2026年3月26日に発売された『エトランジュ オーヴァーロード』。その誕生の物語をたどる本連載、前回はプロデューサーであり原作者でもある新川宗平氏に、「小説を書き、それを自らゲーム化まで導いた」という道筋について語ってもらった。
新川氏へのインタビューで見えてきたのは、本作が数々の「漢気」に支えられて実現へと転がっていくというプロジェクトの姿だった。そして、この物語にはもう一つの視点が欠かせない。新川氏自身が「私以外の視点でも、制作秘話を聞いてみてはどうでしょう」と勧めてくれたように、この作品をゲームとして作り上げたのは、開発を担ったジェムドロップだからだ。
120を超えるイベントに14本のミュージカル、そして「SUSHIレーン」という人を食ったようなアイデア。プレイした多くの人が口にする「詰め込み」は、いったいどのような現場から生まれたのか。今回は、新川氏と日本一ソフトウェアの新卒同期であり、『マール王国の人形姫』をともに作った盟友でもある、ジェムドロップ代表取締役社長・北尾雄一郎氏を中心に、開発スタッフ陣へのインタビューをお届けする。新川氏の語った「言われたからやる、ではなく、やりたいからやる仕事」。その中身を、作り手の側から聞いていきたい。

△ジェムドロップを率いる北尾雄一郎氏。東京ゲームショウ2026では自らブースに立ち、訪れるゲームファンをもてなしていた。
「やりたいものを作る」ことから始まった
――『エトランジュ オーヴァーロード』の開発が始まる前、新川さんが「北尾さんがすぐに連絡をくれて、下呂温泉で久しぶりに再会した」とおっしゃっていました。その際、新川さんとはどのようなやりとりをしたのでしょうか。
北尾さん:実は彼が退職するという情報はニュースサイトを見て知りました。その当時は彼との連絡手段はLINEも繋がっておらず、二十数年前に交換した電話番号しか無かったのですが、SMSを送信したところ普通に返信が戻ってきまして、すぐに下呂で温泉にでも浸かりながら思い出話をしようとなりました。正直、どんな話をしたかは細かく覚えてないのですが、もしゲームを一緒に作る機会があればまたやりたいねという話をしたところ、実は小説を書き始めていて……という話を聞いたので、そこで「完成したら是非」という会話をしたのは覚えています。まだ開発のスケジュールやパブリッシャーさんとの座組とかそんなのすら存在しないタイミングでしたが「やろう」という話はそのときに決めていました。
――新川さんと北尾さまは日本一ソフトウェアに新卒で入った同期とお聞きしました。当時、一緒に仕事をしたときの印象をお聞かせください。
北尾さん:彼も私もまだ若手でしたが、前提として「売ること」をしっかりと彼は考えながらゲームの立ち上げをしていたことはよく覚えています。とは言え、二人とも若気の至りというか、勢いで企画したゲームが多かったのは確かで「たくさん売れそう」かどうかで言えば怪しかった時期もあったと思います。ちょうど私が退職するまでの2年半の間では、最後に完成させた『マール王国の人形姫』が「やりたいこと」と「売ること」のバランスが整ったタイトルになっていたのかなと思います。また当時は本当に「同じ釜の飯を食う仲間」という言葉通り、平日も休日も一緒に飯を食うことも多かったので、いろんな話もしましたね。コミュニケーションや意見交換の密度は異常だったと思います。これは新川さんに限らず、先輩や後輩ともそうでしたね。
――『エトランジュ』のゲーム化はどのような経緯でジェムドロップが制作を手掛けることになったのでしょうか。当時のエピソードで印象的なものがあればお聞かせください。
北尾さん:先程の話の通り、小説を書き始める段階で一番最初にやりましょうという話をしたのが大きかったんじゃないでしょうか。実際、新川さんに聞いた話じゃないので実は別のディベロッパーさんが候補に挙がっていた可能性もあるかもしれませんが(笑)ただ当時はこんなに登場人物が出てくるとは思ってなかったんです。おかげで開発は結構大変でした。シリーズを重ねるごとに登場人物が増えるタイトルはよくありますが、初手から大人数なのは大変ですね(笑)

