【インタビュー】25周年を越えて30周年も見えてきた。『メモリーズオフ』のいままでとこれから

1999年9月に発売された『メモリーズオフ』は、以後、作品を積み重ねながら四半世紀を走り続け、2024年に25周年を迎えた。

ゲームの歴史も長くなり、発売から10周年、20周年を迎えるタイトルも増えてきた。しかし、『メモオフ』の場合は発売から今に至るまで、歩みを止めず、常に新作やリマスター版を世に送り出してきている。
それも、恋愛アドベンチャーというジャンル1本で、しかもそのほとんどが「学園モノ」的な要素を含んでいるのだから驚きだ。

ナンバリングタイトルは2026年現在で9作を数え、そのほとんどにファンディスクが用意され、スピンオフ作品も多彩。
そのうえ時代の節目ごとに、その時々のプラットフォームへの移植が行われてきた点も見逃せない。そして今、初代のリメイク『メモオフみっくす』の移植という、新たなプロジェクトすら動き出している。

▲『メモリーズオフ ヒストリア』上巻・下巻にはシリーズ7作品が収録されている。リマスターによってグラフィックがより美しくなり、UIも一新されているため遊びやすい。

▲『メモオフ』は過去作の人気も根強く、イベントなどの機会に過去作のグッズが発売されることも多い。本インタビューでは、シリーズの歩みを振り返る。

この力強い歩みはどのように生まれ、続いてきたのか。
今回は、初代からシリーズを支え続けてきたプロデューサーの柴田太郎氏、キャラクターデザイン・作画監督担当の松尾ゆきひろ氏、全作品の楽曲を手がけるサウンドの阿保剛氏、そして『それから』『#5』を経て『双想』で18年ぶりにシリーズへ帰還したシナリオライターの林直孝氏の4名に『メモリーズオフ』の歩みを、たっぷりと語ってもらった。

▲左からシナリオライターの林直孝氏、プロデューサーの柴田太郎氏、サウンドの阿保剛氏。右上のイラストは松尾ゆきひろ氏。

Interviewee
柴田太郎 氏:『メモリーズオフ』シリーズプロデューサー。1999年発売の第一作からシリーズの制作に携わる。企画、ディレクションなども手掛ける。

林直孝 氏:シナリオライター。『メモリーズオフ ~それから~』、最新作『メモリーズオフ 双想 ~Not always true~』などを手掛ける。『メモオフ』以外の代表作は『STEINS;GATE』など。

阿保剛 氏:作曲家。MAGES.作品のサウンドを数多く手掛ける。『メモリーズオフ』シリーズは一作目から制作に参加している。

松尾ゆきひろ 氏:キャラクターデザイナー、原画家。シリーズには一作目から参加し、『メモリーズオフ 〜それから〜』、『メモリーズオフ6 〜T-wave〜』等でキャラクターデザインを担当。他にも科学ADVシリーズ等、多数の作品を手掛ける。

四半世紀を振り返る
本当に長いですね

――2025年に『メモリーズオフ 双想 ~Not always true~』がシリーズ25周年記念作品として発売され、シリーズは27年目を迎えています。皆さんは長く『メモオフ』を作り続けてこられましたが、今どのような心境でしょうか。

柴田:単純に、年を取ったなと思いますね(笑)。わたしは『メモリーズオフ』の1作目から関わっているんですが、本当に長いですね。

阿保:5周年、10周年、15周年と節目はありましたけど、だいたい毎回同じような感想です(笑)。あっという間に時が過ぎていくなあ……という。

柴田:最初の10周年くらいだと「もうこんなに経ったんだ」と思うんですよ。それが15年、20年、25年となると、時間の進みがどんどん早くなっていって「あれ、この間20周年じゃなかったっけ?」という感覚ですね。ゲーム業界も歴史が長くなってきて、「今年25周年です」というタイトルも増えてきましたが、「25年前に出てそれっきり」というタイトルも多いですよね。『メモオフ』は断続的にではあれ、コンテンツとして継続させてきていますので、ここまでよくやってきたなと思う部分もあります。

:僕はずっと関わっていたわけではなくて。一番最初は『2nd』のドラマCD関連の仕事でした。ゲームとして関わるようになったのは『メモオフみっくす』からですね。それでも長いですねえ。もともと僕自身はKIDの人間じゃないんですよ。当初はフリーでやっていて、5pb.には僕のほうが先に入って、後からKIDの皆さんが合流したという形です。

▲『メモオフ』25周年記念のロゴ。この9月で27周年を迎える。

――10周年を迎えた際、「次は20年を目指すぞ」といった思いはあったのでしょうか。

柴田:10周年のときですら、全然なかったですね。当時のゲーム業界では、10年後を考えてものを作るという感覚は、たぶん誰にもなかったんじゃないかと思います。

松尾:最初の5年、10年は「作品がこれだけみんなに憶えられているってすごいな」と思っていたんですけど、20年を超えてくると「これは一生付きまとうな」と(笑)。それだけシリーズが続いて、まだ現役で動いているというのは珍しいことだと思うので、そこは嬉しいところですね。

初代『メモリーズオフ』の誕生

――『メモリーズオフ』の1作目は、どのように生まれたのでしょうか。

柴田:きっかけは、初代から長い間制作の中心を務めてくれた、市川(和弘)さんです。当時、KIDはPCの美少女ゲームのコンシューマー移植に力を入れていて、『きゃんきゃんバニー プルミエール』などの移植がすごく売れたんですね。

松尾:美少女ゲームの移植がとても会社に貢献してくれたということで、「じゃあやっぱりオリジナルIPを持とうよ」という流れがあったんだと思います。

柴田:『メモオフ』が立ち上がったのは『ONE ~輝く季節へ~』(PlayStation移植版タイトル『輝く季節へ』)の移植作業中でしたね。僕が『メモオフ』に合流したのはこのプロジェクトが終わってからですけど。

※市川和弘氏:『メモリーズオフ』を立ち上げたプロデューサー。KID時代からMAGES.まで、さまざまな作品のプロデュースを手掛けた。

『メモリーズオフ』(1999.9.30)




記念すべきシリーズ一作目。主人公・三上智也は澄空学園に通う高校2年生。一見、お調子者に見える智也だが、「事故で恋人を亡くした」という大きなトラウマを抱えている。ヒロインたちとの出会いを通じて、智也の周囲は徐々に賑やかになっていくが、恋愛と紐づいたトラウマが彼を葛藤させる。ドラマティックなシナリオと、個性的なキャラクターたちが好評を博した。

その後のシリーズに継承されていく要素も多く登場するため、シリーズを遊んだあとにプレイしても楽しめる作品となっている。

――松尾さんが『メモオフ』に関わるようになったきっかけをお聞かせください。

松尾:1作目の原画から関わっています。『Piaキャロットへようこそ!!』の移植でオリジナルキャラクターを作らせてもらったのが、たぶん自分にとってゲームのキャラクターデザインの一番最初なんです。その流れで『メモオフ』に原画で関わり、『2nd』でサブキャラクターを作らせてもらい……という積み重ねの先に、シリーズのキャラクターデザインを任せてもらうようになりました。本当に、自分のゲームキャリアの大きなマイルストーンになっている作品ですね。

――阿保さんも『メモオフ』以外に多彩な音楽を手がけていらっしゃいますよね。『メモオフ』には、どのような経緯で参加されたのでしょうか。

阿保:僕もいろいろな移植などに関わらせてもらっていました。KIDではPCエンジンへの移植版『デッド・オブ・ザ・ブレイン』や『超光速グランドール』などの曲を作りましたね。初代PlayStationの時代になって、キャラクターゲームや『きゃんきゃんバニー』シリーズ、『ONE ~輝く季節へ~』の移植に関わったのが『メモオフ』につながるきっかけです。オリジナルのギャルゲーをやるぞとなったときに、曲を任せてもらえました。

――今でいう新規IPの立ち上げ、しかもギャルゲーを作るとなると、かなり大変そうです。社内にシナリオを書ける方がいたのでしょうか。

柴田:当時のKIDは「やりたい人間がやる」という感じの部分があって。実は、メインシナリオの打越(鋼太郎)さんも、もともとシナリオ専門だった人ではないんです。企画の人間なんですよ。あとは、シナリオは外注会社さんと組むのが主流の時代でもありましたから、やってやれないことはないだろうという雰囲気だったんじゃないでしょうか。

――1作目は、当時の王道のギャルゲーとは異なる切り口でしたね。当時流行りのギャルゲーを遊んでいた人でも、驚いたという方は多そうです。

松尾:なにしろ、当時のKIDは王道を知らない(笑)。だから自由にやれたという部分もあるでしょうね。

柴田:オリジナルの第一作としては、かなり攻めた作りになりましたね。ただ、「泣きゲー」的な要素は、当時の『ONE ~輝く季節へ~』や『To Heart』あたりの影響をすごく受けています。そこに、キャラクター同士の絡みでコメディらしさが入ってきたことで、当時のコンシューマーのギャルゲーとはちょっと違う雰囲気にはなっていたと思います。

