい出来心で最初からプレイし直している『ウィザードリィ外伝II ~古代皇帝の呪い~』の話である。
1992年にゲームボーイ用ソフトとして発売された、この和製『ウィザードリィ』は、ダンジョンRPGというジャンルの中でも、屈指の名作であると記憶の中に刻まれている。それから20年以上が過ぎ、ずいぶんたくさんのダンジョンRPGを遊んできて、これならウィザードリィ外伝の方が面白かったということが何度もあった。いつも思い出す最高のダンジョンRPGは、ウィザードリィ的な言葉でいうのなら、「いしのなかにいる」ように、僕の中で強固に守られ、取り出すことのできないものだった。
そんな思い入れのある作品を、ようやくやり直してみようと思ったのがつい先日のこと。きっかけは、ふと立ち寄ったゲームショップで、外伝シリーズのロムを見つけたからだ。自分が昔遊んでいたもののデータを消すのが偲びないという気持ちもあって、再プレイになかなか踏み切れなかったのだが、ソフトを手に入れたのなら、気兼ねなくデータを作成することができる。昔面白いと思った作品を、今の自分が遊んで、果たして面白いと感じるのか。そんなチクリと刺さりそうな不安はあったものの、外伝の中でとびきり時間をかけて遊んだ「2」に手をつけることにした。
僕が本作を愛してやまない理由は、ひたすら戦い、アイテムを集めるところのバランスが絶妙なことに尽きる。ボスを倒しても、ストーリーを一通り終えても、レアなアイテムを求めてダンジョンを彷徨い歩く。宝箱から出てきた「?」のマークがついたアイテムを鑑定し、レアアイテムだと判明した時の喜びはひとしおだ。中でも、心を惹かれてやまないのは「むらまさ」という最強ランクの武器。『ウィザードリィ』から派生した『ウィザードリィ外伝』シリーズでは、この武器ほど手に入れた時に痺れるものはない。日本人だからか、侍というクラスにはいろいろな妄想も膨らむ。せいなるよろいやエクスカリバーもドロップするとたまらなく嬉しい。作中に登場するアイテムをコンプリートすると「てんせいのしょ」というシステムで、次回作にキャラクターデータを引き継げるというやりこみ要素を達成するためにダンジョンを潜っているつもりが、コンプリートしても、2キャラクター目、3キャラクター目の装備が欲しくなって終わりのない旅を続けていたことを思い出す。
再び遊びはじめて数分が経過した時点で、本作の圧倒的な完成度に驚かされる。多くを語りすぎないものの、そこからいろいろな方向へと想像が膨らむシナリオに関わるテキストは鋭利そのもの。初代『ウィザードリィ』では線のみで描かれていたダンジョンも、この頃になると質感を表現するようになり、臨場感を増している。16×16マスの中に描かれるマップは、数字だけで聞くとこじんまりとしているように感じるが、一歩一歩が冒険に満ちている。今のゲームと比べると、ちょっと物足りない、などとは思わない。これで十分なのだ。プレイヤー自身が名前をつけたパーティメンバーたちの姿は、ゲーム上では確認することができないが、皆それぞれにその姿を想像したことだろう。始めてのプレイから20年以上が経過して、当時考えていたパーティがどんなだったかはほとんど忘れてしまったから、今回の旅は新しく名前を考えてつけた。頭の中に、なんとなくその姿を思い浮かべながら。一番心配していたテンポの部分も、今でも十分通用するレベルで安定している。ゲームが一段落するクリアーまでに戦う戦闘回数はそれほど多くならないので、程よい緊張感を持ちながらコマンドを選ぶことができる。このゲームに、最近のダンジョンRPGでよく採用されている、一度歩いた場所まで自動で移動してくれるオートパイロットや、オートバトル、高速化などが入れば、完全無欠のゲームになるような気がする。
リメイクとなると、いろいろな事情で叶わないのだろうことは想像に難くない。この外伝シリーズの1、2、3は、今でもGB版でしか遊ぶことができない。ただ、実はこの外伝シリーズ、ガラケー全盛の時代に『ウィザードリィ』というタイトルを外し、『ネザードメイン』名前で、中身はほぼそのままのものがリリースされているので、こちらなら、一縷の望みはあるのかもしれない。『ウィザードリィ』であるからこそ面白い部分もたくさんあるが、それを除いても、素晴らしい作品であることは間違いないのだから、ぜひ一人でも多くのゲーマーに遊んでみてもらいたい。
あらかたこの文章を書き終えてから、少しだけ、とプレイを進めていたら、驚くべきことが起きた。
宝箱から出たであろう未鑑定アイテムを調べたところ、むらまさが不意に出現したのだ。
これだから、ウィザードリィはやめられない。