▲新川氏曰く「ゲーム向けの物語を書いた」とのことだが、北尾氏は次々と増えていく登場人物の数に驚いたのだとか。結果として、広がりのある、賑やかな作品が出来上がった。
――2023年の東京ゲームショウ・ジェムドロップブースには『エトランジュ』のパネルが出展されていました。あの時点で、ゲームを作るプロジェクトは進んでいたのでしょうか。
北尾さん:あの頃はまだゲーム開発は進行してなかったです。パネルに投影されていたエトランジュの等身も大塚真一郎さんのデザインのままでしたし、弊社が導入したモーションキャプチャーシステムのテストモデルとして制作したりしていました。
――なぜ、『エトランジュ』はアクションアドベンチャー+ミュージカルというジャンルになったのでしょうか。ブロッコリーというパブリッシャーにおいては珍しいジャンルだと感じました。初報を聞いたとき、新規IPとしては挑戦的なジャンル選択だと感じました。その他のジャンルは検討されたのでしょうか。
北尾さん:新川さんからはあまりパブリッシャーさんの特性は気にせず、開発したいタイトルを作ろうという前提でお話をいただいていました。弊社もせっかくの新規IPなのでというところで、挑戦的なジャンルで進めました。ミュージカルはマール王国再びじゃないですが、私も新川さんも現代の技術で再度同じ方向性の表現をやってみたかったのが大きいです。

▲2023年の東京ゲームショウ・ジェムドロップブースの様子。『STAR OCEAN THE SECOND STORY R』などが展示されている横にエトランジュの姿もあった。

▲2023年の東京ゲームショウ・ジェムドロップブースでは、新川氏の書いた小説を冊子にしたものが配布された。新川氏曰くこれもジェムドロップ、そして北尾氏の「漢気」によってなされたものだという。
プレイヤーを驚かせる多彩な要素の源泉とは
――プレイしてみると、楽しい要素の「詰め込み」を感じる作品で、アクションも、ミュージカルも、シナリオも楽しめました。こうした「詰め込み」はどのような経緯で生まれたのでしょう。
北尾さん:まずはストーリーに起因する点が大きいです。とにかくシナリオの時点で要素が多い(笑)これは新川シナリオの特徴かもしれません。ゲーム化するにあたってなるべく量や内容は調整しましたが、それでも彼のシナリオの良いところは残したかったので要素は多めになっています。あと我々もサービス精神が旺盛なスタッフが多かったのと「せっかくの新規IPだから」と要素はなるべく取りこぼさないように詰め込んでいきました。頑張って詰め込んでくれたスタッフに感謝です。オープニングムービーとか当初存在しなかったんですが、勝手にスタッフが作ってました(笑)
――SUSHIレーンの発想の源泉についてお聞かせください。
北尾さん:ストーリー展開の関係から、ステージクリアタイプにしようというのは当初から決めていたのですが、バトルの回数やバリエーションを考えるとマップの数が無限に増えていく可能性があったので、マップを再利用しながらも、遊びの内容を大きく変えられる仕組みを作りたいと考えていました。いくつかSUSHIレーンの元になるような企画や試作をしていった結果、いまの形に落ち着きました。いろいろトライアンドエラーを繰り返したので、一緒に付き合って試作したり、考えてくれたプログラマーには感謝しています。名前の通り、発想の源は「まわるお寿司屋さん」で使われている寿司レーンです。皿の上に何が乗るか、誰が取るかなど、要素もゲーム的ですし、プレイヤーの時間経過と並行して移動するというマルチタスクな仕組みもあって有用だと感じました。