松尾:ギャルゲーといっても、当時は恋愛シミュレーションのほうが多かったんですよ。物語というより、システムで遊ぶような。そこに「ビジュアルノベル」というものが出てきていて、そちらに寄せて作っていった感じですね。

柴田:当時のKIDでも、育成やパラメーター管理のあるタイプのゲームが主流で。『ポケットラブ』なんかはまさにそうですね。そこから、ノベルゲームというものがPCの美少女ゲームで出てきて、ユーザーさんに広く知られるようになってきている時代を感じて『メモオフ』に取り組みました。ちょうどいいタイミングで『メモオフ』という企画と作品が出たんじゃないかなと思います。

――初代は、主人公が彼女を亡くしているという、かなり重い状況から始まりますよね。

柴田:あれは最初からコンセプトにあったと思います。ただ、彩花がシナリオ中にどう出てくるかはいくつか案を考えました。最初は彩花のエピソードを物語の冒頭か中盤にごそっと入れようとしていたんです。それをやめて分割し、智也の夢のような形でいろんなところに散りばめることにしました。そのおかげで、彩花が生きているのかいないのかよくわからない状況でゲームが進んでいく形にできたんです。ここまで効果的になるとは思いませんでしたけど。ヒロインの悲しい境遇や、主人公のマイナス面を抱えた境遇というのは、やはり『ONE』に大きな影響を受けているんじゃないかと思いますね。

▲王道を知らないからこそできたという一作目の『メモオフ』。バラエティ豊かなシナリオが詰め込まれているので、是非一度遊んでみてほしい。

――絵やサウンドの面で、オリジナルのギャルゲーならではの苦労や面白さはありましたか?

松尾:それまでの移植作業は、極端に言えば(コンシューマー向けに)裸に下着を描き足すような仕事が多かったんですよ(笑)。でも、オリジナルとなると、一から全部絵を起こさなきゃいけません。しかも原画をやって塗りをやって、という担当人員や部署ができていたわけでもないので、絵が描ける人間はみんな絵に取りかかる、というスタイルで始めていました。試行錯誤がとてもあった時代ですね。キャラクターの立ち絵に関しても、移植させてもらったタイトルを参考にしつつ作っていたんですけど、サイズの基準すらないんですよ(笑)。自分たちは当時アナログ原画だったので、アナログのサイズとデジタルに取り込んだ後のサイズがどう対応するのか、そこも模索で。なかなか大変だったと思います。

柴田:みんながみんな、割と模索しながら、「できることからやってみよう」という感じでしたね。

▲初代『メモリーズオフ』のキャラクターたちも、いまだ根強い人気がある。双海 詩音は公式のシリーズ人気投票で1位になったことも。

――サウンド面ではいかがでしょうか。

阿保:それまでの移植では「他人の曲を限られたメモリに収める」作業をしていたのが、自分で曲も作れるし、メモリもいっぱい使っていいということで、すごく嬉しかったですね。自由に作らせていただきました。ゲームの曲作りは、いきなり曲を作るんじゃなくて、まずその作品で使う音色を1ヶ月くらいかけて作るんですよ。音を全部取り込んで、ループさせて、プログラムして、メモリに固めて。そこまでやってから曲を作る。その工程の自由度が高かったので、『メモオフ』は作りやすかったです。

――絵や曲は、シナリオがすべて揃った状態から制作していくのでしょうか。

阿保:ほぼ全部ありましたね。全部読んでから作ります。当時はあらすじに近い形のテキストで、半日くらいで読めるボリュームでした。今は分量が増えて、1週間くらいないと読み切れませんけど(笑)。

松尾:絵もそうですね。自分もシナリオは読んで取り組むようにしていますが、昔の『メモオフ』に比べて、今のゲームは本当に物量が多いですね。あらすじだけ書かれたものでも、かなりの分量があります。

柴田:しかし当時のスケジュールを改めて考えてみると、すごいスピードで作っていたんだなと驚きますね。

▲『メモオフ』1作目では主人公の級友として登場した稲穂信。ユーザー人気も高く、物語を動かす力のあるキャラクターということで、以降の作品でも続投が決定したという。今や、シリーズを代表するキャラクターの一人となった。

――今、もう一度初代のようなものを作ろうと思ったら、当時のスピード感は再現できそうでしょうか?(笑)

柴田:無理というより、同じ時間では「作らない」と思います。作れないというよりは、作っちゃいけないような感じすらある(笑)。吟味の時間がないんですよ。作り進めるしかないみたいな感じでした。当時のスケジュールを思い出すと、9月発売なのに、5月くらいに音声収録をしていたんですよ。発売4ヶ月前に収録って、マスターアップを考えるとギリギリすぎますよね。でも当時はスケジュールの感覚がわかっていなかったんでしょう。初代は、発売年である99年の頭くらいから作業を始めて、8月くらいまでに一気に作ったから、トータルで1年かかっていないと思います。おそろしい(笑)。今考えると、なんであのスピードでできたんだろうと。

松尾:前例が少ないから、勢いでできたんですよね。比較対象もないから。

柴田:それは確かにそうですね。「このクオリティを守らなきゃいけない」「この分量がなきゃいけない」という基準がなかった。1作目に関しては、その時にやれるところまでやろうぜ、というイメージだったと思います。

▲初代『メモオフ』から制作に携わる柴田プロデューサー。

『2nd』と「メモオフらしさ」の確立

――『2nd』はクオリティもボリュームも圧巻でした。明らかに力の入った作品という印象でしたが、やはり初代の人気があったからでしょうか。

柴田:そういうことだと思います。初代が売れて、雑誌でも扱いが大きくなって。「これは次、頑張らないとね」という感じで。『2nd』の企画自体はかなり早く決まったんですが、発売は2年後になりましたね。その間に初代のドリームキャスト版や『infinity』など、別の作業もやっていたというのも影響しています。

――同じチームで制作されていたのでしょうか。

柴田:そうです。だから発売まで少し時間は空きましたけど、『2nd』にたっぷり時間を使ったという自覚はないんですよ(笑)。

松尾:グラフィックは10人いなかったんじゃないかな。それで複数のタイトルを回してた(笑)。

柴田:わたしは『メモオフ』関係を続けてやっていて、ファーストが終わったら次はネオジオポケット版の『メモリーズオフPure』。その後にドリームキャスト版を作っていました。ドリームキャスト版は「ディレクターズカット」という名前にしたかったんですけど、「カット」は縁起が良くないと言われて『Complete』という名前になりました。映画好きとしては「ディレクターズカット=DC」って付けたかったんですけどね(笑)。

『メモリーズオフ 2nd』(2001.9.27)



シリーズの人気を決定付けた2作目。主人公「伊波健」は、同級生の「白河ほたる」と交際している。しかし、順風満帆そうに見えた二人の恋愛は、すれ違いから思わぬ方向へと向かい始める。「恋人がいるのに、ほかの人を好きになってしまう」というある意味恋愛アドベンチャーのタブーに切り込んだ作品。ほたるとの関係を修復するのも、他のヒロインに心変わりするのもプレイヤーの選択に委ねられている。『メモオフ』シリーズの人気を確立した意欲作となり、その後のシリーズ作品でも“原点回帰”を考える際には、この作品が軸になっているという。

――『2nd』は、最初からあの完成形が見えていたのでしょうか。ボリュームもすごいですよね。

柴田:最初はそうでもなかったんです。もちろん1作目よりボリュームは大きくなるよね、とは思っていましたけど。ただ、大きな読み間違いがあって、立ち絵のボリュームが増えすぎたのは誤算でした。ユーザーさんがシナリオを投稿して遊べる「シナリオダウンロード機能」を入れようという案が出て、そのために本編で使わなそうな立ち絵も全部用意したんです。ほぼ真横を向いたような差分とか、服装バリエーションもすごく多くて。それで物量がとんでもないことになった。それでも制作期間は実質1年かかっていませんから、当時はどういう働き方をしていたんでしょう(笑)。10ヶ月とかだと思います。

松尾:他の作品も含めてノウハウが溜まってきていたので、絵に関してはスピードと物量を上げられるようなシステムに少しずつ変わっていったんですよね。

▲PlayStation版『メモリーズオフ 2nd』のオプション画面。アドベンチャーゲームを多数制作したノウハウが発揮されている。

――林さんは『2nd』をプレイされたとき、どのような印象を持たれましたか。

:当時の僕はギャルゲーについて何も知らなくて「女の子が可愛い」が第一のものばかりだと思っていたんですけど、『2nd』はそうじゃないというか。ドラマ重視で、ドロドロしてるな、と(笑)。「これがメモオフなんだ」というのはありましたね。

――髪の色なども現実寄りで、ゲーム作品としては控えめな印象があります。当時は、だからこそ目立ったという面もありそうですが、いかがでしょうか。

柴田:そうですね。ゲームでありながら、ちょっとリアリティを加えようとしていたんだと思います。ちなみに、今『2nd』のデータを見るとわかるんですけど、『2nd』のキャラクターは髪の色、肌の色を濃く塗っているんですよ。

松尾:同じささきむつみさんのデザインなんですけど、ファーストと『2nd』で結構印象が変わっていて。ディレクターに「本当にこれでいいのか確認を取ってほしい」とお願いしたりしました。

柴田:結果的に、雰囲気の変わった塗りが夏の作品としての「夏らしさ」を出す一助になっているかなと思っていて。『メモオフ』はいろいろな季節をやってきましたけど、『2nd』が一番季節感が出ていると今でも思うんですよね。絵作りの影の濃さだったり、セミや波のSEだったり。何気ないところで夏の昼や夜の感覚が出ている。あれを他のタイトルでもやりたいんですけど、なかなか出ないんです。

▲PlayStation版及びDreamcast版『メモリーズオフ 2nd』の限定版には、メイキングの模様を収録したディスクも付属した。イラストの仕上げまでを見られる貴重な映像となっている。

――『2nd』は、現在の多くのユーザーが感じる「メモオフらしさ」の源泉になっていると思います。シナリオの修羅場や、稲穂信の続投などです。

柴田:1作目には当然「らしさ」みたいな要素を考えることはありませんでした。よくあるギャルゲーのちょっと悲しいバージョンという感じでした。『2nd』は一番最初から、市川のほうから「修羅場」というお題があって。最初に付き合うことになるほたるという彼女がいて。別の女の子と付き合うようになるときには、ほたると別れる修羅場が絶対に必要だ、と。『メモオフ』が「修羅場系」と言われるのは『2nd』からですよね。それを受けて「次からも修羅場が必要だよね」となったんですけど、『2nd』と同じような修羅場は作れない。同じシチュエーションになっちゃうので(笑)。

――稲穂信の続投は、物語ありきのことだったのでしょうか。

柴田:稲穂信というキャラクターを続けて出したいと決めたのが先ですね。そして、信が出る以上は、声優は当然、間島淳司さんであると決めました。楽しく便利なキャラクターなんですよ。1作目の時に、稲穂信というキャラクターが本編でも小説でもドラマCDでも「面白いキャラだね、こいつ」と評価されまして。市川もノッていたのか、「信、今度インドに行くんだよ」みたいな感じの設定を語ってくれましたね(笑)。

松尾:市川さんの中では、1と2が同じシリーズ・同じ世界観であることを示すためのキーのひとつ、くらいにしか最初は考えていなかったと思います。友達キャラが続投したら同じシリーズだとわかりやすいよね、というスタートで、あんまり深くは考えていないと思う(笑)。でも、毎回楽しく使えるキャラだから、人気も高まっていって、いまや『メモオフ』といえば信と言われたりする大きな一要素ですよね。

――『メモオフ』は舞台が湘南・鎌倉方面というのも、この時期に確立された要素ですよね

柴田:実はファーストのときは、湘南・鎌倉という舞台をそこまで強く意識していなかったんです。「湘南っぽくて鎌倉っぽいところがいいよね。海もあるし山も近いから、いいロケーションになるじゃん」くらいで。

松尾:裏話としては、当時、打越くんがあの辺りに住んでいたんですよ。あの頃は市川さんと打越くんが舞台設定をしていたはずなので、そこが大きな土台になっているんだと思います。だから打越くんが別のところに住んでいたら、違っていたかもしれない。

柴田:横浜のほうに住んでいたら、もっと都会的な話になっていたかもしれないですね(笑)。

変化にこだわった『想い出にかわる君』

――『メモオフ』は『2nd』までで「らしさ」を確立しつつも、3作目『想い出にかわる君』は新規性も多く、ある意味冒険にも見えるタイトルでした。どのような意図があったのでしょうか。

柴田:市川のやりたいことが新規性に傾いていたんじゃないでしょうか。市川には、「同じものが続いてほしい」という思いもあれば、「単純に同じものが続くのが嫌だ」という思いもあったんだと思います。なので、シリーズではあるけれど、変化は入れたかった。それが2作目から3作目で一番大きく出たんです。方針的にも「ギャルゲーなんだけど、雰囲気は月9ドラマだよ」と伝えられていましたね。今月9って伝わるのかな(笑)つまり、「ドラマ性」をすごく意識していましたし、月9なので年齢層は少し高めを想定したものになりました。

想い出にかわる君~メモリーズオフ~(2002.11.28)



主人公は大学生の「加賀正午」。かつて、何も言わず姿を消した昔の恋人・「黒須カナタ」との唐突な再会から物語は始まる。忘れかけていた胸の痛みが蘇る正午だったが、彼の前には魅力的な女性たちが次々と現れ始める。前作までは「学園モノ」として展開されていた『メモリーズオフ』だが、本作では登場人物たちの年齢層もやや上がり、大学生なども多く登場する。

――3作目は当時、変化に驚かされましたが、改めて見るといい作品ですよね。

柴田年齢層を高くしたことで、それについてこれない方が多かったので、評価の分かれた作品ですよね。若いユーザーの方にはちょっと理解しにくい部分がありました。当時のギャルゲーとしては確かに異質なことをやっていたなと。大人がかなり出てくるゲームでしたから。大人になってからプレイすると響く作品にできたかなとは思うので、昔ピンとこなかった方は今もういちど遊んでほしいですね。

――3作目は絵作りも大きく変わっていますね。

松尾:キャラクターデザインが変わった作品ですからね。「社内製で行ってみたい」と自分たちに任せてもらったんですけど、キャラクターには原案があったんです。その原案がドラマをイメージして作られたもので、それをどうシリーズのキャラクターに落とし込むかが、自分と輿水(隆之)くんの仕事でした。なかなか難しかったですよ。

柴田:今キャラクターのデータをいじっていても思うんですけど、『2nd』と比べて、まず服の模様が違いますよね。

松尾:テクスチャーが出てきたんですよ。ファッションとしての質感や模様が入り込んでくるようになって。

柴田:ポーズにしても、ちょっとギャルゲーっぽいポーズではないなというのがあったり。

松尾:原案はどこかで一度公表されたと思うんですけど、今見ても「これをゲームキャラに起こすのはチャレンジすぎない?」という、ファッション誌に出てきそうな感じで。

柴田:たぶん、当時の男性スタッフからは絶対に出てこないタイプの服装設定なんですよ。原案の方が女性なんですね。だから他のタイトルと比べると、女性目線が結構入っていると思います。男性キャラクターも多いですし。

▲服装や小物も本作の見どころのひとつ。(画面はPlayStation 2版のもの)

『それから』は『2nd』を意識して作られた

――林さんがシナリオを書かれた『それから』は、どのようなコンセプトだったのでしょうか。

『2nd』をめちゃめちゃ意識したシナリオ構造になっています。むしろ「意識して作ってくれ」というオーダーでした。僕のほうでは、主人公とヒロインだけではなくて、周囲の人間関係を含めたドラマを結構意識しました。僕が担当するシナリオはそうなりがちですね。家族とか親とかがよく出てくる(笑)。あとは、『2nd』を初めてプレイしたときに「ギャルゲーっぽさよりドラマっぽさが強い」と感じていたので、『メモオフ』でなら群像劇や家族の話もできるだろう、と意識して書きましたね。

柴田:3作目あたりから群像劇っぽい方向にメモオフがシフトしていて、『それから』でさらに群像劇の部分が強くなった感じですよね。

松尾:社内では、3作目がドラマを意識しすぎて、ユーザーの期待とズレたところがあったという反省もありました。「やっぱり『2nd』がメモオフとしての金字塔だったんだな」と立ち返った作品ですね。なので、近い雰囲気にする、というコンセプトでしたね。デザインについては自分と輿水くんに任せてもらった作品ではあるのですが、ここもベースは1と2の雰囲気でいくことにしました。全く新しいものにすることもできたんですが、『メモオフ』というシリーズを大きく変化させようとか、我を出そうという意識はありませんでしたね。今はすっかりイラストレーターですが、アニメーター出身なので、我を強く出そうという意識があまりなかったんですよ。作品としてバランスのいいものができたらいいなという。

『メモリーズオフ ~それから~』(2004.6.24)




主人公は高校3年生の「鷺沢一蹴」。卒業間近のバレンタインデーに、いのりからデートに誘われた一蹴は、二人で想い出の場所を訪れる。しかし、そこでいのりから、唐突な別れ話を切り出される。そのうえ、別れを選んだいのりの本心は頑として隠されてしまう。
『2nd』への回帰を目指しつつ、今までにない密度で学園生活を描いた作品となっている。演出面にも力を入れており、シーンの臨場感が高い作品としても知られる。

――内容面のオーダーは、「『2nd』に近く」以外にはなかったのでしょうか。

:割と自由でした。ただ『それから』は「最初にヒロインと別れるところから始まるよ」という縛りはありましたね。あとはお任せ、というのが多かったです。

阿保:サウンド面は具体的なオーダーはあまりなかったですね。ただ、物語を読んで雰囲気としてはやはり『2nd』に近づいていくのかなと想像しつつ曲を作りました。『それから』は自分の中では、割合として生楽器を増やしたイメージがあります。デジタルの音だけじゃなくて、バイオリンなどの弦楽器を混ぜていったんです。いろいろな音を入れるようにして、映画のサウンドトラックに近いような作りにしました。