▲SUSHIレーンを流れてくるアイテムをうまく活かしてステージクリアーにつなげられたときの達成感はひとしお。
――料理やサウンドなどのバリエーションにも驚かされました。こうした要素は「ここまでバリエーションを作らなくても」と思えるポイントで、驚かされつつ、幸せな気持ちで遊ぶことができました。こうした予想外の物量はどのような経緯で生まれたのでしょうか。
ゲームデザイナー 西村さん:原作がエトランジュと総勢15名の仲間が活躍するとても賑やかな作品でしたので、その「わちゃわちゃ感」をゲームプレイでも体験できるよう目指しました。また「地獄」・「天国」・「現世」と広がる世界や、幕間の「料理」など、原作の魅力的な要素を余すところなく再現したいという想いから、たくさんのバリエーションが生まれました。見た目だけの再現にならないよう、スタッフみんなでワイワイと相談しながらいろいろな仕掛けを詰め込んでいくのは、とても楽しい経験でした。
イベントシーン担当 北尾さん:アクションゲームではあるんですがシナリオの比重がかなり大きい作品でした。これでもコンパクトになった方なんです……。サブイベントを含めると120を超えるイベント、14本のミュージカル。作品の規模を考えるとかなり多いかもですね。料理とシナリオが直結していたり、幕間イベントでシナリオの補足が入るため、この物量はエトランジュの世界観を体験していただくのに必須と判断しました。長めのイベントもダレずに楽しんでいただけるよう、ところどころにシュールなカットを挟んだりで単調になり過ぎないよう気を付けました。たまに差し込まれるミュージカルが良いスパイスになったと思います。ゲームでは拾いきれていない部分もありますので、是非原作の小説も読んでいただきたいです。

▲いろいろな要素が細かく作りこまれており、プレイヤーを退屈させない工夫が満載。
――オンラインで共闘できるおまけモードはどのような経緯で実装されたのでしょうか。1人用でも十分楽しいゲームですが、このタイプの作品にオンライン共闘がつくのは驚きました。ジェムドロップにはノウハウがあったのでしょうか。
プログラマー 樋上さん:共闘モードは制作を進める中で、4人のキャラクターそれぞれを操作して協力できるモードがあれば友達と盛り上がって楽しめるのではないかと追加しました。1人モードをTGS等でプレイアブル出展した際もマルチプレイで遊べると面白そうといったご意見をいくつもいただき、それも後押しとなっています。ノウハウについては、弊社では過去にオンラインプレイのタイトルをいくつか開発していますが、ゲームジャンルや通信方式などがどれも今作とは異なり、参考にできる部分はあまり多くはありませんでした。そのため、試行錯誤しながらの開発になりましたが、また新しいノウハウを貯めることはできたと考えています。

▲オンライン共闘モードは最大4人まで参加可能。後半のステージはかなりのガチ難度となっているので、配信映えもするはずだ。

▲TGSでは2024年、2025年の2年にかけてプレイアブル出展が行われた。
――『エトランジュ』はTGSにも3回出展しています。その際の感想をお聞かせください。
リードプログラマー 林さん:TGSではユーザー様にゲームを遊んでいただき、どのようなゲーム体験をしているかを見ていました。「初見でのゲームプレイ」というのはとても貴重で、「想定より早いタイムでクリアされた」「あまりカメラ操作を使っていない人がいた」「UIの誘導がわかりづらかったか?」などの情報を持ち帰り、それらを改善できるようスタッフで話し合い、製品のクオリティを上げることができたのはとても良かったです。苦労した点としては、「『エトランジュ オーヴァーロード』をより多くの人に知ってもらうにはどうすればいいか?」でしょうか。新規IPということもあり、より多くの人に知ってもらいたい。でも遊んでもらうにしろ、多くの時間は取れない。その限られた時間でユーザー様にどのような体験をしてもらうか? 使用するキャラクターはどうする? 遊んでいただいた方にはどのようなノベルティをお渡しすることでSNSにて発信していただけるだろう?などをスタッフ内で話し合い、TGSに取り組んでいました。
――ミュージカルやBGM制作にて苦労された点や、工夫された点がありましたらお願いします。
作曲 花岡さん:登場人物が多いのでライトモティーフを強く意識しました。主にキャラクターごとと、エトランジュ・スイーツ共通のものとして最初のミュージカルの1フレーズを、関連する場面にひたすら織り込んでいます。複数のミュージカル曲で共通のフレーズを使っているのは原作の文脈通りで、お約束的な振り付けも狙っています。また、雰囲気が変わるたび別BGMを再生しなおしでは流れを壊す場面が多かったので、プログラマーに相談し、メロディを軸にした曲を途中で遷移できる仕組みを実現していただきました。当初は特定のキャラクター用に考えた仕組みですが、心情や場面の変化演出など、多くの箇所で非常に効果的に使うことができました。工夫として挙げたこの2点を基盤として、全般的にお任せいただけたので悩むことなく雰囲気に合わせて劇伴的に作り進めていたら、この曲数になっていた次第です。効果音の方は後半の比重が大きくなりましたが、音楽はミュージカル(原作があるため歌詞待ちは生じなかったとのこと)を含めて先行で作れたので、スケジュール配分も奇跡的にバランスが取れ、制作の苦労はほぼありませんでした。ミュージカルの振り付けやボイス・ボーカル収録への同席など含めて、最後まで熱量高いまま楽しく作り続けることができた幸せな制作でした。また続編で今回のような経験をできたら嬉しいです。