――シリーズが続いてくると、恋愛のいろいろなパターンを書き尽くしてしまう、いわゆる「ギャルゲーのネタ切れ」問題はなかったのでしょうか。

:縛りはあまり感じないというか、むしろシリーズ歴代作品の長い歴史を踏まえた上で作れるという意味で、メリットのほうが多いイメージです。もちろん、シナリオの方向性が過去作と被ると、ちょっと変えたほうがいいなという調整はしますけど。

柴田:ネタが被ったからといって、結末まで全部同じになるとは限りませんし、作っている人間が違えば内容は変わりますし。実は、あまり心配したことがないんです(笑)

▲『それから』ではシナリオライターとして参加した林氏。最新作のシナリオ制作にも携わった。

阿保さんの手掛けた『メモオフ』楽曲は500曲超え

――阿保さんはシリーズ全作品の曲を手がけられていますが、いかがでしょうか。

阿保:曲を作るのは好きなので、「恋愛もの」というものに縛られているという苦労はないんです。むしろ、『メモオフ』は世界観が作品を重ねるごとに理解が深まっているので、やりやすいですかね。イメージを作りやすいんですよ。

――『メモオフ』全体で、阿保さんが作られた曲は何曲くらいあるのでしょうか。

阿保:自分のほうで、正確には計算していないんですけど、500曲以上あります。

柴田この前数えたら574曲でした。アレンジバージョンなどもありますし。切り口によってはギネスですよね。ひとつの恋愛アドベンチャーシリーズで500何曲書いている人はいないんじゃないですか。裏バージョン・表バージョンみたいな形でサントラ収録曲がすごく増えたこともあって、もう600曲が間近です。

松尾:KID時代から『メモオフ』以外の、おそらくほぼ全ゲームの曲を作っていましたからね。年間で100曲、200曲。プラス効果音。1曲あたり何日で作っているんだ、と逆算すると恐ろしいことになる。キャラクターテーマ曲だって、1作に5~6人はヒロインがいるわけで、それが8作、9作ですから。

柴田:曲を作るのが好きと我々も認識していますが、それでも作りすぎだろうと思いますね(笑)。

――作曲された曲は、どのような形でゲームに収まるのでしょうか。ゲーム側に寄せて調整していく過程などはあるのでしょうか。

阿保:他社がどうかはわからないんですが、弊社の場合は依頼されたものを提出したらそのまま使われていることが多いですね。だから、僕は「自分でボツ」を出しちゃうんです。「できました」とは言わずに、作って、聴いて、納得できたものだけを出すというようにしています。そこまでやれば、全部通っちゃっても、もうしょうがないなと(笑)。

▲『メモオフ』のみならず、MAGES.作品の楽曲も数多く手掛ける阿保氏。

恋愛とサスペンスを盛り込んだ『とぎれたフィルム』

――『メモリーズオフ#5 とぎれたフィルム』は、映画制作をテーマに盛り込んだ作品でした。

柴田「今度は映画とサスペンスです」というコンセプトが市川から提示されて、そこからチームでいろいろ考えていったのが5作目ですね。この作品に限らず、市川は大きなコンセプトは伝えますが、そのコンセプトに対して出力されてくる仕事にはあまり注文をつけないんですよ。

『メモリーズオフ#5 とぎれたフィルム』(2005.10.27)



大学2年生の主人公・河合春人は映画サークルに所属している。しかし、映画を作るという夢は親友の死をきっかけに先の見えない目標となってしまった。そんな春人の前に、親友の書いた台本を持ち、なんとしても映画を作りたいという「仙堂麻尋」が現れる。
別の人物の視点で物語を眺める「リバースカット」というシステムが採用され、ヒロインの心情などを瑞々しく描写することに成功している。

――実写オープニングも印象的でした。どのように撮影されたのでしょうか。

柴田:あれは当時のスタッフが実際にカメラを回したんです。ロケ地も湘南じゃないらしくて、房総のほうだったと聞いています。市川から「こういうシーンが欲しい」というのがあって、「じゃあ今度行って撮ってきますよ」くらいの、そんなにきっちりしていない進め方で(笑)。

松尾:市川さんの思いつきで素材を集めて、市川さんが好きに編集している、という感じでしたね。#5は 映画を題材にした作品でしたから、そういうこだわりが出たんじゃないですかね。

柴田:僕が担当していたら、実写を使うという発想は出てこないです(笑)。

▲『メモリーズオフ』のオープニングにしばしば登場する実写映像は、市川氏の発案によるものだとか。

 KID倒産、そして5pb.へ

――5作目のファンディスク『encore』は、発売元がサイバーフロントに変わっています。KIDの倒産というニュースには、当時驚かされました。

柴田KIDが倒産した時点で、『encore』は「あと1ヶ月半あれば完成する」という進捗だったんですよ。

松尾:自分たちはまだ原画を描いている最中でしたね。「潰れた、さあどうしよう」と言っている間もやることがないから、原画を描き続けていました(笑)。

――倒産について、予兆のようなものはなかったのでしょうか。

松尾:いろんなところで言っている話なので大丈夫だと思いますけど(笑)、朝出社したら、上の人が「ごめん、潰れる」と。前兆は全然感じていなくて、思い返せば「あれはこういうことだったんじゃないかな?」ということはいくつかありました。

▲『encore』制作中にKIDが倒産するという大きな出来事があり、一時は発売できるか怪しい状態だったという。画面はPlayStation 2版のもの。

――その後、発売できることになった経緯についてお聞かせください。

柴田:旧KIDの版権、『メモオフ』をはじめとしたタイトルの権利をどこが取るかという話があって、結果的にサイバーフロントさんになりました。サイバーフロントさんとしても「途中までできているゲームがあるなら出してしまおう」と。それで『encore』はサイバーフロント名義で発売できることになったんです。

松尾:スタッフはこっち(5pb.)に全部いるのに、なんで権利を取るところが別に出てくるのだろうと志倉さんも言ってましたね(笑)。

※志倉千代丸 氏:ゲームクリエイター、作曲家。代表作は科学アドベンチャーシリーズ。5pb.、MAGES.の代表取締役を務めた。

――志倉さんの中では、『メモオフ』を5pb.の第一弾として、という考えだったのでしょうか。

柴田:おそらく『メモオフ』ではないですね。『encore』はちょうどタイミング的に作っていたからそうなっただけで。5pb.として本命の第一弾はやはり『CHAOS;HEAD』です。

松尾:自分たちが最初に集められたとき、志倉さんがみんなに説明していたのは『CHAOS;HEAD』の企画書でしたから。

――志倉さんは、『メモオフ』には主題歌などで長く関わられていますが、作品内容へのアイデアの反映などはあったのでしょうか。

柴田:『メモオフ』の作品内容にはほとんどないです。KID時代、志倉さんは社外の人でしたから。楽曲をお願いした方で、世界観を理解した楽曲を提供してくれる方という関係性の時代が長かったんです。

声優陣も話題となった『メモリーズオフ6 ~T-wave~』

――5pb.としては『メモリーズオフ6 ~T-wave~』を制作されています。

柴田:KIDの倒産から『6』までは1年以上空いていますよね。その間は別のタイトルや、サイバーフロントさんから出すPSP版の移植などを制作していたんです。

松尾:『6』は、権利を持つサイバーフロントさんと協業のような形を取りつつ、『メモオフ』を継承していく意味で作ったタイトルです。継承をわかりやすく示すために、キャラデザを自分と輿水くんが引き継いだ、というのが『6』ですね。

『メモリーズオフ6 ~T-wave~』(2008.8.21)



主人公の塚本志雄はある日、幼なじみの「遠峯りりす」から、同級生の「箱崎智紗」をりりすに紹介される。智紗はある出来事をきっかけに志雄に好意を持っており、その恋愛をりりすがサポートしようというのだ。傍若無人なりりすに押し切られる形で智紗との仲を深めていく志雄だったが、変化していく幼なじみとしての関係性に違和感を覚え始める。恋愛の三角関係をテーマに盛り込んだ王道の恋愛アドベンチャーゲームとなっている。

――『6』は今にしても当時にしても、声優陣がものすごく豪華ですよね。

柴田:5pb.としての意地というか、見栄の張り方というか(笑)。

松尾当時絶大な人気の某作品と同じ声優さんたちを起用するという。キャラデザもそんな傾向で、自分と輿水くんは「これでいいんかい」と言ったこともありますね(笑)。「だから逆にしてるんだよ」みたいなことを言われたりして。

▲本作のヒロインの一人「嘉神川クロエ」は大人気に。後のシリーズ作品にもゲストキャラクターとして登場している。

▲PlayStation Vitaへと移植された『メモリーズオフ6 Complete』は、ハードに内蔵された機能を活かしたおまけ機能も実装。キャラクターを写真の中に納めることができた。

女性向けの『ユア・メモリーズオフ ~Girl’s Style~』

――女性向けの『ユア・メモリーズオフ ~Girl’s Style~』は、どのような成り立ちだったのでしょうか。

柴田:『メモリーズオフ#5』をやっていた頃から企画自体はあって、やるという方向性も決まっていました。これも市川さんの発案です。どちらかというと『#5』寄りのキャラクター構成になっています。

松尾:当時、乙女ゲームが人気になってきていて、そちらにも力を入れようという部署があったんですよ。「じゃあ『メモオフ』でもやってみよう」と動かしていたみたいです。

――制作陣はギャルゲーとしての『メモオフ』チームとは別の編成だったのでしょうか。

柴田:ディレクターも違いますし、『メモオフ』チームはそこまで関わっていません。阿保さんはBGMをやっていましたけど。キャラクターデザインも女性向けの作家さんを起用して、グラフィックは社内ではやっていなかったんです。世界観や舞台は完全に共通で、企画の最初は普通に『メモリーズオフ○○』というタイトルネームだったと思います。

『ユア・メモリーズオフ ~Girl’s Style~』



女性向け『メモリーズオフ』として企画された作品。主人公は高校卒業を間近に控えた月岡海(つきおか うみ)。バンド「ユア」との出会いをきっかけに、海の人生は意外な方向へと動き始める。『想い出にかわる君』のキュービックカフェも舞台のひとつで、同作からはテンチョーとトビーが出演している。

――手応えはいかがでしたか。『メモオフ』シリーズということで遊んでみたのですが、シリーズファンとして楽しめましたし、乙女ゲーという新境地を見れて個人的にはとても楽しかったです。

松尾:アイデアや企画は良かったと思うんですけど、受けるための何かがもう一歩足りなかったのかなと。それが「乙女ゲー」と「ギャルゲー」の違いなんでしょうね。

柴田:男性向けの『メモリーズオフ』だったら、ああいう形でも良かったのかもしれないんです。でも、シリーズの流れを知らない女性ユーザーさんにいきなり出しても、「シリーズの途中で、と言われても」となるし、「私たちの知っている乙女ゲームと違う」ともなる。もうちょっとやり方があったのかな、もったいなかったな、という気はします。

トリガーシステムを導入した『ゆびきりの記憶』

――7作目『ゆびきりの記憶』は、従来の『メモオフ』らしさに新しさを加えたタイトルになっていました。制作の経緯についてお聞かせください。

柴田:『7』はナンバリングも続いてきたので、新規の方を呼び込むためにいろいろ工夫しようとしたタイトルでした。ここからナンバリングが消えて、ロゴの中に意匠のような形で入っているんですよね。シリーズを遊んでいる方なら“7”とわかるし、遊んでいない方も過去作を気にせず遊べるようになっています。イラストレーターを作品ごとに変えるということも、ここから抵抗がなくなりましたね。

メモリーズオフ ゆびきりの記憶(2010.7.29)



主人公の「芹澤 直樹」は「なおくんの嫁なのです!」と宣言する幼なじみの天川ちなつに追いかけられている。かつて許嫁の関係だった頃の名残から嫁を宣言するちなつだが、二人の関係は恋人とは言い難い。ある日、直樹の前に、南雲霞という謎の家出少女が現れる。霞は直樹の家に転がりこみ、半ば脅しに近い形で、奇妙な同棲生活がスタートする。
MAGES.の科学アドベンチャーシリーズで採用された「トリガー」システムを導入し、本作ではヒロインたちとの約束を“ゆびきりトリガー”で行う。シナリオもサスペンス色が強く、プレイヤーを引きこむ物語になっている。

――『ゆびきりの記憶』は、『CHAOS;HEAD』など科学アドベンチャーの影響を受けているのでしょうか。「ゆびきりトリガー」という要素などはいかがでしょうか。

柴田:影響を受けているのは「ゆびきりトリガー」(ゆびきり分岐システム)だけですね。実は『ゆびきり』を作っているときには、まだ『STEINS;GATE』は世に出ていなくて、ほぼ同時に作っていたんです。『STEINS;GATE』の「フォーントリガー」がユーザーからすごく評判が良かったので、志倉から「そういう選択肢システムを入れてよ」という話がでてきて、ゲームがかなり出来上がっている段階で「ゆびきりトリガー」を入れました。

▲サスペンス色の強い『ゆびきりの記憶』は、発売後に「ただのギャルゲーではない」ことが話題となった。

松尾:志倉さんは、言葉の選択肢だけじゃなく、「ユーザーがゲーム進行のきっかけを自分でコントロールしている」と感じさせるものを入れたいという考えがあったんです。『メモオフ』もアドベンチャーでやるからには、うちは「トリガー」というものを使う、と。当時は会社としての方針で、アドベンチャーのシステムとしてそういうものを見せていきたかったんじゃないですかね。

一度頓挫しかけた『メモリーズオフ -Innocent Fille-』開発

――8作目『メモリーズオフ -Innocent Fille-』は、発表から発売までかなり時間がかかったという印象がありました。実際はいかがだったのでしょうか。

柴田半分ボツになりかけていたんですよ。『ゆびきりの記憶』のXbox 360版が、正直、期待していたほどのセールスには及ばなかったというのが大きな理由です。その後PSP版、最後にPS3/Vita版が出て、そのセールスも期待以下だった。いいものは作れたと思っているんですが、新作を出そうとすると、最新作の数字がベンチマークになってしまいます。なので、「これを作るにはこのくらいの予算が必要です」という計画書を作って提出しても、「これだとペイしない」と。キャラクターを減らそうか、規模を小さくしようかと、いろんなパターンを作ったんですがなかなかOKが出ず。OKが出たのは、会社(MAGES.)自体がいろいろと変わっていくタイミングで、「次のIPとして」と認めていただいた形です。

――『ゆびきりの記憶』もかなりサスペンス風味でしたが、この作品はかなり振り切ったところまでいった印象があります。

柴田:血の描写やルートによっては人が亡くなったりもしますからね。そういう状況を描きつつも恋愛という強い要素で、諸問題を解決していくという作りになっています。

『メモリーズオフ -Innocent Fille-』(2018.3.29)



主人公の累は地元札幌を離れ「どこか遠くへ行きたい」と願っている。 その願いは叶い、姉妹校である湘南海陵高校へと一時的に転入することになる。湘南海陵高校には、七年ぶりの再会となるかつての親友たちも通っており、友情が蘇るようなにぎやかな日々を過ごすことになる。しかし、主人公とかつての親友たちには、秘密の過去があった。
ある条件を満たすことで、物語が「ライトサイド」と「ヘヴィサイド」とに分岐可能になる。基本的にライトサイドでは明るい話が、ヘヴィサイドでは「恋愛アドベンチャー」からは一歩踏み出したサスペンス的な物語が語られる。

――『6』のファンディスクで登場した“ノエル”が攻略対象になったことも印象深かったですね。

柴田:過去作のキャラを出すことについて、この作品がひとつ吹っ切れたきっかけになったと思いますね。今まで少し遠慮していた部分もあるんですよ。「過去作のキャラクターが後の作品に出たとしても正史ではない」ということは発信しているんですが、それでもあまり具体的だとどうなのかと考えたこともありました。でも、ノエルを攻略対象のヒロインにするなら、少し踏み込んだ描写も必要だろうなと。

――柴田さんは、やはり「メモオフをずっと出したい」という思いが強いのでしょうか。

柴田:実は『メモオフ』以外を作らせていただけるというのも、それはすごく嬉しいんですけど(笑)。とはいえ「『メモオフ』を作ってよ」というオーダーだったり、ユーザーさんの声に動かされています。

▲『メモリーズオフ6 ~T-wave~』のファンディスク時代から人気のあった「ノエル」が攻略対象になった。

『メモオフ』じゃないけど『メモオフ』的なものを
『シンスメモリーズ 星天の下で』

――『シンスメモリーズ 星天の下で』の開発の経緯についてお聞かせください。『メモリーズオフ -Innocent Fille-』(以下『IF』)が最終作になるというお話があったとお聞きしました。

柴田『IF』はメモリーズオフの進退をかけた一作という心づもりで制作を行っていました。後がなかったということですね。最終作と銘打ったのは「覚悟」ですね。おかげさまで、『IF』はそのハードルを越えて好評をいただきました。それもあって次作の制作のOKをいただきました。ただ最終作と銘打ったからには、『シンメモ』を「9」として制作するのはちがうかなぁと。『メモオフ』じゃないけど『メモオフ』的なものにするにはどうすればいいかといくつか出た案の中から思った以上に『メモオフ』っぽいものが選ばれた感じでしょうか。『メモオフ』における作品ごとの連続性は稲穂信の人生だけですので、それ以外の部分は割と自由なのはありがたいです。とはいいつつ、いろいろと表には見えない縛りもありますが(笑)