▲楽しく作りづづけられたというミュージカルシーン。物語の流れを切らない工夫が盛り込まれている。
「2」があるならやってみたい
――ブロッコリーさんとは、開発中どのようなやりとりがあったのでしょうか。印象的なエピソードや、北尾さまから見たブロッコリーさんの印象をお聞かせください。
北尾さん:とても自由にやらせていただきました。ゲームの開発をスタートする時点でシナリオとキャラクターデザインは決まっていたので、そのあと我々が入ったのもあり、迷う部分が少なかったのもあるかもしれません。ゲーム内容自体はかなり捻りましたが。バトルで使用しているレーンの名前を決めるタイミングでブロッコリーさんからは「SUSHIレーン」を激押しされまして、我々としては世界観と合う合わないでスタッフも一時期は「うーん」となっていたタイミングもあるのですが、結果的にはそのネーミングで良かったですね。名前を言われてパッと何かイメージできますし、何よりもインパクトが強い。
――新川さんは「2」も作りたいとおっしゃっていました。北尾さま、ジェムドロップとしてはいかがでしょうか。盛り込みたい要素などもあればお聞かせください。
北尾さん:機会があれば是非です。シリーズは続けてなんぼというのがありますし、2や3と重ねていくことで過去の資産やノウハウ、前回やりきれなかったことの積み上げなどが可能になります。何より本作でファンになっていただけた皆さんに向けて続編が続くという結果が一番嬉しいことですし、私も新川さんもチャレンジしたいことの一つです。次回作では何レーンにするか少しずつ考えておきます。
――十年以上の時間を空けて一緒に仕事をした新川氏の印象はいかがでしたか?
北尾さん:彼とは「ラ・ピュセル」や「ディスガイアシリーズ」「流行り神シリーズ」等では一切一緒に仕事をしていないのですが、そういえばこんなシナリオを書く人だったなという印象です。自分の力で世界をひっくり返す話や、やりたい放題感ある話ですね。意外と本人自体は繊細な面もあるのですが、年を追うごとに芯は強くなったように見えますね。
ただ、仕事の上での感覚は思っていたより時間のギャップは無かったです。たった2年半だけ仕事して、そこから三十年近く間が空いても昔の感覚に近かったです。
プロデューサーの新川氏が語った「ゲーム化計画」の物語に対して、今回の開発陣の話からは、その計画が現場でどのように血肉を得ていったのかが見えてくる。北尾さんはもちろん、語っていただいたジェムドロップの開発陣の解答も実にいきいきとしている。誰かに命じられたからではなく、「せっかくの新規IPだから」と自ら要素を足し、頼まれてもいないオープニングムービーをいつの間にか作り上げ、回転寿司のレーンからバトルの仕組みをひねり出す。新川氏の言う「やりたいからやる仕事」は、確かにこの現場で息づいているように感じられた。
プレイヤーが受け取る「詰め込み」の正体は、作り手たちがこの世界を面白がり、少しでも多くを手渡そうとした結果の物量だったことがわかる。
奇しくも、プロデューサーと開発陣は、別々の場所で同じ言葉を口にしている。
それは、「2を作りたい」という言葉だ。
続編という景色が広がるかどうかは、これからの『エトランジュ オーヴァーロード』の売れ行き次第とのことだが、開発陣の心の準備はできているようにも感じられた。
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様々なジャンルのゲームを大人気なく遊びます。
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