『シンスメモリーズ 星天の下で』(2021.9.16)



家業の何でも屋「水元堂」を手伝う主人公「隼也」は、昨年亡くなった兄「鷹也」のことを考え続けている。自分だけが生き残ってしまったことに負い目を感じながら生きる隼也の前に謎の少女が現れ「あんたが死ねばよかったのに」と冷ややかに告げる。幼馴染の「北條ちはや」から頼まれる大きな仕事をきっかけに、「鷹也」の死の謎がゆっくりと紐解かれていく。
『メモオフ』のナンバリングタイトルではないが、シリーズのらしさを受け継ぎつつ、新しさを前面に押し出した作品。キャラクターソングなども制作された。

――『シンメモ』にはどのようなテーマを込めたのでしょう。

柴田:『IF』のあと、ということもあり、日常に戻った「恋愛」を主軸に置いた『メモリーズオフ』を目標に制作に入りました。連続して重めのテーマだったのでここいらで少しテンポのいい作品にしたいなーと思った次第。とにかく誰も死なない『メモオフ』を目指していました。

――その他、裏話などありましたら、お聞かせください。

柴田:コロナ禍真っ最中の制作だったので、スタッフ間のコミュニケーションがまず大変でしたね。リモートで仕事できる才能は自分にはなかったみたいです。残念。あとは、キャラソンはなかなか作るのが難しくなっている今、『シンメモ』でやれたのは幸せでした。アイドルのキャラが一人いるのとキャラソン制作は関連がないです。

25周年記念作品『双想』で扱った異例の要素

――25周年記念作品『双想』についてもお話をお聞かせください。こちらはどのような経緯で生まれた作品なのでしょうか。

柴田:『シンスメモリーズ』が出た後、『双想』が出るまでの間にも別の案をいくつか出していて、「それじゃない、あれじゃない」というのがあって、弊社の浅田(誠)のほうからも提案があって、『双想』の内容に収束していった、という感じです。

※浅田誠 氏:MAGES.代表取締役社長。代表作はリメイク版『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』など。近年の『メモオフ』リアルイベントでは、浅田氏自らMCも務めた。

『メモリーズオフ 双想 ~Not always true~』(2025.4.10)




主人公の久寿米木一葵には、顔も名前も知らない許嫁がいる。そして、許嫁相手がどういう人物なのかを知らされる17歳の誕生日は、およそ1ヶ月後に迫っている。
ある日、失恋したクラスメートを慰める会を開くために、藤川のファミレス「ルサック」を訪れた一葵は、そこでアルバイトの女子店員とトラブルになってしまう。その店員――「洲宮紗絵」は、同じ高校に通う3年生の先輩だった。出会い方は最悪だったものの、紗絵の大人びた立ち振る舞いを見て、一葵はすぐに憧れと尊敬の気持ちを抱くようになる。
一見恋愛アドベンチャーゲーム的な展開でスタートするが、後に主人公を取り巻く環境が明かされ、物語のテイストが一変していく。

――『双想』には、「”家”という独自の戒律で縛られた組織」が登場します。この組織が一部ヒロインの話の軸になっていると感じますが、こうした構造はどのような発想から生まれたのでしょう。

松尾:きっかけになったのは浅田のアイデアですね。

柴田:制作のとっかかりは、“家”のような組織がニュースで大きな話題になっていた時期でもあるんですよ。社会的なトピックをテーマに入れ込んでいこうということで決まりました。そのような組織にもさまざまあって、いろいろな性質のものがあることは理解しつつ、新しい『メモオフ』ならではのものをやることにしました。そのうえで、メインの登場人物たちの一部が関わりがあるという形にしました。ただ、そのような組織をどう扱うかはだいぶ議論を重ねましたね。何が悪いという描き方をせず、考え方の違いを描くということに注力することにしました。本当は、なにかを完全に悪者にしてしまうのが一番楽なんです。異世界ものだったらそういう設定にしたと思います。でも現実世界に即したメモオフの世界観だと難しい。他のエンタメだと意外とカジュアルに混ざっていたりするんですが、コンシューマーのギャルゲーでやるのは勇気がいりましたね。

――『CHAOS;HEAD』ではそのような存在が悪として描かれ、それが話のギミックになっていました。ああいう形のほうが書きやすい気もします。どちらの視点から見ても許せるところがある、というバランスには苦労されたのでしょうか。

:そうですね。いくらエンタメとはいえ、『メモオフ』なので過激に書こうとは思いませんでした。「やりすぎちゃダメだ」というのはありましたね。『CHAOS;HEAD』のときはそれを含めて、やりすぎくらいに書いているんですよ。結果、シナリオの評価としては良かったんですけどね。ただ、『CHAOS;HEAD』の中での要素は、大きなエンタメの細部になっているという描き方です。『双想』はあくまでヒロインとの関係性が一番大事な作品なので、特殊な状況下にある登場人物たちの恋愛を真摯に描くということを意識しました。

▲『双想』では“家”という組織が、主人公やヒロインたちの人生に密接に関わってくる。

――林さんに降りてきたオーダーは、そのようなテーマくらいだったのでしょうか。

:大まかな設定とストーリー案くらいは決まっていましたね。

柴田:今回は、ライターさんに全部お任せというわけではなく、「こういう話で、こういうギミックを入れて」という話は結構しましたね。

:一番最初の構想だと、ねねルートはなかったです。紗絵ルートのサブキャラのような、親友兼恋敵という位置づけで。

柴田:キャラクターができていく中で、「この子ならこういうことするよね」という話を語り合った結果、「じゃあ作ろうか」と。設定そのものは変わっていないのに、お話の中での立場や向きが変わっていったんですね。

――林さんとしては、久々の『メモオフ』シナリオへの復帰となりました。どのような意識で書かれたのでしょうか。

:ジャンルとしてラブコメを書きたい欲がすごく出てきた時期だったんですよ。ハードな作品を書いていると、ラブコメ的なものを書きたくなるんです(笑)。今回も、序盤は人を好きになっていく過程を丁寧にやっていこうと思って書きました。設定が尖っているだけに、そこがないとギャルゲーとして成立しないので。

――サウンド面もバリエーションに富んでいました。作中では「”家”」や「ファミリー」という、いままでのメモオフにはない要素があるのですが、このシーンで使われる曲は特に印象的です。

阿保:シナリオの内容は『メモオフ』ではいままでやっていないことも多い作品ですが、全体としては『メモオフ』らしさみたいなものを継承した曲になっていると思います。“家”の部分の楽曲は、荘厳で古い雰囲気があるのかなということでああいう音遣いにしました。

――『双想』は本編の終わり方にも驚かされました。ファンディスクがないとすれば、あの終わり方でいくのかと。最初からファンディスクを作る構想があったのでしょうか。

僕の中ではファンディスクの予定は全然なかったです。あくまでギャルゲーなのでバッドエンドは避けないといけないものの、人間ドラマ的な部分を見せるのだとすると、全部がハッピーエンドでなくても良いかなと思っているんですよ。

柴田僕の中でもファンディスクは構想になかったんですね。というのも、『シンメモ』がちょっとファンディスクありきな作りにしてしまって、結局ファンディスクを出せなかったという後悔がありました。だから「FDを前提に物を作ってはいけない」と思っていた時期でもあったんです。

――では、ファンディスクの前の時点で、シナリオは想定していた最後まで完結していたのですね。ドラマのような、すべてがきれいには収まらないけれど、先を想像できる終わり方で。

:あそこまでしか想定していなかったので、逆に「続きを作れ」と言われた時は結構大変でした(笑)。

――となると、ファンディスク『双想 Break out of my shell』も浅田さんの発案なのでしょうか。

柴田:そうです。『双想』がマスターアップして、発売した直後、1週間後くらいには「やる」という話になっていました。

松尾:大きい声で発売直後には「もう出すと決めた」と言っていましたからね。すごい胸を張って「速攻決めたから」「イベントのときに発表するぞ!」って(笑)。

柴田:ファンディスクについては、ねねを大きくフィーチャーするというより、ユーザーさんの感想を読んだ結果、「ここを追加しよう、ここを強くしよう」というのが確定していったのかなと。

▲もともと予定のなかったファンディスク『双想 Break out of my shell』はシリーズとしては異例の内容となっている。

――春に行われたイベント「メモリーズオフ二十五周年完了祭」では、「浅田さんの助言でシナリオが全面改稿になったものがある」という話が出ていましたが、あれはどの部分なのでしょうか。

ねねのシナリオです。最初はもっとコミカルな方向性だったんですよ。さっき言ったように続きのことを全く考えていなかったので、監禁の後に何をやるのか、まったくイメージがなくて。あの段階で2人の関係性は完成しているんです。一葵はねねに依存した状態になっていて、ねねは強い子だから自分で何でもできてしまう。そこからどう展開させるかといったら、コミカルに振るしかないと思っていた。そうしたら、シナリオ締め切りのその日、もうすぐ完成するというところで、浅田から「”家”と対決する話にしよう」と、180度方向転換した案が飛んできました(笑)。

柴田:結果的に序盤からかなり変わって、当初あった施設のシーンもなくなって、そこで出会うはずだった「ちびネネ」というキャラクターもなくなりました。デザインする前だったからラッキーでしたけど(笑)。

:ファンディスクで言うと、ねねのシナリオの半分を書き直しましたね。ただ個人的には、最初に考えていたコミカルの方向性はいまいちしっくりきていなくて、めちゃめちゃ悩んでいたんです。「これでいいのかな」とずっとイメージがつかめずに苦労していたところに浅田からの提案があって、渡りに船でした。「これならイメージが湧く、むしろ助かる」と思いながら書いていました。

――林さんは『メモオフ』を一旦離れ、『STEINS;GATE』をはじめとする科学アドベンチャーや『プラスティック・メモリーズ』などを経て、18年ぶりに帰ってこられたわけですが、その経験で活かせたことはありますか。

:匙加減ですかね。ただ、「やりすぎないほうがいい」と思っていたんですけど、ねねのシナリオの件があって、「あ、やっていいんだ」と開き直った部分もあります(笑)。何が正解かはケースバイケースなんですよね。『メモオフ』って懐が深かったんだなと改めて思いました。

柴田あとはSFくらいですかね、やったことないの。いつかやりますかね(笑)。

――『メモオフ』の構造として、修羅場がある一方で、「清涼剤」のようなヒロインがいて幸せなまま終わるルートも用意されていますよね。あれは意識されている構造なのでしょうか。

柴田:最近のタイトルは意識しています。『ゆびきりの記憶』以降は割と明確にやっていることですね。今回の『双想』は特に、紗絵とねねにテーマを集中させたので、他のキャラクターはテーマから外れているんです。なので、紗絵とねね以外は清涼剤という感じになっています。

――過去キャラクターとの関わりも増えて、世界に厚みが出てきていますよね。

柴田:過去のキャラクターを出さないともったいないよね、というのはあるんですが、過去作のキャラクターと現在のキャラクターの年齢の差が大きくなってきてしまっているという問題も出てきています(笑)。主人公はだいたい高校生前後でいこうとしていますけど、正しく年齢を反映させるとファーストや『2nd』の世代はもう40代なんですよ。

――それでも人気投票をすると、「ちょっと出すか」という気持ちになりませんか。

柴田:そうなんですよ。人気投票企画をイベント向けにやったりすると、なんとか出したいなという気持ちになってきます。

――「メモリーズオフ二十五周年完了祭」など、『メモオフ』のリアルイベントへのこだわりは、どこから来ているのでしょうか。リアルイベントではアーティストの方々の生歌唱も見られる貴重な機会になっていますよね。

柴田ここ2回は浅田の「やるぞ」がありましたが、それ以前から、うちのライツ部門などの人間が率先して「イベントやろうよ」という感じではあったんです。ソフトを出してお客さんが動くならイベントをやろう、と。ただ、キャストさんをたくさん呼ぶとコストもかかりますし、そのバランスですね。今の形は、超限定版を買っていただいた一番濃いファンの方々へのお返しというイベントなので、抽選ではなくご招待という形でチケットを封入したんですけど (笑)。

松尾:最近のイベントは、高い限定版でも買ってくれるファンの人がいるんだったら、感謝の場、盛り上がる現場を作ろうということでやっているみたいですね。それはファンの人にとっても面白いんじゃないか、というのがあるんだと思います。

――超限定版の購入者全員をイベントに招待する形にされていますよね。抽選形式ではないので、ある意味安心して買えるのも嬉しいです。

柴田:よくよく考えると、あそこにイベント抽選券が入っている、という商品もありますよね。(全員招待は)逆に「本当に来てくれるかな? 大丈夫かな?」と思うくらいで(笑)。

――松尾さんは、特典のサイン色紙などを手がけられていますよね。

松尾:実は当初、特典に色紙をというのは慎重に考えていました。サイン色紙を商品価値の一部として前面に出すことはクリエイターとしてどうなんだ? そもそも自分の色紙にそんな価値はあるのか?と思ってまして。ただ、今ではファンの方からサインや色紙のリクエストを受けるサービスも増えてますし、喜んでいただけるのであれば肯定してもよいのかと思うようになりました。サインに慎重だったといえば、以前の『Innocent Fille』のとき、超限定版のイラストへ一枚ずつサインを入れるという企画が自分に説明がないまま公式サイトで発表されそうになり、ちょっと待ってくれと話し合いになったことがあります。
名前やサインが当人への説明や確認がないまま商売に使われてしまうことに抵抗があったんですね。ちゃんと企画の意図を説明してもらい、どんな形でファンの方に届けるのかを共有してもらえれば、納得して取り組むことができます。実際にサインを入れさせてもらった際には一枚一枚感謝しながら書かせてもらいました。きれいに書けてるか?大丈夫か?ってビクビクしながらですけど(笑)。どうせやるなら、自分もユーザーさんにとっても気持ちのいいものにしたいんです。この間のように会場で展示して皆さんに見てもらったのは、喜んで写真撮ってくれてたりしてるのを見れて自分も嬉しかったです!

――久々に過去のキャラクターを描いてみて、いかがでしたか。

松尾:まず、色紙については、アナログのマジック描きで取り返しがつかないのですごく緊張しますね。自分はアナログスタートの人間ですけど、一発で描けるタイプじゃないので、下描きもしますし、時間もかかる。額装イラストのほうはデジタルなので、普通のイラストと同じ感覚なんですけどね。
キャラとしてはいのり、麻尋は自分も好きで大切なキャラで描いてて安心なんですが、定番になってるので他キャラも描いてみたいですね。

初代リメイク、『みっくす』移植、そして未来へ

――最新作のお話ですが、初代のリメイクをイベントの場で発表されたのには驚きました。僕も一参加者として現地にいたのですが、第一報がある意味クローズな場で驚きました。

柴田あのタイミングが、ユーザーさんに出すタイミングとしても一番かなと思っていて。大々的にやったとしても、発売までまだ時間がある以上、あっという間に忘れられちゃうよね、と。詳しい情報を出せるのは、実質的には夏以降かな。キャラデザは終わっているので、「よし、作るぞ」というところまでは来ました。

▲イベントで突如発表された『メモリーズオフ』リメイク。グラフィックは完全新規のものになるようだ。

――どれくらい前から動いていたのでしょうか。

柴田:ネタとしては『双想』を開始するあたりから、『メモオフ』初期タイトルのリメイクの話は出ていました。ささきさんに『双想』のキャラクターデザインをお願いした直後くらいに、「初代のリメイクもやりたいので」と相談させていただいていたので、なんだかんだで長いですね。ただ実質的に動いているのは去年の年末、『双想』のFDが終わった直後くらいからなので、実際はそんなに経っていないんです。

――新要素は入るのでしょうか。

柴田何かしら入ります。ただ、音声については昔の音声をベースに使おうと現時点では思っています。録音し直してしまうと、同じキャストさんでもやっぱり印象が変わってしまうんじゃないか、というのが一番怖くて。それなら新しいキャストでやり直すという選択も出てきているなとか。各社さんがいろいろなリメイクを発表されているので、そこら辺も見つつ、ですね。

――そして『メモオフみっくす』の移植です。これは来ないだろうと思っていました。

柴田:移植するとなるとすごく手間がかかるので、あまりやりたくないと以前から浅田にも言っていたんです。ミニゲームごとにプログラマーが全部違うし、ソースも多分残っていないですよ、と。「じゃあやめとくか」と言っていたんですけど、去年の夏くらいに「何か作ろう」という話があって、ちょうどプログラマーの手も空いたので、「じゃあまず『メモじゃん』の移植をお願いします」とゆるくプロジェクトが始まりました。内容はエンジンを載せ替えたリマスターです。画像データはフルHDに合わせて作り直したり、拡大処理をしたりしています。

▲『メモオフみっくす』もイベント中に発表された

――『メモオフ』は現行ハードへの移植にも積極的ですよね。

柴田今のユーザーさんが触れやすい環境でリリースしたい。そうすれば、そこに新作も出せるかもしれない、というところですね。

松尾:でも、会社的には「移植は1から作るより簡単なんだから、各機種に出せばそれだけ販売本数も増える」という考えもあるんじゃないかと思ってますけど(笑)。

柴田:ぶっちゃけ、そうではあると思うんですけどね(笑)。新規IPは売れるかどうかが本当にわからない。移植なら「とりあえず出せば、きっとこのくらいは売れるだろう」という算段がつきやすいですから。よっぽど変な企画じゃなければ話ができる。

――現行ハードに移植する際、当時の絵や音楽はどのように処理されているのでしょうか。

松尾:絵については、単純に移植先の解像度に合わせた拡大をしただけでは粗さが目立つことになるので、工夫をしているタイトルもあります。何かしら補完してくれるシステムが必要ですよね。ちょっと前からAIによる拡大なんかを使っている作品もありますよね。生成AIとかが出てくる前から。

――リメイク版『メモオフ』について、音声以外のサウンド面はどのような構想があるのでしょうか。

阿保:リメイク版については、音は変えたいと思っています。とはいえ、まだ何も考えていない状態で、これからフォルダを作って着手しようか、というところです(笑)。

柴田:1作目の曲がそのままだと、絵が変わっただけで『ヒストリア』版とあまり変わらなくなってしまうので、そこは変化をつけたいですね。『みっくす』は当時のBGMのままでいこうかなと思っていたんですが……(笑)。

阿保『みっくす』も作り直すのかなと自分では思っていて(笑)。今朝ちょうど相談を始めたところなんですよ。あの頃は音源の制約がある時代なので、自分の曲を耳コピして作り直すこともあって手間はかかるんですけど、『みっくす』は曲数が少ないので、それくらいならいけそうかな、と。

――これだけ歴史の長いIPだと、リメイクやベタ移植の際に「ここをやり直したい」という気持ちになりませんか。

:シナリオは、やり出したら絶対大変なので(笑)。あまりないですね。一作全力投球で、ちゃんとエンドマークが打てれば、その作品に関しては完結でOK、という感覚です。

阿保:音は手を入れたいところもあります。あとはもう、スケジュール次第(笑)。

松尾:絵なんてどの作品も全部描き直したいくらいです。というのも、ひとつの作品を作り終わった瞬間から描き直したいと感じるんですよ。ビジュアルの流行と時代は変わっていきますし、プロであっても変化はしていきますからね。でも、そればかりやっていても新しいものを生み出せないので、「しようがない」と割り切ることがほとんどです。でも、ファンの方は昔のままにこだわってくれる方もいますから、どうするべきかは難しいですよね。

柴田:ゲーム全体として、手直ししたいところや追加したいところはありはするんですけど、やり始めたら止まらない、きりがないんです。だからあえて、リマスターは解像度を上げるだけ、4:3の画面比率でおかしいところがあれば修正する、基本はそこまで、という感じで仕上げました。特に『ヒストリア』の時は全7作あったので、気になるところに全部手を入れていたら終わらないんですよ(笑)。『ヒストリア』というひとつのプロジェクトとして会社に登録されているのに、中身は7タイトル以上あるんです。「スケジュールは?」と問われても「いや、無理ですよ」という話で(笑)。

――ここまで来たら、ワンダースワン版やネオジオポケット版、フィーチャーフォン版のリマスターはいかがでしょうか。

柴田それは好きなだけどこかの会社が作ってほしいです(笑)。誰かがエミュレーションでやってくれたらいいなと。しかし、ネオジオポケットやワンダースワンは本当に少人数で作っていましたね。今そのまま移植するとしたら、それ以上のスタッフの人数がかかるというのも不思議です。

阿保:ネオジオポケット版もワンダースワン版も本当に大変だった記憶があります。音源も違うし、開発環境は確かWindows限定だったと思います。私はWindowsを全く使わない派なので、Macからどうやってデータを持っていこうか、とか(笑)。

柴田:どちらも味のあるバージョンだと思います。ワンダースワン版は周辺だけドット、ネオジオポケット版はキャラクターが完全にドット絵ですからね。

松尾:ネオジオポケット版は原画を描いて、それをベースに社内でドットを打っていました。実はもともとKIDはファミコンやアーケード用などのゲームを作っていた会社なので、そういうことができたりするんです。独特なのが、ドット打ちにアーケードスティック使うシステムを作っていたので、ドットを打つたびにガチャガチャバシバシ という音がずっと社内に聞こえていましたね(笑)。

柴田:忘れられない怖い話があって、ネオジオポケットのときは、マスターの納品をメールでしたんですよ。メールに添付してSNKさんに送った。後にも先にもあれだけです。「メールでいいんですか?」って。「いいです」と(笑)。

――最後に、『メモオフ』ファンの皆さん、そして未プレイの方へメッセージをお願いします。

松尾:今、一番シリーズから離れているのはたぶん自分だと思うんです。時々思い出したように呼ばれて、昔描いたキャラクターたちを提供しているんですけど、そのときの反応は嬉しいものが多くて。関わることがあれば、今後も自分が提供できるものを全力で届けるための努力はしますし、なんだったら「本編にもキャラを描いてくれ」という声が上がってくれれば嬉しいな、くらいのつもりでやっています。古くからのファンの方も、これからのファンの方も、『メモオフ』というシリーズ全体を楽しんでもらえれば。よろしくお願いします。

阿保:シリーズにはいろいろな作品がありますが、未プレイの方も、どこから手をつけても大丈夫というのも魅力だと思います。それで気に入っていただけたら、他の作品も遊んでもらえたら嬉しいですね。あとはもう、30周年が近づいてきていて怖いんですけど(笑)、自分もまだ続けられたらいいなと。

僕は『双想』で18年ぶりに『メモオフ』に戻ってくることができて、イベントにも出させていただいて、ファンの方のすごく温かい声に触れて、この2年くらいは本当に幸せな時間でした。『メモオフ』ファンの温かさを改めて感じることができました。『双想』から入った方も、過去のシリーズがたくさんありますので。ぜひ過去のシリーズも楽しんでいただいて、また『双想』に戻ってきてもらえたら。そして30周年に向かって……怖い怖い(笑)。同窓会で会いましょう。

――では柴田さん、締めをお願いします。

柴田:27年、最初から見てくれている人たちは、もう人生が何かしらの形で変わっている方もいると思うんですけど、そこに『メモオフ』が少しでも関われていたら嬉しいなと。「『メモオフ』で人生変わりました」とXで言ってくださる方々もいらっしゃいますし、そういうタイトルを出せたことにはすごく感謝しています。今後『メモオフ』が続くかどうかはまだわかりませんけど、続いた場合はぜひ、周りのお友達やお子さんに、おすすめしていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

▲終始和やかに話していただいた『メモオフ』制作チーム。

『メモオフ』は恋愛アドベンチャーというジャンルに縛られている。そのうえほとんどの作品が学園モノという枠に縛られ、舞台までも湘南・鎌倉方面に縛られている。普通に考えれば、これだけ制約が重なれば作品は似通ってきたり、出しにくくなるということもあるだろう。

ところが『メモオフ』は違う。縛りだらけの中で繰り出されたシリーズ作品には、その時々で「どこかで見たようなもの」にはならないための作りこみが、幾重にも練りこまれているのだ。恋愛の物語として大枠はありがちだったとしても、キャラクターの造形、テーマの切り口、時代ごとの空気の取り込み方――細部にまで目を向ければ向けるほど、『メモオフ』らしい個性とこだわりがあふれ出してくる。むしろ制約があるからこそ、細部に魂を宿らせる職人芸が磨かれてきたのかもしれない。本インタビューでは、そんな作品ごとに異なる味付けが、どのような経緯と試行錯誤の末に生まれたのか、たっぷりと聞くことができた。

シリーズのファンとして臨んだ本インタビューは、まさに「出し惜しみなし」の有意義な時間となった。柴田氏によると、『メモオフ』の制作陣には入れ替わりもあるものの、長年制作に関わり続けているスタッフも多いという。
四半世紀を超えるシリーズの記憶が、資料としてだけでなく「人」の中に生き続けている――だからこそ本インタビューでは、伝聞ではない確かなシリーズの歩みを聞くことができたのだと思う。制作時の紆余曲折や、発売後にスタッフ自身がどう総括したのかといった話は、歴史あるタイトルだからこそ語れる開発秘話であろう。同時に、当時の判断を美化せず率直に振り返る姿勢からは、シリーズを継続させてきた制作陣の誠実さも感じられた。

もうすぐ27周年を迎える『メモオフ』だが、インタビューを終えた今、その歩みはまだまだ続いていくのだと確信している。もし未プレイのタイトルがあるという方、あるいは『メモオフ』未体験という方は、ナンバリング作品をまとめて遊べる『メモリーズオフ ヒストリア』などを活用して、この機会にぜひ触れてみてほしい。各作品は基本的に独立した物語なので、どのナンバリングタイトルから遊んでも楽しめるシリーズになっているのでご安心を。

▲『メモリーズオフヒストリア』が発売されたためPS4、PS5、Nintendo Switch、Steamなどでシリーズナンバリングが一気に遊べるようになった(画面はNintendo Switch版のもの)

The following two tabs change content below.
goziline

goziline

ゲームを最大限に楽しむことを目的としたゲーミングチーム。
様々なジャンルのゲームを大人気なく遊びます。

人気記事

  1. 1位

最近の記事

  1. 【インタビュー】25周年を越えて30周年も見えてきた。『メモリーズオフ』のいまま…
  2. 【スト6】今夜勝ちたいヤスミン攻略
  3. 【インタビュー】ゲーム『エトランジュ オーヴァーロード』ができるまで01:プロデ…
  4. 【DOA6LR】今夜勝ちたいあやね攻略
  5. 【DOA6LR】今夜勝ちたいこころ攻略
PAGE TOP